信仰を得てから40年ほどがたちましたが、かつて若い頃、神様の思いが分からず、随分苦しんだ時期がありました。日常的に迷うことが多く、「神様、どうすればいいですか? どの道を進むべきですか?」と祈ることがよくありました。当時の私は、神様の思いを知り、それに従うことこそ本当の信仰生活だと思い込んでいたように思います。
ただ、長い信仰生活を経て、神様の思いは、私たちの思いをはるかに超えていますので、しょせん私たちは、ただ信じて委ねるしかないことを強く感じるようになりました。もし、神様の思いを知ってしまったら、かえって気力を失ったり、あらがったり、結局は従えなくなるのを神様はご存じで、次のステップを示されないのだと思います。
実は、神様の思い(計画)が分からないのはとても感謝なことなのでしょう。神様は真実な方なので、ただ信じて委ね、毎日を期待して過ごせるのは、とても楽しく、幸せなことだと思います。
わたしの思いは、あなたがたの思いと異なり、あなたがたの道は、わたしの道と異なるからだ。──主のことば──天が地よりも高いように、わたしの道は、あなたがたの道よりも高く、わたしの思いは、あなたがたの思いよりも高い。(イザヤ書55章8、9節)
かつて重要な業務に勇んでまい進した
1980年にガソリンエンジンが三元触媒の利用によって排気浄化にめどが立ち、ちょうどその年にトヨタに入社した私に課せられたのは、ディーゼルエンジンに特化した排気浄化技術の開発でした。
ガソリン車の排気ガス低減は、有名な米国のマスキー法を遵守することを目標に、各自動車会社が検討を重ね、1980年ごろには既に、その目標をほぼ達成していました。
一方、ディーゼルエンジンの排気ガスは、触媒の利用が難しく、エンジン本体の燃焼改善に頼っていましたので、ガソリンエンジンの排気ガスレベルには到底及ばない状況でした。
私は、自分に課せられた業務の重要性を知り、勇んで仕事にまい進していきました。ガソリンエンジンで乗り越えたハードルですから、ディーゼルエンジンでも、やがて(数年以内に)対応できると、周囲の多くの人は考えていましたし、大した根拠もなく、私もそのように思っていました。
「いばらの道」が待っていた
ところが結果として、31年間の在職期間中にディーゼルエンジンは目標を達成できず、私が検討した数多くの技術は日の目を見ることがありませんでした。「どこを探ればいいのですか? なぜ道が開かれないのですか?」日々の祈りに答えはなく、「いばらの道」が続きました。
在職中に私が出願した特許は千件を超え、件数では社内トップクラスでしたが、難しい課題に対し、迷いつつ試行錯誤を続けたため、実用化できないアイデアばかりが増えたように思います。
入社して10年後の1990年ごろ、工場の排気処理技術として、既に実用化されていた脱硝方法を簡素化し、排気管内に尿素水を注入する手法の実験を行いました。現在では全てのディーゼル車が採用している尿素SCRシステムの最初の実験でした。
多くの課題があるのは予想できましたが、思いの外良い結果が得られたので、しばらく検討を続け、上司たちに報告を行いました。しかし、そもそも排気管に悪臭の原因になるアンモニアガスを発生させる尿素水を添加するわけですから、全く受け入れられず、私も将来性がないと判断し、検討を中止しました。
今から振り返れば、この技術だけが目標性能を確保できる能力があったわけですが、当時は誰も実用化できるとは思いませんでした。
その後、排気ガスをクリーンにできないディーゼル車への風当たりはますます強くなり、見栄えのする未熟な独自技術(参考)を強引に開発して社外に発表したため、開発の規模が非常に大きくなっていきました。
未熟な技術を仕上げなければならない量産化に携わるエンジニアたちは、大変苦労したことでしょう。やがて他社も使い始めたことから、北米のディーゼル車の不正ソフト問題を生む要因の一端になったように思います(トヨタは不正に関与していません)。
神様の計画は計り知れない
このような「いばらの道」を歩んだ私でしたが、良い結果が得られない長い経験を通し、神様に全てを委ねることを徐々に学んだように思います。
もし、会社生活がこのような「いばらの道」になるとあらかじめ知っていたなら、とても乗り切れなかったと思います。知らなかった故に、おのずと祈るようになり、神様と親しくなり、信仰によって歩むことを学んだように思います。
神様の計画は人の思いを超えて計り知れず、私が経験した「いばらの道」の全ては、私が触れることのできない神様の御旨の中にあったことを感じるようになりました。
主のはかられることは とこしえに立ち みこころの計画は 代々に続く。(詩篇33篇11節)
残された人生、再び「いばらの道」に迷い込むかもしれません。しかし、いつも神様を信頼し、御心の計画の中で、充実した日々を送ろうと思います。
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