中絶に反対し、命の大切さを訴える行進「マーチフォーライフ」が21日、東京都内で行われた。小さな子どもから高齢者まで、約40人が参加。カトリック築地教会(東京都中央区)から日比谷公園(同千代田区)までの道のりを約1時間にわたって練り歩き、中絶によって数多くの胎児が命を落としている現実を訴えた。
中絶は、日本では1948年に施行された優生保護法(現母体保護法)によって合法化された。その後、中絶の件数は急増し、1950年から2019年までの70年間に、3895万人の胎児が命を奪われた。これは、第2次世界大戦における日本の死者数310万人の12倍に匹敵する。
また、最新となる2023年度の統計によると、日本では1年間に12万6千件を超える中絶が行われている。同年度の出生数は約72万7千人で、中絶によって胎児の7人に1人が命を失っている計算になる。
行進ではこうした統計に触れつつ、「罪のない赤ちゃんを殺害することはできません」と強調。中絶など、人間の命を奪う「死の文化」が社会に入り込んでいるとし、「私たちは、死の文化にノーと言います。私たちは命を守りたい。人間の命を大切にしたい」と訴えた。
赤ちゃんと一緒に参加した女性の思い
行進には、間もなく1歳になる赤ちゃんをベビーカーに乗せて参加した若い女性の姿もあった。かつては、中絶を女性の権利とする考えに共感していたが、カトリック教会に通うようになってから、中絶が胎児の命を奪う行為であることを深く認識するようになったという。2年前にカトリック信者となり、「命は主(神)からもらったもの」と確信してからは、行進にも参加するように。わが子が与えられると、その思いはますます強くなった。
「本当にこれ(命)は私たち人間のものではないし、私たち人間を超える存在からもらった最高の贈り物だということを、ひしひしと感じています。純粋な喜びです。そんな存在が、どんな理由であっても消されているということは本当に胸が痛むので、(行進に)参加しました」
一方、中絶を考える女性たちは、「想像を絶するつらい思いをし、想像を絶する苦しみを抱えていると思います」とも。中絶後に罪悪感にとらわれ苦しむ女性がいることにも言及し、「中絶も権利なのだと安易に判断するのではなく、自分の痛みが本当に解決する方法を探してほしい」と話した。
「生まれてくる赤ちゃんは、環境やどんな父親かにかかわらず、本当に素晴らしい存在です。その子自体が喜びです。ちょっと笑うだけで、母親は涙が流れるような喜びを感じます。それを殺すというやり方で解決するのは、本当の解決ではないということを知ってほしいです」
社会の諸問題生む「死の文化」
12年前に来日し、日本のマーチフォーライフには9年前から参加しているポール・ド・ラクビビエさんは、欧米と比べ、日本は中絶に対する関心が薄いと話す。母国フランスでもマーチフォーライフに関わってきたが、それは、罪なき胎児の殺害である中絶を認めることが、社会のさまざまな問題を生んでいると考えるからだ。
現在6人の子どもがおり、さらに妻の胎内には双子が宿っているというラクビビエさんは、結婚した男女の間に子どもが与えられることは、この上のない幸せであり、健全な家族が社会の基盤になっていると強調。家族崩壊や社会的孤立、少子化などの問題の根本には、中絶のような命を軽視する「死の文化」があると話した。
レイプ原因の中絶は1%
「声を出すことができない赤ちゃんたちに代わって、私たちは祈りのうちに行進をしています」。行進の間中、マイクを使って中絶の問題を訴え続けた小野田圭志神父は、その中でレイプによる中絶も取り上げた。中絶を認めるべき理由として、真っ先に挙げられるのがレイプによる妊娠だ。小野田神父は「レイプは犯罪です。女性に対する大きな犯罪です」としつつ、中絶の理由としては1%に過ぎないことを指摘。全体的に見れば例外といえる事例が、中絶を正当化するために使われていると訴えた。
米民間調査機関のグットマッハー研究所の報告書(英語、2005年)によると、米国で中絶を選択した女性のうち、レイプ被害者は1%とされる。これに対し、中絶の理由で最も多かったのは、女性の教育や仕事、他の扶養家族の世話に支障をきたす(74%)、子どもを育てる余裕がない(73%)、シングルマザーになりたくない、人間関係に問題がある(48%)だった。
小野田神父はまた、たとえレイプによる妊娠だったとしても、胎児の命を守ることを選び、その選択をしたことを感謝している女性たちが世界には多くいるとも強調。「私たちが必要とするのは、癒やしです。堕胎へと追い立てる宣伝ではありません。本当の幸せは、赤ちゃんの命を守ることにあります。赤ちゃんを殺すことにはありません。レイプは犯罪です。しかし、そのような犯罪によるお母さんの傷を、堕胎によってさらに傷つけることはできません」と訴えた。
マーチフォーライフは、米連邦最高裁が1973年、中絶を憲法上の権利とした「ロー対ウェイド」判決を出したことを受け、翌74年に米首都ワシントンで始まった。その後、世界的なプロライフ運動として拡大。日本では2014年に始まり、現在は7月に東京と大阪で行われている。米国ではこうした運動が結実し、22年に同判決が約半世紀ぶりに覆される判決が下っている。