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給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」

2025年12月16日22時29分
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関連タグ:マラウイカトリック教会
給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」+
学校給食を心待ちにするマラウイの子どもたち(写真:せいぼじゃぱん)

アフリカ南東部に、その温和な国民性から「アフリカの温かい心」と呼ばれる内陸国がある。南北に細長い国土は日本の約3分の1で、その多くが高原地帯に位置するマラウイだ。

もともとは英国の植民地だったが、1964年に独立。それ以来、一度も対外的な戦争や大規模な内戦を経験していない平和な国。しかし、労働人口の約8割は農業や農業関連事業の従事者で、世界最貧国の一つに数えられる。

「せいぼじゃぱん」の名称で活動するNPO法人聖母は、そんなマラウイの貧困サイクルを止めようと、10年前から現地の学校給食を支援する活動を行っている。理事長は、現在33歳の山田真人(まこと)さん。スタッフは、アルバイトやインターン、ボランティアなどさまざまな形態があるが、いずれも10〜20代の若者たちだ。

山田さんはNPO法人の理事長でありながら、英国の通信サービス会社であるモベル社の社員でもある。モベル社は、主に海外旅行者向けに携帯電話サービスを提供する会社だが、チャリティー事業も大きな柱としている。マラウイでは主に職業訓練支援を展開しており、その中から生まれたのが、学校給食支援を行う「せいぼ」だ。

「ビジネスでチャリティーをする」

幼い頃は神父になることが夢だったという山田さん。上智大学の英文学科を卒業した後、神学科に編入し、一時はカトリック修道会の志願院で生活をしていたこともある。その神学科在籍中に転機が訪れる。大学で開かれたイベントをきっかけに、モベル社の社長であるトニー・スミスさんと出会ったのだ。

給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」
モベル社の社長であるトニー・スミスさん(左)と山田さん(右)(写真:同上)

実業家でありながら、熱心なカトリック信者でもあるスミスさんは、会社経営を通じて得た利益を積極的にチャリティー事業に投じていた。「Doing Charity by Doing Business(ビジネスでチャリティーをする)」。このスミスさんのモットーが、山田さんの人生も方向付けることになった。

カトリックのアイデンティティーとビジネスをつなげる働きをしたいと考えていた山田さんにとって、スミスさんはまさに自身の考えを体現しているように見えた。スミスさんと出会ってから2カ月後、まだ神学科に在籍中だった2017年にモベル社に入社。それとほぼ同時期に、せいぼにも関わるようになった。

子どもたちの空腹を満たし、教育の機会を支えるために

スミスさんはマラウイを初めて訪問したとき、何が最も必要なのかを現地の人々に尋ねた。返ってきた答えは、食べ物やお金ではなく「若者たちの仕事」だった。その答えに感銘を受けたスミスさんは2007年、モベル社のチャリティー事業として、マラウイ南部の貧困地区に職業訓練センター「ビーハイブ」(「ミツバチの巣」の意味)を開設する。

ビーハイブは現在、職業訓練を兼ねた幼稚園から専門学校までを備え、さらに現地の人々の就労の場として、ITを中心としたビジネスを展開するまでに成長している。そのビーハイブの発展の最中、2015年に大洪水がマラウイ南部を襲った。110万人以上が被災し、30万人以上が避難を余儀なくされる大災害で、もともと高かった乳幼児の死亡率はさらに上がった。

給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」
マラウイの学校給食は、トウモロコシと大豆を粉にして煮た「パーラ」と呼ばれるおかゆが一般的。せいぼでは、ボランティアたちが、中でもビタミンとミネラルを多く含む「リクニパーラ」を提供している。リクニパーラは、ボランティアたちが毎朝学校に集まり、調理している。(写真:チソモCBCC)

若者たちに仕事の機会を提供するだけでなく、別の支援も必要ではないか。スミスさんを中心としたビーハイブのボランティアたちは、支援の再検討を行った。そうして始めたのが、子どもたちの空腹を満たすとともに、教育の機会を下支えする学校給食支援だった。

最初は保育園への給食支援を始め、その後、日本の青年海外協力協会(JOCA)がそれまで行っていたプロジェクトを引き継ぐ形で学校給食支援をスタートさせた。現在は、ビーハイブのかつての敷地内に現地事務所を設置し、毎日約1万7千食の温かい学校給食を子どもたちに届けている。

マラウイと日本の2つの「せいぼ」

せいぼの働きは、現地で子どもたちに学校給食を提供する「せいぼマラウイ」と、そのための資金を日本で集める「せいぼじゃぱん」の2つに分かれる。

給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」
教育事業の一環として、東京都内の高校で講演を行うせいぼじゃぱんのスタッフら(写真:せいぼじゃぱん)

せいぼという名称は、現地で立ち上げ時から深く関わっている日本人協力者の出身校がカトリック系で、校名に「聖母」が入っていたことにちなむ。現地の人々が感謝の思いを込め、名付けたという。また、学校給食を通じて、多くの子どもたちの成長を助ける「聖なる母」という意味も込められている。

学校との連携で広がるコーヒー販売

日本での資金集めは現在、マラウイ産のコーヒー販売が中心となっている。山田さんが協力を依頼しにコーヒー生豆の輸入卸売会社を訪問したところ、麻袋に入ったコーヒー生豆60キロを現物で頂いたのが始まりだった。初めは上智大学の同窓会などのつてを頼りに、寄付の対価としてコーヒーを贈っていた。60キロ全てを使い切ると、また60キロを頂いた。そうこうしているうちに取引量が増え、仕入れ契約を結ぶまでになった。

給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」
せいぼじゃぱんが販売するマラウイ産コヒー「ワーム・ハーツ・コヒー」(写真:同上)

コーヒーを用いた資金集めが軌道に乗り始めたのは、日本の学校との連携がきっかけだった。せいぼじゃぱんは、日本の子どもたちに社会貢献活動を知ってもらう教育事業も展開している。幼稚園から大学までの各学校や学習塾などで授業・講演を行っており、こうした活動を通じて、コーヒーの売り上げの一部が寄付になる取り組みが知られていったのだ。

現在、連携している学校は約70校あり、その半数はキリスト教系だという。生徒や学生たちが課外活動の一環として自ら企画をし、保護者会や文化祭などの行事などで販売するケースが多い。多いところでは、年間400万円以上も売り上げる学校もあるという。

給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」
静岡市内でマラウイ産コヒーの販売イベントを行うの高校生たち(写真:同上)

マラウイで行っている学校給食支援は、年間約2千万円の資金を必要とする。仕入れや焙煎(ばいせん)、発送などで必要となる経費を除くと、コーヒーの売り上げから支援に回せるのは現在、年間600万円ほど。山田さんは、今後5年で全額をまかなえるように売り上げを拡大したいと考えている。

「教育のグローバル・ビレッジ」の一員に

山田さんにとって、せいぼの働きは教会が発するメッセージをより具体的に示すものでもある。「教会が発するメッセージはある意味、抽象度が高いところがあると思います。NPOの活動は社会性があり、経済的な知識も身に付けることができ、ミッション(宣教)にもつながります」

給食で子どもたちに笑顔と教育の機会を 最貧国マラウイを支援する「せいぼじゃぱん」
バチカン(ローマ教皇庁)の文化教育省が主催して10月に開催された「教育に関するグローバル・コンパクト」の国際会議。せぼじゃぱんも正式招待を受けて参加した。左から2人目が山田さん。(写真:同上)

せいぼの働きを示すキーワードとして、山田さんは、前ローマ教皇フランシスコが語った「教育のグローバル・ビレッジ(地球村)」を挙げる。前教皇が主導した国際的な教育改革の呼びかけ「教育に関するグローバル・コンパクト」(コンパクトは「協約・合意」の意味)の中で語った言葉だ。

「教育のグローバル・ビレッジとは、世界全体が教育の場になることを言い表した言葉です。私たちの活動は、子どもたちに学校給食を届けることで、教育につながっています。その活動に個人や企業、学校がつながることで、彼らもまた教育につながることができるのです。私たちの活動を通じて、多くの人が、教育のグローバル・ビレッジの一員になってもらえればと願っています」

◾️ せいぼじゃぱん(NPO法人聖母)のホームページ
◾️ せいぼじゃぱんが販売するコーヒー「ウォーム・ハーツ・コーヒー」

関連タグ:マラウイカトリック教会
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