こころの手帳(15)強迫性障害 浜原昭仁

2015年8月13日18時15分 コラムニスト : 浜原昭仁 印刷
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強迫性障害(OCD=Obsessive-Compulsive Disorder)は、振り払うことができない思考や衝動にはまり込んで身動きがとれなくなる心の病気です。安全で確実な生活を送りたいのに、それを脅かす恐れや不安がわき起こるのです。シェークスピアのマクベス夫人の強迫的な手洗いが有名で「ああして手を洗うのが彼女の癖です。これが15分続くときがあります」と典型的な強迫行為が描写されています。行き過ぎた心配、不合理な考え、迷信的な思いなどは、誰でも時々心に浮かぶものです。しかし、過剰な心配が頭から消えなくなったり、10分以上も手を洗ったり、鍵がかかっているか何回も確認したりする場合には、強迫性障害の疑いがあります。強迫性障害の人は、特定の考えや衝動が頭にこびりついたような状態になり、それを消し去ることができなくなります。このような症状を、止まらない脳の「しゃっくり」のようだと表現する人もいます。

強迫性障害は、情報処理がうまくいかなくなる脳の医学的障害です。脳の情報処理は、大切な思考と忘れてしまってもよい捨てるべき思考を判別していますが、この障害の脳では、大切でない捨てるべき思考まで頭の中に保持してため込んでしまうという異常が起きています。

1994年のワイズマン(Weissman)らによる大規模な国際的な疫学研究によれば、有病率はほぼ2%であることが確認されました。日本でもこの程度の頻度、すなわち50人に1人がこの病気にかかっていると予想されています。次の5つの質問が診断の手がかりになるといわれています。

  1. 手洗いや掃除をし過ぎますか?
  2. 何回も確認しますか?
  3. 追い払いたいのに消えてくれないしつこい考えがありますか?
  4. 日常的な動作を終えるのにとても時間がかかりますか?
  5. 順序正しいことや左右対称にとらわれていますか?

強迫性障害の患者さんは、強迫観念と強迫行為という2つの症状を持っています。

「強迫観念」とは、繰り返しわいてきて自分では止めることのできない考えやイメージ、衝動のことです。本人は好き好んでこうした考えを抱いているわけではなく、それによって心が乱され煩わしく感じています。最も多い強迫観念の内容は「汚れ」や「汚染」に関するものです。たとえば、外出やトイレの後に「恐いばい菌が手についてしまった。病気になるかもしれない。手を洗ってきれいにしないと大変なことになる」という恐怖を伴った考えが消えなくなります。クリスチャンでは罪責感をテーマにしたものが多く、信仰を持っていても「自分には悔い改めていない罪がある。自分は神に赦されていない」などの思考に悩まされたり、神をばかにするような考えや性的なイメージが頭から離れなくなったりします。また、現実的な考えではないと分かっていても、誰かにケガをさせてしまうのではないかという恐れが頭から離れなくなることもあります。強迫観念には、恐怖心、嫌悪感、疑念などの不快感が伴います。

「強迫行為」とは、その人が何度も繰り返し行う行為のことで、それはしばしば一定の「規則」に従って行われます。汚染に対する強迫観念を持つ強迫性障害の人たちは、皮膚がむけて炎症を起こすまでひたすら手を洗い続けることがあります。家が火事で燃えてしまうのではないかという強迫観念から、ストーブが消えているか、アイロンは大丈夫かと繰り返し確認する人もいます。古新聞やごみに、紙幣などの貴重品が紛れ込んでいないか、またある場所から移動する時に忘れ物などしていないかを心配して、何回も確認することもあります。

やがて日常生活にさまざまな支障が生じます。1日に1時間以上もの多大な時間を奪われ、仕事や社会生活、人間関係などを大きく妨げるのです。強迫症状に無理に付き合わせようとして(巻き込み)、時に家族に暴力を振るいます。つらい症状に悩まされ、67%の人にうつ病が合併します。また、不安が著しく強くなることがあるので、約60%の人にパニック発作が見られます。

発症年齢は早く、平均すると19~20歳です。一般的に男女で時期が異なり、男性では15歳前後、女性では20~25歳ごろに最も起こりやすいとされています。就学前の幼児から成人(普通は40歳ぐらい)まで、いつでも発症する可能性があります。強迫性障害の人たちは、自分の症状を隠したり、自分が病気だと気付いていなかったりすることがあるので、正しい診断や適切な治療が行われないことがあります。

強迫性障害の原因について証明されたものはありませんが、これまでの研究では、脳の前部と深部の大脳基底核との間の連絡に問題があるのではないかといわれています。これらの脳の組織ではセロトニンという化学伝達物質が働いていて、強迫性障害ではこのセロトニンの不足が関与していることが明らかになっています。というのも脳内のセロトニン濃度を上げる薬を投与すると、強迫性障害の症状がしばしば改善されるからです。

強迫性障害の治療は、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による薬物療法と認知行動療法の2つの効果的な治療法を併用します。薬物の効果が現れるには、3~4週間の時間が必要です。10~12週間後には最大の効果が期待できて、約60~70%の人が薬物療法によりある程度よくなります。

認知行動療法とは、学習を主な手段にした精神療法のことで、「曝露(ばくろ)法」と「反応妨害法」を使います。曝露法は、恐れている対象に長時間接触していると不安が薄らぐという事実に基づいています。そのためには、苦手と感じてこれまで恐れたり避けたりしてきたことにあえて立ち向かうことが必要です。恐れていることを段階的に少しずつ経験させることで、直面しやすくします。

例えば、細菌に対する強迫観念のある人たちは、不安が消えるまで細菌のたくさんついているもの(みんなが触ったお金など)に触れ続けるように指示されます。曝露法を繰り返すと心配は薄らいでいき、やがてそれに触れていても恐怖を感じなくなります。大切なことは、これを不安が和らぐまで続けて行うことです。中途半端な治療を行うと、かえって感作され、症状悪化につながることがあるので注意しなければなりません。

曝露法が最大の効果を発揮するためには、反応妨害法と併用することが必要です。反応妨害法では、患者さんは儀式行為や回避行為をやめなければなりません。たとえば、細菌を過剰に恐れている人は「細菌のついたもの」に触れ続けるだけではなく、その後の儀式的な手洗いをやめなければなりません。すなわち、これまで不安や不快感を抑えるためにしてきた強迫行為をあえてしないことが必要です。

行動療法は、60~90%に何らかの改善をもたらし、75%ではその有効性が長期的に維持されます。この治療の有効性は、患者の治療意欲が強いほど高くなります。残念ながら、全体の25%もの患者さんが行動療法を拒否しています。行動療法で症状が改善された患者さんはよい状態が続き、その後何年間もそうした状態を保つことが多いです。

強迫観念には、聖書の御言葉を用いた認知療法も有効です。「自分が放射線をたくさん浴び過ぎた」という強迫観念に悩まされているクリスチャンの方がいました。この方には次のような聖書箇所を繰り返し唱えてもらい症状が改善しました。「信じる人々には次のようなしるしが伴います。すなわち、わたしの名によって悪霊を追い出し、新しいことばを語り、蛇をもつかみ、たとい毒を飲んでも決して害を受けず、また、病人に手を置けば病人はいやされます」(マルコ16:17、18)

熱心なクリスチャンの方で「神をきよらかな気持ちで礼拝しようとすると、かえって汚れた思いがわいてきて悩まされる」という人がいます。信仰の問題として悩みますが、背後に強迫性障害が潜んでいることがあります。病的な不安によるものか、聖霊の促しなのか、医学的、霊的な二つの方向からの吟味が必要です。

強迫的傾向について、ヨブ記に次のような記載があります。「彼は翌朝早く、彼らひとりひとりのために、それぞれの全焼のいけにえをささげた。ヨブは、『私の息子たちが、あるいは罪を犯し、心の中で神をのろったかもしれない』と思ったからである。ヨブはいつもこのようにしていた」(ヨブ記1:5)

罪からきよめられることは素晴らしいですが、自分の境界線を越えて息子たちの事まで心配しているのは少し度を超しており、ヨブの強迫性を疑わせます。強迫傾向は、心に潜在する恐れと不安から来ています。ヨブは確かに正しい生活を送っていましたが、神との間の親しみや安らぎという点では問題があったのかもしれません。全き愛は恐れを締め出します。強迫的な傾向を自分に見つけた時は、「私は何を恐れているのだろう」と問い掛け、「でも神様が守ってくださるから大丈夫」と自分に語り掛ける必要があります。過剰な心配はさらに不安を増し加え、病気の悪循環に陥ってしまうからです。

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浜原昭仁

浜原昭仁(はまはら・しょうに)

金沢こころクリニック院長。金沢こころチャペル副牧師。1982年、金沢大学医学部卒。1986年、金沢大学大学院医学研究科修了、医学博士修得。1987年、精神保健指定医修得。1986年、石川県立高松病院勤務。1999年、石川県立高松病院診療部長。2005年、石川県立高松病院副院長。2006年10月、金沢こころクリニック開設。著書に『こころの手帳―すこやかに、やすらかにー』(イーグレープ)。

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