韓国・ソウルのサラン教会を会場に開かれた世界福音同盟(WEA)の第14回総会は10月30日、新体制となった国際理事会(IC)とICの新議長を発表するとともに、新総主事の就任式、「ソウル宣言※」の採択などが行われ、幕を閉じた。
ICの新議長には、アジア福音同盟(AEA)議長でスリランカ出身のゴッドフリー・ヨガラジャ氏が選出された。新総主事には、8月に選出が発表されていたパレスチナ系イスラエル人弁護士のブトロス・マンスール氏が正式に就任した。ヨガラジャ氏は、「私たちの力は、数や影響力ではなく、神の真実と霊の一致にある」と語り、総会のテーマ「(2033年までに)全ての人に福音を」を改めて掲げた。マンスール氏は、各地域・各国の福音同盟と教会を多層的に強め、信徒一人一人が担う宣教の姿を語った。
ヨガラジャ氏にバトンを渡すことになった議長のグッドウィル・シャナ氏は、新総主事の選考プロセスについて、25人の応募の中から、最終的に3人に絞り込み、面接と投票を経て選出したと説明。「ナザレ出身の弁護士であり伝道者であるブトロス・マンスール氏を次期総主事として迎える」と発表した。祝祷をささげたヨガラジャ氏は、「主に信頼しつつ、新総主事と共に各福音同盟を強め、福音同盟のない地域にネットワークを築く」と述べ、「私たちの力は、神の真実と霊の一致にある」と繰り返し強調した。
マンスール氏は、3つの聖書箇所に根差して所信表明のスピーチを行った。第一はヨハネによる福音書17章で、イエスが弟子たちについて父なる神への祈りの中で願った「私たちのように、彼らも一つとなる」から、「キリスト者の一致」を訴えた。第二はマタイによる福音書28章で、大宣教命令に基づく「福音による世界への影響」を語った。第三はルカによる福音書4章で、イエスがナザレの会堂で朗読したイザヤ書61章に基づき、「包括的な福音理解と働き」を話した。
また、「『福音派』という名称は、近年政治化される局面がありますが、もともとは『良き知らせを運ぶ者』を意味します。私たちはその名を取り戻したい」と強調。総会のテーマの中で掲げる2033年は、イエスの十字架と復活、そしてペンテコステから2千年の節目としてふさわしい目標だとし、「主に差し上げ得る最大の贈り物は、私たちの心です。人々の心が主に向かうことを願います」と述べた。
この他、国連に働きかけるため、ジュネーブとニューヨークで活動するアドボカシーチームの働きにも触れ、「礼拝・祈り・伝道の自由を確保する環境づくりは、宣教と弟子訓練の前提です」と述べ、支援と祈りを要請した。
この日の記者会見では、総会の総意として採択したソウル宣言について詳しい説明が行われた。
ソウル宣言は、保守的な神学に立脚する韓国の代表的な神学者らが中心となって起草し、ICや各地域の福音同盟からのフィードバックを踏まえて作成された。標準的な福音主義的信仰告白を踏襲しつつも、現代的・神学的課題に個別に適用を広げる内容となっている。
同性愛や同性婚の問題にも明確な立場を示しており、人が神の形として、男と女とに創造されたこと、結婚は一組の男女の聖なるつながりであるだけでなく、神の前における契約であることを言明。その上で、アイデンティティー、性別、帰属意識について疑問を持つ当事者の声に、謙遜に耳を傾け、慈(いつく)しみをもって伴走し、聖書的明確さと牧会的な優しさをもって奉仕することを誓いつつ、「それ故、私たちは同性愛を実践することは、神の定めた人間の性に反しており、罪であることを確認します(ローマ1:26~27)」としている。
また、①文脈化され聖霊に力付けられた伝道、②信教の自由の保護、③全人的・包括的な奉仕、④疎外された地域との福音主義的連帯、⑤聖書と聖霊による全人的健康と幸福に対する献身、⑥被造物の賢明な管理、⑦人間中心の倫理的なテクノロジー開発――という世界の福音主義神学における7つの主要なテーマについて、継続して取り組むことを表明している。
ソウル宣言については、事前の会合で採決方式を巡って議論があった。出席者の一部から「原案を受け取っておらず読んでいないため、採否の判断ができない」との意見が出され、シャナ氏もその指摘は正当だと応答。その後、会場から「この場で原則採択とする投票を行い、未読者には1週間の読了期間を付し、異議がなければ効力を継続」という動議が提出され、賛成多数で可決され「原則的に採択する」ことが決まった。
閉会礼拝では、新旧の議長であるヨガラジャ、シャナ両氏が、マンスール氏とその家族のために按手(あんしゅ)祈祷を行い、「召しにふさわしい歩み」「困難な時の平安」「必要に応じた知恵」「働きのための油注ぎ」「家族の守り」「良き協力者に囲まれる恵み」を具体的に願った。最後にはシャナ氏が、「地平線を見据えるビジョン、旅路を歩む力、困難な時の平安、使命の喜び、家族の必要のための休息」を祈り求め、「最後に主が『よくやった。良い忠実な僕(しもべ)だ』と言ってくださるように」と結んだ。
その後のスピーチでマンスール氏は、「ただ神のために。この言葉に全てが要約されます」と述べ、自身が「イスラエル在住のパレスチナ系キリスト者」として、この時に召された意味に言及。「2年にわたる戦争の後に訪れた停戦が続くよう祈ります。私は自分の民族と祖国に敬意を表したい」と述べ、WEAの働きを「チームとして進める」と強調した。
「今、必要なのは、私たちの一致を主イエスの祈りの水準――『父と私が一つであるように』――にまで高めることです。各地域の福音同盟を強め、各国の福音同盟と教会を強め、そして信徒一人一人が『良き知らせを運ぶ者』として世界に出ていくのです」
「福音は言葉だけでなく行為でも示され、家庭・職場・社会全体を変えるのです。『神の国の価値』が現れるところで、世界は変えられるのです」
閉会礼拝では、リック・ウォレン牧師の司式による聖餐式も行われた。新旧の国際理事らとマンスール氏が参加者一人一人にパンとぶどう液を配餐し、皆でイエス・キリストを記念する時を共有し、6年に1度の総会は祈りの中で閉幕した。

















