こころの手帳(18)愛された人は愛する 浜原昭仁

2015年9月24日06時58分 コラムニスト : 浜原昭仁 印刷
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誰か私を受け入れて

現在のカウンセリングの基礎を築き上げたアメリカのカール・ロジャーズは、次のように言っています。「人が本当に必要としている最も大切なものは、人に受け入れられ、愛されることだ。人は、他の誰かに、無条件で受け入れてもらうという体験により成長する」

ところが彼自身は、人から本当に愛されたという経験が得られない生涯だったようです。彼の両親はクリスチャンでしたが、律法主義的な道徳にとらわれていて、子どもに愛を伝えるのが上手ではありませんでした。彼自身も洗礼を受けましたが、本当の救いを体験しておらず、後に教会から離れてしまいます。

心理学を極めることに救いを求めて、たくさんの悩める人の心を癒やしましたが、自分自身を救うことができませんでした。彼はアメリカのみならず世界的に有名になりましたが、成功の絶頂期にも、強い不安から失踪し、行方不明になってしまいます。彼は、どれだけ仕事で成功しても、自分が人に受け入れられたという実感が得られず、自分で自分自身を受け入れることができなかったのです。

ロジャーズは80歳以上の長寿を全うしますが、最後まで性依存にとらわれ、高齢になっても妻以外の者との性的関係をやめることができませんでした。名誉も成功も性も愛の代理品にはなり得ません。十分な愛を経験できなかった人は、淋しさとむなしさのなかで、生涯にわたって愛の代用品を追い求め続けるのです。

愛されること

有名なドイツのフレデリック2世の実験があります。彼は、言葉は学習で獲得されるものでなく、持って生まれた先天的な能力であるという仮説を立て、実験しました。赤ちゃんを二つのグループに分け、一つのグループは普通に育て、もう一つのグループには話しかけず、なるべくかかわらないように接したところ、意外な結果になりました。話しかけられずに育てられた赤ちゃん全員が、死んでしまったのです。

この実験は、人が生きるために必要なすべての物がそろっていても、話し掛け、触れ合うという愛の体験がないなら生きていけないということを示しました。その後の多くの精神科医や心理学者の研究でも、愛されることの重要性が明らかにされました。例えば、アメリカの有名な精神科医であるコフートは、「人は自己愛を満たしたい生き物で、それが満たされなかったり、傷ついたりすると心に問題が起きる」と述べて、愛されることの大切さを強調しています。

私のことを聴いて

人には「誰かに私の言うことを残らず聴いて欲しい、理解して欲しい」という強い欲求があります。聞いてもらえることで、愛されている、受け入れられていると実感できるからです。30歳のある女性の患者さんが、「皆に誤解されている。誰も私のことを分かってくれない」と言って、外来へ受診されました。途中からしくしく泣き始め、やがて大声で泣き出しました。周りの部屋にも響くほどで、看護師さんがびっくりして見に来たくらいです。一段落したところで、「とても悲しかったんですね、でも一人でもあなたのことを理解してくれる人がいたら何とか耐えられるのではないですか」と尋ねると、「先生一人だけでも私のことを理解してくれたので大丈夫です」と言うとケロッとして、何事もなかったかのように部屋から出て行かれました。

この人のように、自分の心の思いを感情とともに語ることによって、他者に自分自身を理解してもらえたという実感がわきます。そのような体験は、大きな安心感と癒やしをもたらします。人は誰かに理解してもらわないと、自分を成長させ、満ち足りた人生を送ることが難しいのです。

愛は傷つく

愛の逆説と言われている現象があります。それは、愛されることを求めるなら、愛は受けられないということです。逆に自分を忘れて、人を愛するとき、愛が得られます。愛するとは、自分自身に関心を持つことをやめ、他の人に関心を持つようにすることです。自分のことを忘れた人だけが、自分の幸福を見出します。自分が満たされるために人を愛しても、単に人を利用しているだけで、むなしさしか得られません。

さらに幸せになるための大切な法則があります。「人を愛し、物を使え」です。ところが多くの人は逆に「物を愛し、人を使え」になっているのです。お金、お酒、洋服、スマホ、ゲーム、ポルノなどの「物」の方が手軽に得られるからです。しかし、物を愛するなら、それらに心が奪われ虜(とりこ)になり、やがて神や人より大切な存在になってしまいます。

愛は傷つきます。人々が恐れているのは、人を愛するとき、自分自身が傷つくかもしれないということです。いろいろな犠牲を払う必要があるでしょう。感謝されるどころか誤解されることもあります。しかし、本当に受けるということは、与えることによって実現します。

「受けるよりも与えるほうが幸いである」(使徒20:35)と聖書にも書かれています。

イエス・キリストは自分の命をかけて私たちを愛してくださいました。この愛を知り、体験するとき、自分もあの人を愛そうという励ましを受けます。神の愛を受けることにより、拒絶されるかもしれない、傷つくかもしれないという恐れを乗り越え、勇気をもって愛の関係を築き上げていきましょう。

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浜原昭仁

浜原昭仁(はまはら・しょうに)

金沢こころクリニック院長。金沢こころチャペル副牧師。1982年、金沢大学医学部卒。1986年、金沢大学大学院医学研究科修了、医学博士修得。1987年、精神保健指定医修得。1986年、石川県立高松病院勤務。1999年、石川県立高松病院診療部長。2005年、石川県立高松病院副院長。2006年10月、金沢こころクリニック開設。著書に『こころの手帳―すこやかに、やすらかにー』(イーグレープ)。

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