シリアの首都ダマスカスにある聖エリアス正教会で、現地時間22日午後5時ごろ、夕方の礼拝を狙った自爆テロがあり、25人が死亡した。現地のキリスト教徒らは、今後も教会を狙ったテロが続くことへの懸念を強めている。
AP通信(英語)などの報道によると、襲撃犯は自爆ベストを爆発させる前、信者らに向けて発砲したという。教会内には当時、350人以上がおり、60人以上が負傷した。シリアで教会を狙ったテロが発生するのは、数年ぶりとされる。
22日の時点で犯行声明を出したグループはなかったが、シリア内務省は予備調査の結果として、過激派組織「イスラム国」(IS)による犯行の可能性が高いと発表した。しかし、米シンクタンク「ワシントン近東政策研究所」(英語)によると、24日になって、あまり知られていないイスラム組織「サラヤ・アンサール・アル・スンナ」が犯行声明を発表した。
アンティオキア総主教庁は声明(英語)で、「危険な悪魔の手が(教会を)襲った」と述べ、襲撃は「凶悪な行為」で「恐ろしい犯罪」だと強く非難した。その上で、教会などを狙った襲撃に対し、当局が「全責任」を負うことを要求。キリスト教徒らに対する今後の襲撃や、「教会という聖域の侵害」を防ぐための具体的な行動を求めた。
国際人権団体「世界キリスト教連帯」(CSW、英語)によると、聖エリアス正教会は、ダマスカスの最も貧しい地区の一つに位置していた。情報筋がCSWに語ったところによると、当局は事件を受け、ダマスカスの教会やキリスト教徒居住区に警官を配備し、警備を強化したという。

CSWのスコット・バウアー最高責任者(CEO)は、次のように述べた。
「私たちは、この凶悪な襲撃の犠牲者のご遺族と愛する人々に心から哀悼の意を表し、負傷者の迅速かつ完全な回復を祈ります」
「私たちはシリア政府の対応を称賛し、シャラア暫定大統領に対し、宗派間の扇動に迅速かつ断固とした態度で対処し、全てのシリア国民が宗派間の暴力から保護され、法の下で平等な扱いを受けられるようにすることを求めます」
また、バウアー氏は国際社会に対し、「重要な移行期」にあるとし、シリアへの支援を呼びかけた。その上で、「シリア政府は、移行期の正義のプロセスを加速させ、宗派主義や異なるコミュニティーグループ間の分裂に対処するための国民対話のイニシアチブを、これ以上遅滞なく開始するよう奨励されなければなりません」と続けた。
一方、キリスト迫害監視団体「オープンドアーズ」(英語)の現地パートナー団体の活動責任者であるシリア人キリスト教徒の男性は、当局の物言いに懐疑的だ。男性は当局について、「シリアの全ての人の権利を守るふりをしている」だけだと主張。「イスラム化の圧力はシリアの至る所にあります」と話す。
今回の襲撃は、シリア国内では少数派のキリスト教徒らに恐怖心を与えている。「今回の事件によって、キリスト教徒や教会の指導者たちは、次の襲撃を待ち構えて緊張した状態で生活することになるでしょう」と男性は続けた。「国際社会と殉教者たちの血が、シリアの残りのキリスト教徒を擁護することを私たちは祈ります」
ダマスカスに住む若いキリスト教徒の女性は、オープンドアーズに対し、「ここに私たちの生活が残されているという希望を全て失いました」と語った。

オープンドアーズの現地パートナー団体は、シリア国内の正教会を支援するとともに、今回の襲撃の被害を受けた人々にカウンセリングを提供している。
現在のシリア暫定政府は、国際テロ組織「アルカイダ」の分派として始まったイスラム組織「シャーム解放機構」(HTS)の強い影響を受けている。HTSは昨年12月、親の代から半世紀以上にわたって圧政を敷いてきたバッシャール・アサド前政権の打倒に関与した主要勢力の一つである。
イスラム主義を起源とするにもかかわらず、暫定政権は宗教的少数派の権利を尊重するとしている。しかし、政権内部の過激派をどの程度抑制できるのか、また、国内各地で活動する多数の武装グループを統制できるのかについては疑問が残る。
シリアは、キリスト教徒に対する迫害がひどい国をまとめたオープンドアーズの「ワールド・ウォッチ・リスト」(英語)で、18位にランクされている。