Skip to main content
2025年6月15日20時35分更新
クリスチャントゥデイ
メールマガジン サポーターのご案内
メールマガジン サポーターのご案内
Facebook Twitter
  • トップ
  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
  • 記事一覧
  1. ホーム
  2. 論説・コラム
  3. コラム
雲海のかなたに

雲海の彼方に(12)忘れかけていた風景 高橋幸夫

2015年1月21日12時31分 コラムニスト : 高橋幸夫
  • ツイート
印刷
関連タグ:高橋幸夫
高橋幸夫氏+

秋の日の午後、白いちぎれ雲が林の上に浮かんでいる。野鳥のさえずりが、どこからともなく聞こえ、赤とんぼが、そこかしこに飛び交う。畔道(あぜみち)に群生する秋桜(コスモス)が、青空をキャンバスにして穏やかに揺れている。秋の里山は、すこぶる清々しく、まるで一幅の絵を見るようだ。

その時、ふとある既視感のようなものが私の頭をよぎった。それが何かは分からないままに、畔道に歩を進めて行くと、一人黙々と稲刈りをする老婆の姿が目に入ってきた。姉さんかぶりに、もんぺ、地下足袋という野良着のいでたちが、黄金色の稲田にとけ込んでいた。

「こんにちは、良い天気ですねえ」「ああ、そうだなあ、秋晴れだ・・・」「ご精が出ますね」「うん、やっとあがったからな・・・。旦那さん、散歩かね?」と言って老婆は、曲がった腰をかばいながら、稲田から畔道に上がって来た。「よっこらしょっと、あーあ、えらいえらい!」

すると突然、道端の杭につながれていた小犬が、老婆に駆け寄りけたたましく吠えだした。茶色のブチ模様に短足、おまけに垂れ目垂れ耳のひょうきんな顔つきだから、なんともおかしい。

「こらあ、うるせえー、静かにしてろ!」。老婆の一際(ひときわ)甲高(かんだか)い声が、稲田一面に響き渡った。その口調は甚だきつく、男勝りだった。

今朝、まだ朝靄(あさもや)がけむる頃、私は、朝刊を取りに外に出た。その時、老婆がはす向かいの家の前で、愛用の自転車のタイヤに空気を入れている姿を目にした。両足を踏ん張って体重を両手に思い切りのせ、力一杯に空気を押し込む様は、まことに微笑ましい光景であった。

老婆は毎朝、この補助輪付きの三輪自転車に小犬をつないで稲田に向かうのだ。小犬は、首輪に付けた鈴をチリンチリン、と鳴らしながら、老婆に引かれていく。そして、野良仕事の終わる夕方まで畔道で過ごすのだ。

「お婆さんのご主人は?」「あー、もう20年くらいまえに死んじまったよー・・・」「それじゃあ、田んぼの仕事はいつも一人でするんですか?」「ああー、ちかごろの若いもんは誰もやりたがらねえからよ。しょうがねんべ!」

聞けば、お婆さんの年は75歳。若くして遠く四国からここ千葉に嫁いで来た。子どもも成長してほっとしたのも束の間、ご主人に先立たれ、以来、この稲田を女手一つで守ってきたという話であった。

一年中、田植え、稲刈り、田起こし、と身を粉にして働いているそうだ。日焼けした顔に刻まれた幾本もの深い皺(しわ)が、その長年の苦労を物語っているかのようだった。

「旦那さん、この間奥さんから聞いたけどよ、病気したんだって。もういいのかい?」「えっ、まあ・・・。体力を付けようと思って、こうして毎日散歩してるんですよ」「そうだなあ、歩くのが一番良いもんな。この辺りは空気も良いからよ・・・」

実は、私は5年ほど家で引きこもりの生活をしていたのである。気分転換のために環境を変えようと、1カ月前に妻とこの地に転居した。先の見えない長いトンネルの暗闇の中から、漸く抜け出そうとしていた時に、この老婆に出会ったのだ。

この老婆にとっての私は、突然、目の前に現れたただの中年の男に過ぎない。にもかかわらず、きさくに会話に応じてくれる。

私は、老婆の飾り気のない少々ぶっきらぼうな口調に、返って親しみを覚えた。一方で、その人懐っこさの奥に、孤独に耐えながら一人で生きて来た老人の姿を垣間見た。

と、その瞬間、林を抜けてきた涼風が、私の頬をスーッと撫でて通り過ぎていった。老婆との四方山話に花が咲いている間に、「七つの子」のオルゴールの音が町に流れた。いつしか、畔道に落ちる私の影が長く伸びていた。

歩いてきた畔道の方に目をやると、夕日が西の空を茜色に染めながら、今にも町並のシルエットの中に沈もうとしていた。まさに秋の夕日は釣瓶落(つるべお)としだ。

その時、眼前に広がる里山の景色に、忘れかけていた風景が重なってきた。記憶の扉を開けて見れば、それは、義父が一人で立ち働く懐かしい故郷の里山の風景であった。

数カ月前、義父は、長年連れ添った妻を亡くした。その悲しみの中で、ひたすら大地を耕す義父の姿が、今、はっきりと目の前に蘇ってきたのである。

孤独に耐え忍び、老骨にむち打って、懸命に生きている人たちに思いを巡らしている間に、私の心の中に、この新しい地で新たな人生を一歩踏み出そうという気力が漲(みなぎ)ってきた。

「そうだ、今のこの自分の思いを、義父に書き送ろう!」と、私は、沈み行く夕日に向かって、一人静かに呟いていた。

■ 雲海のかなたに: (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)

◇

高橋幸夫(たかはし・ゆきお)

1947年、東京生まれ。68年、東京都立航空工業高等専門学校機械工学科卒。同年小松製作所入社、海外事業本部配属。78~83年、現地法人小松シンガポールに出向駐在、販売促進業務全般に従事。この間、アセアン諸国、ミャンマー等に70回以上出張する。88~93年、本社広報宣伝部宣伝課長として国内外の広告宣伝業務全般及び70周年記念のCIプロジェクト事業の事務局として事業企画の立案・推進実行に従事。欧米出張多数。93年、コマツのグループ子会社に出向。98年、早期定年退職制度に従い退職。2006年、柏市臨時職員、柏市介護予防センター「ほのぼのプラザますお」のボランテイアコーデイネータ。07年、天に召される。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:高橋幸夫
  • ツイート

関連記事

  • 過激なイスラム聖戦主義:欧米文化に対する恐るべき脅威

  • 富についての考察(11)アナニヤとサッピラが死んだ理由 木下和好

  • 働くことに喜びがありますか?~新約聖書に見る本来の労働の姿~(11)パウロに見る本来の労働の姿 門谷晥一

  • 聖書をメガネに 記憶と記録(その4)

  • 私たち人間の能力ではできない仕事を、あえてさせてくださる神(1)はじめに 森正行

クリスチャントゥデイからのお願い

皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。

サポーターになる・サポートする

人気記事ランキング

24時間 週間 月間
  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む(5)時の賛歌 臼田宣弘

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • ワールドミッションレポート(6月12日):ベルギーのために祈ろう

  • ワールドミッションレポート(6月15日):ベラルーシのために祈ろう

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • ワールドミッションレポート(6月14日):スイス 信仰で買ったトラクター、ローレン・カニングハムとYWAMに託された農場の奇跡

  • 花嫁(27)絶えず喜んでいなさい 星野ひかり

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • ウォルター・ブルッゲマン氏死去、92歳 現代米国を代表する旧約聖書学者

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • フランクリン・グラハム氏、ゼレンスキー大統領と面会 和平求め祈り

  • 淀橋教会、峯野龍弘主管牧師が引退し元老牧師に 新主管牧師は金聖燮副牧師

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • ウォルター・ブルッゲマン氏死去、92歳 現代米国を代表する旧約聖書学者

編集部のおすすめ

  • 四国の全教会の活性化と福音宣教の前進のために 「愛と希望の祭典・四国」プレ大会開催

  • イースターは「揺るぎない希望」 第62回首都圏イースターのつどい

  • 2026年に東京のスタジアムで伝道集会開催へ 「過去に見たことのないリバイバルを」

  • 「山田火砂子監督、さようなら」 教会でお別れの会、親交あった俳優らが思い出語る

  • 日本は性的人身取引が「野放し」 支援団体代表者らが院内集会で報告、法規制強化を要請

  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
Go to homepage

記事カテゴリ

  • 教会 (
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
    )
  • 宣教
  • 教育
  • 国際 (
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
    )
  • 社会 (
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
    )
  • 文化 (
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
    )
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム (
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
    )

会社案内

  • 会社概要
  • 代表挨拶
  • 基本信条
  • 報道理念
  • 信仰告白
  • 編集部
  • お問い合わせ
  • サポーター募集
  • 広告案内
  • 採用情報
  • 利用規約
  • 特定商取引表記
  • English

SNS他

  • 公式ブログ
  • メールマガジン
  • Facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • YouTube
  • RSS
Copyright © 2002-2025 Christian Today Co., Ltd. All Rights Reserved.