日本の各地域には、弱さを抱える人の「善き隣人」となり、犠牲を払って寄り添っておられる多くの牧師、宣教師、また志の高い信徒がおられます。そのような方が、目立たない働きであっても、献身的な働きを続けてこられたことで、日本のキリスト教会の働きが維持されてきたのだと思います。
信仰者であれば当然という意見もあるでしょう。しかし、長年グローバル化の進んだ日本社会のただ中で過ごしてきた私にとって、彼らのような献身的な姿はあまりに尊く、それらを見過ごすことはできませんでした。
2021年に設立した(一社)善き隣人バンクには、そのような方を何とかサポートしたい気持ちが込められています。
メリットや目途がなければ動けない
グローバル化の進んだ社会とは、経済を最優先にする社会のことです。もちろん利権獲得を前面にできないので、上辺を飾る正当性や将来性を訴える言葉を着せ、自らの利権につながる道をまい進するのが通常です。現代社会は、利権につながるメリットや目途がなければ動けない領域が多くなってしまいました。
例えば、私の前職の目標は内燃機関の研究開発でしたが、その大義は二酸化炭素削減などの地球環境の改善でした。そもそも二酸化炭素の環境への影響はいまだ不明ですが、実際の目標は自社技術の標準化と拡販でしたので、二酸化炭素削減の必要性を唱えながら、実際には二酸化炭素が増える結果を生んできました。
私が直接携わらなかったハイブリッド車や電気自動車も、最先端の環境技術とされながら、実際には新しい市場の利権獲得が狙いですから、生産時や廃棄を含めたトータルの二酸化炭素排出量を増加させてきたと思います。
このような現実は、経済活動をけん引するグローバル企業としてやむを得ないことであり、企業の利権につながる多くの人々の生活を支えています。
一方、教会の働きである宣教は、もちろん経済活動とは一線を画す貴重な働きです。利権を度外視して進めることも度々です。しかし、グローバル化の進んだ現代社会への働きである以上、経済を優先する働きを避けることなく、賢い付き合い方を選ばなければなりません。
神学生の純粋さと未熟さに圧倒された
私は55歳で前職場を定年退職し、全寮制の聖書学校に入学しました。3年間、若い献身者たちと実に良い時間を過ごしました。グローバル社会の中でもまれた私にとっては、大変良いリフレッシュとリセットの時間でした。さらに、全寮制であったが故に、若い神学生たちの純粋な信仰に圧倒される3年間になりました。
彼らの多くは、次のような2つのタイプの若者たちでした。まず、グローバル社会から距離を置き、教会の信仰者に囲まれて育ち、利権にまみれた社会を知らずに献身した者たちがいました。牧師二世や、クリスチャンホームで育った人材がこのタイプでした。
次に、いったんグローバル社会の一員に加わったものの、信仰者として歩む中で葛藤し、厳しい現実から逃れ、神様の御心を求めたいと願って献身した若者たちがいました。彼らの中には現代社会の荒波で、傷ついた者も少なくなかったと思います。
いずれのタイプの若者たちも、当時の私と比べて極めて純粋な信仰を持っていましたので、彼らとの生活を通し、私は生きて働く神様との交わりを得ることができました。それは、私の人生にとって大きな財産になりました。
それと同時に、このような若者たちが卒業して地域教会の牧師になり、利権にまみれたグローバル社会と対峙(たいじ)して宣教を拡大していくことは大変難しいように感じました。現代社会にある地域教会を存続させ、発展させていく道筋は、彼らと生活する中で次第に見えなくなっていきました。
(一社)善き隣人バンクへ
私は聖書学校を卒業後、地域教会の牧師になる道を諦め、効果的な宣教手段を探すための株式会社を設立しました。株式会社にした理由は、あらゆる分野の宣教手段を試すためと、経済活動を優先するグローバル社会への宣教を進めるためでした。
約11年間の試行錯誤の中、試行した全ての働きで良い成果がありましたが、宣教の最前線である地域教会や純粋な信仰者たちと連携することが難しく、今も多くの課題を抱えています。
しかし唯一、介護保険外サービスとして始めた「継続的な傾聴サービス」は、福祉観の高い純粋な信仰者たちと連携し、働きが拡大するようになりました。2021年に完全非営利型一般社団法人「善き隣人バンク」を設立し、この働きに特化した活動が拡大しています。
「善き隣人」をサポートする働き
(一社)善き隣人バンクが行う支援事業には、以下のような2つの支援対象があります。
<主な支援対象>
① 心の痛み(スピリチュアルペイン)を抱える依頼者
現代の日本社会では、核家族化、高齢化などにより、あらゆる分野に孤独がまん延し、心の痛み(スピリチュアルペイン)を抱える方々がおられます。彼らに対し、継続的な傾聴を通して「善き隣人」になることを目指しています。
②傾聴を通し、献身的に寄り添いたいと願うスタッフ、地域教会
上記の依頼者に対し、地域教会などには、傾聴を通し、献身的に寄り添いたいと願う人材が数多くおられます。彼らが、依頼者に心を込めて寄り添い、喜んで働きを継続できるように、有効なサポートや連携を備える働きの仕組みを構築しています。
①の働きは傾聴の働きそのものですが、②の働きこそ、これまで日本の各地域において、弱さを抱える人の「善き隣人」となり、犠牲を払って寄り添ってこられた牧師、宣教師、また志の高い信徒をサポートする働きになりました。
資金が不足する中、十分なサポートはできないのが現状ですが、これまで黙々と続けてこられた献身者を少しでも励ます力になりたいと願っています。
グローバル社会の荒波の中にあっても、「善き隣人バンク」は、犠牲を払って寄り添い続ける信仰者の歩みを支える宣教の仕組みとして、今後とも地道に働きを整えていくつもりです。
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