こころの手帳(10)認知行動療法① 浜原昭仁

2015年6月4日23時48分 コラムニスト : 浜原昭仁 印刷
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認知行動療法とは、その人の物事のとらえ方のパターンを変えることによって、うつや不安を治す治療方法です。私たちは「辛い出来事」が起こることで、「落ち込む」と思ってしまいますが、これは正しくありません。何か悪い出来事があって、そのことを「悲観的に考える」ことによって初めて、悲しさや落ち込みの感情が沸き起こります。

たとえば大きな借金をしてしまった時、「もう自分の人生は終わりだ」と思うと、生きていく気力が失せます。あるいは試験で30点しか取れなかった時、「どうせ自分なんか何をしてもダメな人間だ」と思うと悲しくなります。

ところが、考え方を少し変えるだけで辛い感情が起こりにくくなります。試験で30点しか取れなかった時でも「たまたま勉強していなかった箇所が試験に出た」と考えれば、それほど落ち込まず、今度は十分に準備しようと思えるかもしれません。

マイナスの感情が起こりやすいその人の固定観念を変える治療方法とも言えます。特にうつ病の治療と予防に効果のあることが知られています。さらに病気の人ばかりではなく、消極的な性格を変えたい、もっと楽天的に生きたいと願う人の助けにもなります。

認知行動療法は自分を変えていくということですが、「私のこの性格は絶対に変えられません」と断言する方に時々出会います。人間の性格や考え方はその人の遺伝子と、生い立ちやしつけなどのこれまで生まれ育ってきた環境に支配されていて、変えることができないと信じている人が少なくありません。これはフロイトの精神分析やスキナーの行動主義による誤解です。

フロイトは人間の無意識に蓄積された幼少時の様々の心の傷が、その人の人生を運命的に縛ってしまうと考えました。スキナーは人の行動は遺伝と環境によって決定されると考え、外から見えない「心」や自由意思のような存在を軽視しました。

これらの20世紀を支配してきた思想は、信仰を否定しただけでなく、人間の尊厳ともいうべき自由意思の力を危うくし、運命という大波に翻弄される無力感を多くの人の心に植え付けたのです。

最近の研究で分かってきたことは、両親のしつけや養育態度がその子どもに与える影響は限定的なものであり、遺伝的な影響も人の性格のすべてではないということです。人はもし変わりたいと願うなら、変わることができるのです。

もちろんイエス・キリストが根本的にあなたを変える最大の力であり、命です。

「だれでもキリストのうちにあるなら、その人は新しく造られた者です。古いものは過ぎ去って、見よ、すべてが新しくなりました」(Ⅱコリント5:17)

人生とは、聖霊と御言葉によって私たちが日々変えられていく道程ですが、御言葉を自分の生活に適用していくという過程は、認知行動療法に通じるものがあります。特にクリスチャンの場合、聖書の御言葉を用いて認知行動療法を行っていくと、治療効果が高まります。

さて、心の働きの一つに「自動思考」と呼ばれるものがあります。ある状況で、ある感情を伴って、自動的、習慣的に自然と頭に浮かんでくる考えやイメージのことで、ふっと心に浮かび、スーッと消えていくことが多いので、気が付かないこともあります。これは、自分の意思とは無関係に自動的に浮かんでくるように感じられるので、「自動思考」と呼ばれています。

認知行動療法を行うには、まずこの「自動思考」に気付く必要があります。ある感情が沸き起こった時、今、自分の心にはどんな考えがよぎっただろうかと自己をモニターするのです。

「自動思考」には適応的な思考と非適応なものがあります。適応的なものは物事を多元的に見ることができて、現実にそっており人間そのものを道徳的に評価するところがありません。しかし、非適応的なものは論理的、理性的でないのに、道徳的に人を裁く内容が多く、不合理で役に立たないものです。それなのに、何の疑いもなく当然のこととして受け入れられています。時に感情や行動の制御をできなくします。認知療法では、このような不合理な考え方のパターンやくせの一部を修正して、より常識的な視点から物事を見るトレーニングを続けていきます。

非適応な思考は次のような特徴があります。

  1. 抽象的で大ざっぱ「ゆううつだ、怖い、どうしようもない」
  2. 絶対的で道徳的「絶対、本当に、すべき、してはならない、しないといけない」
  3. 柔軟性がなく、普遍的、全般的「いつも、かならず、みんな」
  4. 人格そのものを判断する「やっぱりだめな性格だ」
  5. 問題が取り返しがつかないものと考える「仕事に失敗したらもう終わりだ、手の施しようがない」

先に試験で30点しか取れなかった例で、「どうせ自分なんか何をしてもダメな人間だ」という部分が「自動思考」です。とても極端な「思い込み」ですが、自分では気付かないことも多く、このような考えが生み出した「悲しい」という感情だけが意識されます。

人は誰でも、心の中にいるもう一人の自分が、別の自分に語りかけています。励ましたり、慰めたり、時には叱ったりして、いろいろな言葉を投げかけています。うつの人は、こうした心の中に起きている会話のバランスが崩れていて、自分に対して極端に厳しい態度をとっているので、しかったり、皮肉ったりしていることが多く、自分ばかり責めているのです。

簡単に言えば、自分が自分に対して優しくなれればよいのです。自分を大切にできればよいのです。神様は「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している」(イザヤ43:4)とおっしゃってくださいました。「あなたが何もできなくても、存在してくれているだけでわたしはうれしい」という神の価値観が示されています。神様があなたを見ておられるように、もう一人の自分があなたを優しい目で見るようにすることが、認知行動療法の極意です。(続く)

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浜原昭仁

浜原昭仁(はまはら・しょうに)

金沢こころクリニック院長。金沢こころチャペル副牧師。1982年、金沢大学医学部卒。1986年、金沢大学大学院医学研究科修了、医学博士修得。1987年、精神保健指定医修得。1986年、石川県立高松病院勤務。1999年、石川県立高松病院診療部長。2005年、石川県立高松病院副院長。2006年10月、金沢こころクリニック開設。著書に『こころの手帳―すこやかに、やすらかにー』(イーグレープ)。

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