雲海のかなたに(5)星の瞬く大地に 高橋幸夫

2014年10月14日07時29分 コラムニスト : 高橋幸夫 印刷
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+高橋幸夫氏

冬至を間近にした夜。私は、庭に出て濃紺の夜空を見上げた。今年もふたご座流星群が、夜空を彩るらしい。

ジェット機が一機、爆音を置き去りにして飛び去って行く。点滅するライトが次第に小さくなり、闇の中に染まっていく。私は、その光跡をぼんやりと眺めながら、なんとなく一瞬、既視感を感じた。

25年ほど前、私は所用で、しばしばマレーシアのボルネオ島の奥地を訪れていた。マレーシアの首都クアラルンプールは、私が家族と暮らしていたシンガポールから国際線で45分足らずだ。

さらに国内線に乗り継いで双発機でサバ州のコタキナバルへ向かう。そこからランドクルーザ(ジープ)に揺られること6時間あまりの未開の地。そこが、森林伐採の最前線地、ケニンガウだ。大木のラワン材を切り倒すチェーンソーや原木を牽引するブルドーザーのけたたましいエンジン音が、密林の隅々まで響き渡る。ギラギラした灼熱の太陽の光が、容赦なく私の肌を焦がし、額から汗が止めどもなくしたたり落ちる。

不意に真っ黒な雨雲が太陽の光を遮(さえぎ)り、突然、ザザーッとバケツをひっくり返したようなスコールが来て大地を洗う。大粒の雨がほてった肌を叩き気持ちがよい。が、焼け石に水だ。雨雲が通り過ぎた後、地面からはかげろうが立ち上り、辺り一面にムシ風呂のようなやりきれない熱気が漂う。濡れた大地は、瞬く間に灼熱の大地に返る・・・。

やがて、燃える火の玉のようなオレンジ色の夕日が、森林のシルエットをくっきりと映し出して地平線に消える。たちまち昼間の喧噪が嘘のように、寂寞とした闇が訪れた。

夜が深まるにつれ、密林のあちこちで「ウオーッ、ウオーッ・・・」というオランウータンの甲高くもの悲しい鳴き声が、密林にこだまして不気味だ。ふとその時、シンガポールの目抜き通りのオーチャードロードの師走の雑踏と、クリスマスの華やかな飾り付けの光景が目に浮かんできて、なんだか妙に人が恋しくなった。

都会への郷愁の思いにかられながら、夜空を仰ぐと満天の星だ。驚異的な数に圧倒される。すべての星が、今にも頭上に降り注いでくるかのようにキラキラと輝いている。

私があっけにとられて星々を凝視する間に、流れ星が一つ二つと短い尾を引きながら視界を過(よ)ぎる。まさに、果てしない濃紺の夜空をいともたやすくキャンバスにした、星たちが織りなす天体ショーだ。

旅人のような流れ星は、一体、何処から来て何処へ去って行くのだろう。流れ星の行方に思いを巡らせながら、宇宙の偉大さと不思議に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。

そんな思いを巡らせている間に、ふと聖書のくだりに「ユダヤのベツレヘムという町に私たちの救い主がお生まれになった。この方こそ、主なるイエス・キリストである。それを知った東方の三博士がベツレヘムに向かい、家畜小屋に入って、父ヨセフ、母マリヤのそばにいる幼子に会い、ひれ伏して拝み、乳香・黄金・没薬などの贈り物を捧げた」という話があったことを思い出した。約二千年前、イエス・キリストが誕生したというクリスマスの話だ。

気が付くと、ジェット機の爆音が遠ざかり、点滅するライトが漆黒の闇に消えていた。と、その時、鋭い犬の遠吠えが、凍てつく闇夜の壁を突き破り、私は、四半世紀も昔の懐かしい思い出から無理矢理引き戻されてしまった。

今、悲喜こもごもの一年が終わろうとしている。私は、何時しか夜の静寂の中で、星の瞬く大地に思いを馳せながら、星空の下で一人佇んでいた。

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高橋幸夫(たかはし・ゆきお)

1947年、東京生まれ。68年、東京都立航空工業高等専門学校機械工学科卒。同年小松製作所入社、海外事業本部配属。78~83年、現地法人小松シンガポールに出向駐在、販売促進業務全般に従事。この間、アセアン諸国、ミャンマー等に70回以上出張する。88~93年、本社広報宣伝部宣伝課長として国内外の広告宣伝業務全般及び70周年記念のCIプロジェクト事業の事務局として事業企画の立案・推進実行に従事。欧米出張多数。93年、コマツのグループ子会社に出向。98年、早期定年退職制度に従い退職。2006年、柏市臨時職員、柏市介護予防センター「ほのぼのプラザますお」のボランテイアコーデイネータ。07年、天に召される。

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