世界平和統一家庭連合(旧統一協会)の田中富広会長(69)は9日、東京都内の教団本部で記者会見を開き、同日付で辞任すると発表した。後任には、元副会長でアジア太平洋大陸会長の堀正一氏(55)が就任した。堀氏は親が信者の2世信者。田中氏は、責任役員も全員が辞意を表明しているとし、今後は堀氏を中心とした新体制になると話した。
田中氏は辞任を決めた理由について、1)被害を訴える人々に対する道義的責任、2)宗教法人の解散命令を巡る抗告審の審議が全て終了したこと、3)教団改革により次世代の指導者を迎える環境が整ったこと、の3点を挙げて説明した。
道義的責任については、「私たちの活動が一部の方々に深いご心痛を与えたことは、決して軽視できません」とし、「その責任を真摯(しんし)に受け止め、社会からの信頼回復に向けた一歩を踏み出すため、辞任を決意いたしました。改めておわびさせていただきます。申し訳ありませんでした」と謝罪した。
田中氏は、2023年の記者会見でも「おわび」を表明していた。しかし、「被害者への謝罪という認識か」と問う記者からの質問に対しては、「被害者、被害金額も不明確」などとし、「被害者」や「謝罪」という言葉を自ら使用することはしていなかった。
この日の会見でも、同様の質問が出た。田中氏は、刑事的責任や賠償につながる民事的責任という枠組みのものではなく、これらの法的枠組みを超えて「謝罪の意を込めおわび」するものだと説明。献金の返還などを求める元信者らとの集団調停に応じていることや、教団と関係のない外部弁護士を中心とした補償委員会を立ち上げたことなども、法的枠組みを超えた取り組みだとし、従来の方針を転換したものであることを話した。
また、元信者らが起こした訴訟の訴状などを読む中、「道義的な立場において、申し訳ないと思うことは多々あります」と吐露。献金が家計や家庭事情に及ぼす影響について、「もう少し配慮をしてもよかったのではないかと思う部分もないわけではない」と話し、教団の代表者として道義的責任を感じたことを話した。
教団は現在、「指定宗教法人」に指定されており、さらに「特別指定宗教法人」に指定された場合、被害者は法人の財産目録などの写しを閲覧可能となる。一方、田中氏は、被害者の定義が曖昧だと指摘。「どんな人も被害者といえば、被害者になってしまう。そうすれば、どんな人も教団の資産を閲覧できる。それが、私たちが一番危惧しているポイント」だとし、法的枠組みにおいては「被害者」やそれを想定する「謝罪」という言葉を慎重に使用していることを話した。
会見では、教団が2009年に残余財産の帰属先として決めていた宗教法人「天地正教」に関する質問も出た。田中氏は、当時の決定は破棄しておらず、現在も有効だと説明。一方、天地正教は、行っている宗教行事も異なり、活動も別々に展開しているとし、完全に独立した宗教団体だと話した。
仮に教団が解散になった場合も、清算手続は数年にわたるだろうとし、教団の財産が解散後直ちに天地正教に移転されることは「全く無理」と否定。天地正教が所在する北海道帯広市への本部移転計画も、現時点では「みじんもない」と強く否定した。
現在、奈良地裁で進行している安倍晋三元首相銃撃事件を巡る裁判については、山上徹也被告(45)の動機は「解明し切れていない」とし、一つではなく、さまざまな複雑な要因があったと思うと述べた。一方、事件の背景に教団があったことは事実だとし、「しっかりと向き合っていかなければいけない」と話した。また、山上被告の母親に対しては、家族関係の修復に向けた長期的なサポートをしていく考えを述べた。
田中氏の記者会見を受け、旧統一協会の被害対策弁護団は同日、村越進弁護団長による談話を発表した。
村越氏は、田中氏の謝罪が誰に対し何を謝罪しているのか「必ずしも明確ではありません」としつつ、教団の従来の主張を撤回するものであれば、現在教団が起こしている訴訟を取り下げ、全ての被害者に真摯に向き合い、賠償を行うべきだと指摘。「公正な司法手続きにおいて、早期の解決と全被害者の救済に取り組むことこそが、社会的な信頼回復につながる唯一の道であることを理解すべきです」とした。

















