律法と福音(4)多義的な用語としての律法 山崎純二

2015年8月13日17時59分 コラムニスト : 山崎純二 印刷
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神を知るための啓示は人類に二種類与えられていると、前の章では説明しました。大自然を通して神の神性を漠然と感じる「一般啓示」と、言葉を預言者に与えて神がご自身の心をダイレクトに伝える「特別啓示」です。

そしてさらに特別啓示は大きく二つに分けられます。一つは、前回少し触れさせていただいたモーセという預言者に与えられた「律法」です。そしてもう一つは、イエス・キリストによってもたらされた「福音」です。

まずは、律法とは何かということを明らかにしたいと思います。しかし、これは何年教会に通ってメッセージを聞き続けても、分かったようで分からないものです。実際に私も幼い頃から牧師の家庭に育ち、聖書を学び続けましたが、「律法」を定義することがなかなかできませんでした。

その理由が今では分かるので、皆様にもなるべく簡単に説明したいと思います。実は「律法」という言葉は、広義で使われる場合と狭義で使われる場合があります。そのため、各自がこの言葉を使うときに、広義で使っているのか、狭義で使っているのかを意識したり説明したりしないと混乱が生じるのです。

では、その区別をしてみましょう。律法を広義で使う場合は、「律法=神の戒め」という意味で使われます。つまり「~をしなさい」や「~をしてはなりません」という形になります。

これは「モーセの十戒」とも混同されやすいものです。「十戒」とは十の戒めということで、以下のようなものです(出エジプト記20:3~17)。

  1. あなたには、わたしのほかに、ほかの神々があってはならない。
  2. 偶像を造ってはならない。それらを拝んではならない。それらに仕えてはならない。
  3. あなたの神、主の御名を、みだりに唱えてはならない。
  4. 安息日を覚えて、これを聖なる日とせよ。
  5. あなたの父と母を敬え。
  6. 殺してはならない。
  7. 姦淫してはならない。
  8. 盗んではならない。
  9. あなたの隣人に対し、偽りの証言をしてはならない。
  10. あなたの隣人の家を欲しがってはならない。

混同されやすいというよりは、十戒は律法の一部だと考えると分かりやすいでしょう。神様が特別に守らなければならない戒めとして十の戒めをモーセに与えられたのですが、戒めは十だけではなく、非常に多かったのです。そしてその全体を律法といい、十戒はその中の中心的な十個の戒めだといえるでしょう。

では、狭義の律法とは何でしょうか。それは聖書の最初の五巻を指します。ヘブル語では「トーラー」といわれています。これらは伝統的には先ほどのモーセによって書かれた書物とされています(それよりも後代に書かれたという説もあります)。一巻ずつ名前を挙げると、創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記となり、モーセによって書かれたので、モーセ五書などともいわれます。

この五書の内容は全てが全て「~しなさい」とか「~してはならない」といった神の戒めが書かれているわけではなく、天地創造・ノアの箱舟・エジプトから脱出する物語などの有名な物語も含まれています。最近ではハリウッドやディズニーなどによって次々とこれらの物語が映画化されていますね。

つまり律法とは、この五書全体を指す言葉でもあり、その五書の中に含まれる神の戒めの部分だけを指す言葉でもあるのです。そしてさらにいうと、「神の戒め」という意味で使われる場合は、五書以外の聖書の「戒め」の部分も同様に広義の「律法」という概念に含まれます。

ここまでは、整理できたでしょうか。ここからは少し蛇足なのですが、聖書の本文以外にも、律法学者という人たちが付け加えた「解釈」も同様に律法といわれたりします。なぜ律法学者といわれる人たちが律法を付け加えるのかといえば、聖書に書かれている分量だけでは実際の生活にどう適用していいか分からない部分が出てくるからです。

こう考えると分かりやすいと思います。憲法に「健康で文化的最低限度の生活を営む権利が保障されないといけない」と書かれているとしても、どれくらいが健康で文化的最低限度の生活なのかというのは、解釈の必要なところです。そこで例えば、法律によって具体的に「収入の無い人は、月最低15万円くらいは生活保護で保証しましょう」などと決められていきます。聖書に書かれた神の戒めが憲法であり、律法学者が実生活に適用させるために付け加えていったものを法律や法令と考えると、整理できるかと思います。結果、律法は時代の変化とともに段々と具体的な法が増えていき、最終的にはトラック一杯分くらいになったなどといわれています。

このように、「律法」という言葉は二義的であるというよりは多義的であり、これらもろもろ全てが総じて「律法」という同じ言葉で表現されるので、混乱が生じる余地があるのです。

【まとめ】

  • 神は人類に「律法」と「福音」を与えられた。
  • 「律法」には「戒め」として解される場合と、「モーセ五書」として解される場合がある。
  • 「モーセ五書」には「戒め」以外の内容・物語なども多く含まれている。
  • 「十戒」は戒めとしての律法に含まれるが、それだけが律法ではない。
  • それ以外に律法学者たちが付け加えた解釈も「律法」と呼ばれる。

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山崎純二

山崎純二(やまざき・じゅんじ)

1978年横浜生まれ。東洋大学経済学部卒業、成均館大学語学堂(ソウル)上級修了、JTJ宣教神学校卒業、Nyack collage-ATS M.div(NY)休学中。米国ではクイーンズ栄光教会に伝道師として従事。その他、自身のブログや書籍、各種メディアを通して不動産関連情報、韓国語関連情報、キリスト教関連情報を提供。著作『二十代、派遣社員、マイホーム4件買いました』(パル出版)、『ルツ記 聖書の中のシンデレラストーリー(Kindle版)』(トライリンガル出版)他。本名、山崎順。ツイッターでも情報を発信している。

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