イエス・キリストの福音は、2千年もの年月をかけて世界中に伝えられ、実に多くの人々に良い影響を与えてきました。もちろん日本人も大いに祝福され、さまざまな恩恵を受けてきたように思います。古代から受け継がれる大切な日本文化の中には、福音の影響が色濃く残されています。
かつて16世紀にフランシスコ・ザビエルの来日から始まるカトリック教会の宣教活動では、正確な記録はありませんが、50年ほどの間に国民の5%程度が信仰を持ったといわれています。
これらの宣教活動は、欧米のグローバル化の強い流れに沿って行われたため、当時の豊臣秀吉や徳川家康によって厳しく弾圧され、拡大しませんでしたが、当時の日本社会には、福音を受け入れやすい日本文化の備えがあったことは間違いありません。
しかし、このような日本ですが、明治時代から始まった近代の日本宣教は、総じてみれば多くの国民に届かず、今に至っても信者比率は1%程度に留まっています。教会の働きが住民の中に展開することは少なく、地域社会に与える宣教効果は限られています。
日本宣教の失敗を認めたい
このような状況を振り返り、多くの牧師や宣教師を中心に、なぜ宣教が進まないかを分析し、対策が議論されてきたように思います。私が学んだ聖書学校においても、多くの話し合いが持たれました。
しかし、失敗を重ねた当事者間の話し合いでは、的を射た議論にならないのは、こと宣教に限ったことではありません。大抵の場合は、当事者ではない外部の人の意見や気持ちの中にこそ、真の要因が潜んでいるものです。
日本宣教に携わる私たちは、これまでの日本宣教の失敗を認め、謙虚になって未信者や教会の外におられる人々の心の声に耳を傾けたいものです。
絆の強そうな怪しい共同体
日本人は共同体を大切にする国民です。家庭や職場は特に大切な共同体ですが、その他にも絆の強い共同体がいくつも存在します。それらのほぼ全ての共同体の内部では、人間関係でつながるタテ社会が生まれ、共同体の内と外を区別する境界線が生じやすい傾向があります。その傾向は、絆の強い共同体ほど強く、閉鎖的になりやすいといわれています。
このような特徴から、なじみのない共同体は、たとえ興味があっても関わりを持つことが難しいのが日本人特有の感覚になっています。特に、教会は宗教団体であり、現代の日本社会ではなじみのない、絆の強そうな共同体ですから、宗教離れの進む日本人にとっては、かなり怪しい存在に映るかもしれません。
このような教会の見えない境界線を乗り越え、共同体に参加できる人は、一般の日本人の中では少し変わった元気な人が多いように思います。宣教は、人の弱さに寄り添うことで拡大しますが、教会の見えない境界線の内では、地域住民の弱さに寄り添う働きを進めにくい現実があるのです。
かつて16世紀に経験した霊的覚醒は、日本社会にいまだ絆の強い教会がなく、信者と未信者を隔てる境界線が明確にできていなかったことが幸いした可能性があると考えています。
地域教会の良さを残して福音を持ち運ぶ
このような課題を抱える教会ですが、核家族化、高齢化の進む現代社会においては、孤独を抱える人々の大切な受け皿になる可能性を秘めています。確かに境界線を乗り越えて教会に入るのは難しいのですが、境界線を越えれば、信仰に導かれて祝福されるだけでなく、実に温かい家族的な交わりを得ることができるのです。
ですから、現代社会における日本宣教は、教会の内と外との間にある境界線を除くのではなく、教会の強い絆を維持し、温かい家族的な共同体の特徴を残したまま、福音を境界線の外に持ち運ぶ知恵を必要としていることになります。
これまでの宣教活動
これまでも地域の教会では、さまざまな宣教活動が繰り返されてきました。古くから行われる伝道集会だけでなく、コンサートやバザーなどのイベント開催、音楽活動や聖書研究、趣味、お稽古などのサークル活動、また幼稚園やデイサービスなどの事業体を併設しているところもあります。
どの活動も一定の効果があり、活発な活動を行う教会ほど、地域に受け入れられ、宣教が拡大しているのは事実です。しかし、グローバル化の進んだ現代社会では、1%しかいない信者による活動は、人材不足、資金不足、連携不足に陥りやすく、一般社会の活動と比べると、大きく展開するのは難しいのが現実です。それぞれの教会内の小さな働きとして、特定の信者(教会員や牧師)の頑張りで支えられているような気がします。
新しい革袋を求めて
そのような日本宣教の現状を分析し、今後の宣教の仕組みを提案するため、2014年にブレス・ユア・ホーム(株)を設立しました。絆の強い地域教会の良さを維持しつつ、教会の内と外の間にある境界線を越えて福音を持ち運ぶ知恵を得るため、約10年間の研究開発に取り組んできました。
これらの検討の成果(新しい革袋)を、できる限りお伝えしたいと願っています。(続く)
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