日本キリスト者オピニオンサイト「SALTY(ソルティー)」主催の特別集会「信教の自由を脅かす解散命令」が11日、お茶の水クリスチャン・センター(東京都千代田区)で開催された。世界平和統一家庭連合(旧統一協会)に対する解散命令について、政府による突然の法解釈の変更など、さまざまな問題点を指摘し、信教の自由の観点から異議を唱える集会で、約80人が参加した。
集会では冒頭、ソルティー主筆の西岡力氏(北朝鮮による日本人拉致被害者支援団体「救う会」会長、麗澤大学特任教授)があいさつを述べた。プロテスタントのキリスト教徒である西岡氏は、旧統一協会について、かつては「世界基督教統一神霊協会」と、団体名に「基督教(キリスト教)」が入り、文化庁発行の『宗教年鑑』ではキリスト教系の宗教団体に分類されているものの、その教義は明らかにキリスト教とは違い、「異端」とされてきたと説明。キリスト教徒の立場からすると、「率直に言って友好的になりがたい宗教」であり、伝道の対象でもあると話した。
それでも旧統一協会の解散命令に異議を唱えるのは、信教の自由が大前提としてあるからだと説明。キリスト教を信じる自由が認められているのと同じように、旧統一協会の教えについても信じる自由が認められる必要があると話した。その上で、安倍晋三元首相の暗殺事件後に急速に広がった旧統一協会批判は、明らかに信教の自由を脅かすものだと述べた。
特別講演では、単立つきしろキリスト教会(沖縄県南城市)牧師の砂川竜一氏が話をした。米兵と日本人女性の間に生まれた砂川氏は、つらい幼少期を過ごすが、10代の頃、米国で再会した父親を赦(ゆる)すように導かれ、その後牧師として献身。タクシーの運転手をしながら、教会を開拓した。
もともとは旧統一協会というだけで全てに否定的だったが、考えが変わったのは、月刊誌「正論」(2023年12月号)に掲載された西岡氏と、ソルティー論説委員の中川晴久氏(主の羊クリスチャン教会牧師、東京キリスト教神学研究所幹事)による対談を読んでからだった。

旧統一協会は異端ではあるものの、現在の動きは、国も関与する宗教弾圧と見る視点が与えられ、民主主義の危機と思うようになった。そして、旧統一協会の解散の後に待っているのは、キリスト教会に対する迫害だという考えが強くなっていった。
また、脱会活動として、旧統一協会の信者らを拉致監禁していた牧師たちがいたことにも心を痛めた。善意で始めたものだと思うとしつつも、その点については非を認めて謝罪すべきだとし、「その先に日本の復興、日本のリバイバルがあると信じます」と話した。
集会ではその後、西岡、中川両氏による対談が行われた。
西岡氏は、安倍氏の暗殺事件後に起こった旧統一協会批判について、新事実が明らかになったことによるものであれば正当だと思うとしつつも、当時はまだ容疑者の動機を含め、事件の検証が全く行われていない状況だったと指摘。そうした状況で、日本中が旧統一協会批判一色になったことには、恐怖を覚えたと話した。
旧統一協会は、先祖の因縁などを語り、壺や印鑑などを高額で売る霊感商法により多くの被害者を出し、特に1980年代から2000年代にかけ、大きな社会問題となった。一方、09年には、信者らに法令遵守の徹底を求める「コンプライアンス宣言」を出し、その後は被害が減少したとしている。
被害の減少について、中川氏は、旧統一協会の被害者救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の代表世話人である山口広弁護士も認めていると指摘。山口氏が、ちょうど暗殺事件が発生した22年7月の「消費者法ニュース」で、同連絡会に寄せられる旧統一協会関連の相談件数が減っていると述べていることを挙げた。
消費者庁の発表によると、同庁に寄せられた旧統一協会関連の相談件数は近年減少傾向にあり、暗殺事件が起こる前年の21年度は27件だった。同年度の相談件数は全体で約84万7千件に及び、中川氏は「(旧統一協会関連の相談件数は全体の)0・0032%に過ぎない」と強調した。
なお、その後の発表によると、暗殺事件が発生した22年度は612件に急増し、23年度は118件だった。また、最新の発表で、24年度は54件とされている。

西岡氏は、自身も独自の取材などを通じて深く関わってきた慰安婦問題に言及しつつ、「世論という言葉がある。日本では特にワイドショーで『世論が怒っている、世論が納得しない』と(言う)。でも、英語では世論は複数形、パブリックオピニオンズ。いろいろな意見がある。一つではない」と指摘。世論を一つと考え、それから外れる言動をすることを恐れる日本社会の特性が、旧統一協会に対する一様な批判につながったのではないかと分析した。
宗教法人法は、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をした場合、宗教法人の解散を命じることができると定めている(第81条)。この内の法令違反については、過去に解散を命じられた2件(オウム真理教、明覚寺)ではいずれも、刑法違反が根拠とされた。
そのため、幹部らが刑法違反に問われていない旧統一協会に対する解散命令について、政府はこれまで慎重な立場を取ってきた。岸田文雄首相(当時)も当初は従来の立場に従い、22年10月18日の衆議院予算委員会では、解散命令の請求要件に民法上の不法行為は含まれないと述べていた。しかし、翌19日の参議院予算委員会では、「改めて政府の考え方を整理した」とした上で、民法上の不法行為も含まれ得ると答弁。法解釈をわずか1日で変えた。
西岡、中川両氏は、適正な手続きを経ておらず、議事録も残っていないとして、この突然の変更を批判。中川氏は「民主主義の危機だと言うのは当然」と話した。
盛山正仁文部科学相(当時)は1年後の23年10月、旧統一協会に対する解散命令請求を正式に決定する。この決定の直前には、宗教者や大学教授ら19人の委員で構成される文部科学相の諮問機関「宗教法人審議会」が開かれ、請求について全会一致で「相当」と答申している。
西岡氏は、委員の中に自身もよく知るキリスト教の牧師らがいたことに触れ、答申に驚くとともに、恐怖を覚えたと吐露。法解釈の変更に対する危惧などを率直につづった自身のコラムにも言及しつつ、一連の動きは「人民裁判」だと批判した。

請求を受け審理を行っていた東京地裁は今年3月、解散命令を出す決定をした。時事通信によると、鈴木謙也裁判長は決定で、「不法行為に当たる献金勧誘などは、約40年の長期間にわたり全国的に行われた」とし、被害規模は1559人、計約204億円に上ると認定。コンプライアンス宣言後も不法行為は続き、看過できない被害が生じているとして、解散が必要だとした。
これに対し、旧統一協会は4月、決定を不服として即時抗告。現在、東京高裁で審理が続いている。
旧統一協会は、抗告理由書の要旨などをホームページで公表。コンプライアンス宣言以降も不法行為が継続しているとする地裁決定は、「訴訟上及び訴訟外の和解案件から当法人の不法行為を推測することで大幅に被害額を水増し」しており、宣言についても矮小(わいしょう)評価していると主張している。その上で、一つ一つの和解案件を詳述することで、推測の誤りを論証するとともに、宣言の徹底と実効性について改めて説明したとしている。
集会には、旧統一協会の信者らも複数参加し、積極的に手を上げ質問をする人もいた。集会の様子を収録した動画は、ソルティーのサイトで公開されている。