こころの手帳(6)リストカット 浜原昭仁

2015年4月9日12時21分 コラムニスト : 浜原昭仁 印刷
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リストカットとは、強いストレス、孤独、寂しさ、焦燥感、怒り、自己嫌悪などのために手首をカッターやかみそりなどで切り裂く行為のことで、特に未婚の女性に多く見られます。たいていのリストカットは「死の手段」ではなく「自己確認」のためのものです。流れる血を見て心を落ち着かせたり、心の痛みを体の痛みに置き換えたりすることで、苦しみを乗り越え、それによって生きている実感を得ています。リストカットだと腕にあとを残し、周りの人々の違和感や拒絶感が強いので、ピアスで代用する人もいます。

リストカットをする人は自己評価が低く、自己嫌悪感を持ちながらも、人の前では良い人間を演じていることが多いです。他人から何かを依頼されると断れなくて無理をしてでも引き受けてしまいます。断ると嫌われて、見捨てられてしまうのではないかと恐れるからです。また、うつ病、摂食障害、境界性人格障害、非行、アルコールや薬物の乱用、自傷や自殺企図などを伴うこともあります。

リストカットの理由は人によって全く異なります。現実感を取り戻そうとして行う人もいれば、逆に現実から逃避するために行う人もいます。あるいは他の人に自分のつらさを分かってほしいために行う人もいれば、逆に自分だけでつらさを耐えるために行う人もいます。死にたいと思って行う人もいれば、生きるために行う人もいます。疎外感や空虚感から抜け出るためだったり、つらい感情を抑えるためだったりします。他の方法では耐えきれず、言葉で自己表現をすることが難しい人が、このような方法から抜け出せずにいます。

リストカットは、体を傷つけるという形で心の叫びが漏れ出ている行為ですが、「なぜ切るのか」という理由が無視され、そのために「リストカットは絶対悪」という偏見が強く、やめたくてもやめられない人にとって大きな罪悪感となり、二重に本人を苦しめています。

治療は、まずその人がどうしてリストカットせざるを得ないのか理解することです。そして、批判せずにその人をありのまま受け入れてあげることです。次に、リストカット以外の方法で自己表現ができるようにアドバイスしていきます。そして、「悲しい」「淋しい」「恐い」という具体的な自分の感情を言葉に表せるように練習していきます。またうつ病などを合併していれば、その病気の薬物療法も同時に行います。

リストカットは、問題を抱えながらも生きたいと願う人々の無言の叫びです。ですから、頭ごなしに否定せず、その人の心の内をきちんと聞いてあげることが大切です。神様は私たちの心の叫びを聞いておられ、その人を救い出そうとされています。

マルコの福音書5章1~20節には、ゲラサ人の地にいた、自分を傷つけて墓場に住んでいた男のことが書かれています。孤独の中で、自責、劣等感、憎しみ、恨み、後悔、絶望、恐怖など、あらゆる否定的な思いに圧倒されていたに違いありません。誰も彼を助けることができませんでしたが、嵐の湖を渡って、イエス様がこの一人の男を救い出すために来て下さいました。「そして、イエスのところに来て、悪霊につかれていた人、すなわちレギオンを宿していた人が、着物を着て、正気に返ってすわっているのを見て、恐ろしくなった」(マルコ5:15)。イエス様によって、私たちは平安の内にくつろげるようになるのです。

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浜原昭仁

浜原昭仁(はまはら・しょうに)

金沢こころクリニック院長。金沢こころチャペル副牧師。1982年、金沢大学医学部卒。1986年、金沢大学大学院医学研究科修了、医学博士修得。1987年、精神保健指定医修得。1986年、石川県立高松病院勤務。1999年、石川県立高松病院診療部長。2005年、石川県立高松病院副院長。2006年10月、金沢こころクリニック開設。著書に『こころの手帳―すこやかに、やすらかにー』(イーグレープ)。

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