人身売買禁止ネットワーク(JNATIP=ジェナティップ)が主催する院内集会が26日、衆議院第2議員会館で開催された。「性的人身取引が野放しになっている日本」をテーマに、子どもの性的搾取や路上売春などの問題に取り組む支援団体の代表者らが、実際の事例を紹介しながら、日本における性的人身取引の実体を報告した。
JNATIPは、人身売買(人身取引)の根絶を目指すNGOや研究者、法律家らのネットワークとして、2003年に設立された。構成団体には、ゾエ・ジャパンや日本キリスト教婦人矯風会、チャイルド・ファンド・ジャパン、救世軍など、キリスト教関係の団体も多い。この日は、ゾエ・ジャパン相談支援マネージャーのオズボーンゆりさん、レスキュー・ハブ理事長の坂本新さん、ぱっぷす理事長の金尻カズナさんの3人が報告した。
世界5カ国で活動する国際NGOの日本支部であるゾエ・ジャパンは、主に18歳以下の未成年を対象に活動を行っている。10代までの若者に特化した性被害の相談窓口は、LINE、電話、相談フォームの3つの方法で受け付けており、毎週のように全国の子どもたちからSOSの声が届く。
子どもの性的搾取は、CSEC(Commercial Sexual Exploitation of Children=シーセック、児童の商業的性的搾取)と、CSAM(Child Sexual Abuse Material=シーサム、児童性的虐待コンテンツ)の大きく2つに分けられる。JKビジネスや援助交際、パパ活などがCSECに当たり、リベンジポルノやセクストーション(性的脅迫)などがCSAMに当たる。

CSAMは法律用語では児童ポルノとなり、オズボーンさんによると、一部のポルノサイトでは、成人ポルノに比べると、30~50倍近い価格で売買されていた。また、売買の現場は、匿名性の高い闇ネット空間「ダークウェブ」のような場所ばかりではなく、誰もが利用できるSNSや会員制サイトなど、身近な場所に広がっているという。
CSAMの加害者はまず、ターゲットの子どもを手なづけることから始める。これは「グルーミング」と呼ばれ、「優しい大人の仮面をかぶって近づき、子どもと信頼関係を築き、逆らえない関係に持ち込んだ後に加害行為に及ぶのです」とオズボーンさんは説明する。ゾエ・ジャパンが実際に相談を受けた事例では、12歳の女子中学生が、学校の教頭からグルーミングを受け、性的搾取を受け続けていたケースがあった。
最近は、CSAMの被害として、性的画像を送信するよう誘導したり、強要したりするセクストーションの被害が急増している。加害者は多くの場合、偽のプロフィールを使ってSNSなどでターゲットに近づく。そして、グルーミングを行い、個人情報を聞き出すなどして逃げられない状態にした上で、性的画像を送信するよう脅迫したり、金銭を要求してくるのだという。
中には、ハッキング用のアプリをダウンロードさせ、スマホに保存された連絡先を抜き取った上で、被害者の性的画像をこれらの人々に送ると脅迫してくることもある。また、SNSで最初のDM(ダイレクトメッセージ)が送られてきてから、わずか1時間ほどで脅迫してくるケースもある。「非常に速いスピードで、子どもたちが次々にターゲットにされ、被害に遭っています」。オズボーンさんはそう言い、新たな規制の必要性を訴えた。

レスキュー・ハブは、主に東京・新宿の歌舞伎町で、風俗や売春に従事する女性らを対象に支援活動を行っている。特に昨今は、大久保公園周辺などで売春を目的に客待ちをする「立ちんぼ」の女性が増え、メディアで取り上げられることも多い。こうした売春に従事する女性たちは、自身の行為が違法であることを知っているため、犯罪被害に遭っても警察や公的機関に相談できず、泣き寝入りするケースがほとんどだという。そのためレスキュー・ハブは、特に売春従事者に対する支援に力を入れている。
売春問題と根深く関わっているのが、ホストクラブの売掛金(ツケ払い)問題だ。悪質なホストクラブが客の女性に対し、到底自力で支払うことができない高額な売掛金を抱えさせた上で、風俗や売春、AV出演などを斡旋することが横行している。
レスキュー・ハブに相談しにきた19歳の女性は、自身の担当ホストから、誕生日の記念として700万円のシャンパンタワーを頼まれていた。当然自力で用意することはできないため、海外での出稼ぎ売春を勧められていたという。
こうした女性たちは、家族から虐待を受けるなど、その生い立ちからさまざまな困難を抱えているケースが多い。本人たちにとって、ホストクラブが唯一の居場所になっていることもある。こうした背景も含め、「一つの社会問題になっていると感じる」と坂本さんは言う。
また、現在の売春防止法では、売春目的で路上に立つことは処罰の対象になるのに対し、買春に対しては罰則は定められていない。「脆弱(ぜいじゃく)な状況にある女性を、より脆弱な状況に追い詰めている」。坂本さんはそう言い、買春に対する罰則の制定や、ホストクラブの売掛金を取り締まる必要性を訴えた。

ぱっぷすは、「性的搾取に終止符を」をミッションに掲げ、さまざまな活動を行っている。金尻さんは、「性的搾取は需要と供給という経済原理と、それを支えるシステム、そしてそれを容認する社会の上で成り立っている」と指摘。日本には売春防止法があるものの、さまざまな方法により事実上、売買春が非犯罪化・合法化されている現状があるとし、特に若年層がその犠牲になっていると話した。
ぱっぷすが東京都内の繁華街に設置する居場所拠点では、妊娠検査薬が日々大量に消費されていく。避妊してもらえないケースがほとんどで、女性たちは常に、望まない妊娠に不安や恐怖を感じている。さらに、こうした女性たちに対し、ヤクザが海外製の緊急避妊薬を、病院で処方される場合の半値以下で販売しているという。金尻さんは、こうした現状について「福祉の敗北ではないかと思う」と話した。
ぱっぷすでは、自立を「孤立と依存からの回復」と定義し、支援を行っている。性的搾取をなくすには、「とにかく予防。被害の予防ではなく、加害の予防」と金尻さんは強調する。1人の加害者に対し、被害者は潜在的に150人もいることが分かっているとし、加害者を処罰していくことの重要性を話した。そのためには法整備が必要となる。また、「誰もセックスを買わなければ、この性的搾取の問題は明日にでも終わる」と言い、性的搾取を容認している現在の文化や価値観を変えていくことの大切さも話した。

院内集会には、国会議員8人を含め、60人以上が参加した。最後には、性的人身取引の防止と撲滅のために、法規制や相談・支援の強化、教育・啓発の実施などを求める緊急要請書を採択した。要請書は今後、法務省や厚生労働省、こども家庭庁などに提出する。