国民的キャラクター「アンパンマン」の生みの親である漫画家・やなせたかし(柳瀬嵩)さんと、その妻・小松暢(のぶ)さんをモデルにしたNHKの朝の連続テレビ小説「あんぱん」が、9月末で半年にわたった放送を終えた。
その放送の半ばごろ、暢さんを巡る一つの発見があった。幼い頃に洗礼を受けたクリスチャンであることが明らかになったのだった。ドラマ前半の舞台は、やなせさんと暢さんが幼少期を過ごした高知。地元で盛り上がりを見せていたころ、暢さんが日本基督教団高知教会で洗礼を受けていた記録と、同教会の旧会堂を背景に暢さんが家族と一緒に写る写真が見つかった。
高知教会の黒田若雄牧師が、日本基督教団の機関紙「教団新報」(7月12日号)のコラムでそのことを書き、8月末には地元の高知新聞も「暢さん実はクリスチャン」と記事にした。
暢さんの受洗は『高知教会百年史』に記録されていた。それによると、母・登女(とめ)さんと、暢さんを含めたきょうだい5人が、1927年4月17日に洗礼を受けた。この日は、その年のイースター(復活祭)。暢さんの旧姓は池田で、『高知教会百年史』の受洗者名簿には「池田のぶ」と記されていた。
高知新聞によると、当時、暢さんは8歳、登女さんは30歳。父は暢さんが6歳の時に亡くなっており、「登女さんは教会の助けを受けながら、女手一つで子どもを育てていたようだ」と同紙は伝えている。
写真は、高知教会の当時の副牧師と結婚した女性の長女が、自宅のアルバムから発見した。同紙によると、大阪に引っ越すことになった池田一家の送別会の写真で、1935年前後のものとみられるという。
やなせさんを巡っては、クリスチャンだったという言説が流布していたことがある。困っている人に自身の顔(パン)を分け与えるアンパンマンの姿が、キリストの自己犠牲に重なるところもあり、そうしたイメージをほうふつとさせた。2013年に亡くなった際には、一般紙が追悼記事で熱心なクリスチャンだったと伝えたこともある。しかし後日、訂正記事が出ており、やなせさん自身はクリスチャンではなかったようだ。
それでも、黒田牧師は先のコラムで次のように記している。
「(やなせさんの)義理の母の池田とめさんが教会に繋(つな)がって生きたことを思うと、アンパンマンという存在が、聖書と繋がっていることを思わされた。(中略)高知教会がアンパンマン誕生に少しだけ関わることが出来たのではないかと思い、感謝している」
高知新聞によると、登女さんは1960年代からやなせさん夫婦と同居していたという。やなせさんがアンパンマンを描き始めたのは60年代後半。アンパンマン誕生の裏には、やなせさんと一緒に暮らしていたクリスチャンの妻・暢さんと、義母・登女さんの影響があったのかもしれない。