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雲海のかなたに

雲海の彼方に(11)双子座流星群と子犬 高橋幸夫

2015年1月6日07時21分 コラムニスト : 高橋幸夫
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高橋幸夫氏+

冬至を一週間後にひかえた肌寒い朝。新聞の「双子座流星群あすの夜ピーク」という見出しが目に留まる。冬の夜空を彩る双子座流星群が12月13日にピークを迎える、とある。

今年は、月明かりの邪魔もなく数年に一度の好機という。条件がよい場所では、一時間に50個以上も見えるそうだ。「よーし、今夜は是非見よう!」と期待に胸をふくらませて、いつものように散歩に出かけた。

しばらく歩いて家の近くまで戻ってみると、突然、眼前に繰り広がる美しい光景に目を奪われてしまった。道端の高さが20メートルもあろう古木から、数百、数千の黄金色の枯れ葉が、まるで吹雪の如くぱらぱらと舞い落ちる光景が目に飛び込んできた。

自然が書いたシナリオだろうか。まったく偶然の出来事に呆気にとられながら、思わずカメラで撮影できないことを残念に思った。そこで、この瞬間の感動を心に焼き付けようと、じっと目を懲らし、記憶のシャッターを切った。

「こいつは朝から縁起が良いではないか」と思いつつ、乱れ落ちる枯れ葉の心地よいシャワーを浴びながら、今宵、夜空に展開されるであろう双子座流星群の華やかな天体ショーを思い描いたのであった。

その夜、家の外に出て、水田の畔道(あぜみち)に立ち天空を仰いだ。そこへ、子犬を連れた見知らぬ中年のオバサンが近寄って来て、「少し、雲がありますねえ」と人懐こく話しかけてきた。やはり、私と同様に双子座流星群の見物らしい。

すると、そのオバサン、夜空を見上げながら、やおら右の手のひらで、東の上空にたなびくカーテン状の雲を仰ぐ仕草を始めた。何のまねだろうかと見ている私に、「早くあの雲が風に吹かれて通り過ぎると良いわねえ!」と言いながら、必死に仰いでいる。何とも無邪気で滑稽でもある。

このオバサンは小太りで、おまけに下っ腹がポッコリと突き出ているから、その姿はまるで七福神の中の一人が、団扇で福を呼び込んでいるようで、とても可笑しい。と、その瞬間、オバサンが、「あっ、見えた、見えたー! 一個、二個・・・」と頓狂な声を上げたのである。

その夜の空模様では、双子座流星群の星を一個でも見られるということは、千載一遇のチャンスに等しいのだ。オバサンの雲扇ぎの行(ぎょう)がその少ないチャンスを呼び込んだのであろうか。

実はその時、私の方は、それどころの話、ではなかったのだ。子犬が私に前足をかけて、「キャン、キャン、キャン・・・」と、鳴き騒いで、あわや私を噛みつかんばかりの状況にあったのだ。私は子どもの頃に、スピッツに太ももをかまれた苦い経験がある。その時の記憶が急に蘇ってきたので、双子座流星群どころの騒ぎではなかった。

一方、件(くだん)のオバサンは、私の狼狽(ろうばい)ぶりを目の当たりにして、「あら、うちのワンちゃんがお邪魔した隙に見逃したの? 残念だわねえ」と他人事のように言い放った。

さて、その夜、私はとうとう双子座流星群を見ることが出来なかったのである。因みに新聞の予想図によれば、「双子座流星群は、子犬座の近くを通過(ニアミス)して行く」とあった。即ち、子犬が私に近づき噛みつき損なった(ニアミス)の瞬間に、私は双子座流星群を見損なったのだ。

夜空では、双子座流星群と子犬座の織りなす天体ショーが繰り広げられ、地上では、子犬と私のとんだ一幕が演じられた訳だ。束の間に、私の見逃した双子座流星群は、満天に煌(きら)めく星座の中を、どこに向かって消え去って行ったのであろうか――。夜の静寂(しじま)の中にいつしか、時も流れ去っていった。

■ 雲海のかなたに: (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)

◇

高橋幸夫(たかはし・ゆきお)

1947年、東京生まれ。68年、東京都立航空工業高等専門学校機械工学科卒。同年小松製作所入社、海外事業本部配属。78~83年、現地法人小松シンガポールに出向駐在、販売促進業務全般に従事。この間、アセアン諸国、ミャンマー等に70回以上出張する。88~93年、本社広報宣伝部宣伝課長として国内外の広告宣伝業務全般及び70周年記念のCIプロジェクト事業の事務局として事業企画の立案・推進実行に従事。欧米出張多数。93年、コマツのグループ子会社に出向。98年、早期定年退職制度に従い退職。2006年、柏市臨時職員、柏市介護予防センター「ほのぼのプラザますお」のボランテイアコーデイネータ。07年、天に召される。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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