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雲海のかなたに

雲海の彼方に(12)忘れかけていた風景 高橋幸夫

2015年1月21日12時31分 コラムニスト : 高橋幸夫
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高橋幸夫氏+

秋の日の午後、白いちぎれ雲が林の上に浮かんでいる。野鳥のさえずりが、どこからともなく聞こえ、赤とんぼが、そこかしこに飛び交う。畔道(あぜみち)に群生する秋桜(コスモス)が、青空をキャンバスにして穏やかに揺れている。秋の里山は、すこぶる清々しく、まるで一幅の絵を見るようだ。

その時、ふとある既視感のようなものが私の頭をよぎった。それが何かは分からないままに、畔道に歩を進めて行くと、一人黙々と稲刈りをする老婆の姿が目に入ってきた。姉さんかぶりに、もんぺ、地下足袋という野良着のいでたちが、黄金色の稲田にとけ込んでいた。

「こんにちは、良い天気ですねえ」「ああ、そうだなあ、秋晴れだ・・・」「ご精が出ますね」「うん、やっとあがったからな・・・。旦那さん、散歩かね?」と言って老婆は、曲がった腰をかばいながら、稲田から畔道に上がって来た。「よっこらしょっと、あーあ、えらいえらい!」

すると突然、道端の杭につながれていた小犬が、老婆に駆け寄りけたたましく吠えだした。茶色のブチ模様に短足、おまけに垂れ目垂れ耳のひょうきんな顔つきだから、なんともおかしい。

「こらあ、うるせえー、静かにしてろ!」。老婆の一際(ひときわ)甲高(かんだか)い声が、稲田一面に響き渡った。その口調は甚だきつく、男勝りだった。

今朝、まだ朝靄(あさもや)がけむる頃、私は、朝刊を取りに外に出た。その時、老婆がはす向かいの家の前で、愛用の自転車のタイヤに空気を入れている姿を目にした。両足を踏ん張って体重を両手に思い切りのせ、力一杯に空気を押し込む様は、まことに微笑ましい光景であった。

老婆は毎朝、この補助輪付きの三輪自転車に小犬をつないで稲田に向かうのだ。小犬は、首輪に付けた鈴をチリンチリン、と鳴らしながら、老婆に引かれていく。そして、野良仕事の終わる夕方まで畔道で過ごすのだ。

「お婆さんのご主人は?」「あー、もう20年くらいまえに死んじまったよー・・・」「それじゃあ、田んぼの仕事はいつも一人でするんですか?」「ああー、ちかごろの若いもんは誰もやりたがらねえからよ。しょうがねんべ!」

聞けば、お婆さんの年は75歳。若くして遠く四国からここ千葉に嫁いで来た。子どもも成長してほっとしたのも束の間、ご主人に先立たれ、以来、この稲田を女手一つで守ってきたという話であった。

一年中、田植え、稲刈り、田起こし、と身を粉にして働いているそうだ。日焼けした顔に刻まれた幾本もの深い皺(しわ)が、その長年の苦労を物語っているかのようだった。

「旦那さん、この間奥さんから聞いたけどよ、病気したんだって。もういいのかい?」「えっ、まあ・・・。体力を付けようと思って、こうして毎日散歩してるんですよ」「そうだなあ、歩くのが一番良いもんな。この辺りは空気も良いからよ・・・」

実は、私は5年ほど家で引きこもりの生活をしていたのである。気分転換のために環境を変えようと、1カ月前に妻とこの地に転居した。先の見えない長いトンネルの暗闇の中から、漸く抜け出そうとしていた時に、この老婆に出会ったのだ。

この老婆にとっての私は、突然、目の前に現れたただの中年の男に過ぎない。にもかかわらず、きさくに会話に応じてくれる。

私は、老婆の飾り気のない少々ぶっきらぼうな口調に、返って親しみを覚えた。一方で、その人懐っこさの奥に、孤独に耐えながら一人で生きて来た老人の姿を垣間見た。

と、その瞬間、林を抜けてきた涼風が、私の頬をスーッと撫でて通り過ぎていった。老婆との四方山話に花が咲いている間に、「七つの子」のオルゴールの音が町に流れた。いつしか、畔道に落ちる私の影が長く伸びていた。

歩いてきた畔道の方に目をやると、夕日が西の空を茜色に染めながら、今にも町並のシルエットの中に沈もうとしていた。まさに秋の夕日は釣瓶落(つるべお)としだ。

その時、眼前に広がる里山の景色に、忘れかけていた風景が重なってきた。記憶の扉を開けて見れば、それは、義父が一人で立ち働く懐かしい故郷の里山の風景であった。

数カ月前、義父は、長年連れ添った妻を亡くした。その悲しみの中で、ひたすら大地を耕す義父の姿が、今、はっきりと目の前に蘇ってきたのである。

孤独に耐え忍び、老骨にむち打って、懸命に生きている人たちに思いを巡らしている間に、私の心の中に、この新しい地で新たな人生を一歩踏み出そうという気力が漲(みなぎ)ってきた。

「そうだ、今のこの自分の思いを、義父に書き送ろう!」と、私は、沈み行く夕日に向かって、一人静かに呟いていた。

■ 雲海のかなたに: (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)

◇

高橋幸夫(たかはし・ゆきお)

1947年、東京生まれ。68年、東京都立航空工業高等専門学校機械工学科卒。同年小松製作所入社、海外事業本部配属。78~83年、現地法人小松シンガポールに出向駐在、販売促進業務全般に従事。この間、アセアン諸国、ミャンマー等に70回以上出張する。88~93年、本社広報宣伝部宣伝課長として国内外の広告宣伝業務全般及び70周年記念のCIプロジェクト事業の事務局として事業企画の立案・推進実行に従事。欧米出張多数。93年、コマツのグループ子会社に出向。98年、早期定年退職制度に従い退職。2006年、柏市臨時職員、柏市介護予防センター「ほのぼのプラザますお」のボランテイアコーデイネータ。07年、天に召される。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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