こころと魂の健康(16)怒りの処方箋I 渡辺俊彦

2015年3月23日07時12分 コラムニスト : 渡辺俊彦 印刷
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私たちの教会から自転車で10分ほど行ったところに大きなお寺があります。そのお寺の入り口の掲示板に「怒りは敵と思え」という文書が訓辞のように貼ってありました。数日後、サンデー時評を読んでいると、「殺人列島になってしまいそうだ」という記事を目にしました。内容を要約すると、次のようになります。殺人は昔からあった。しかし、最近はどこか違う。50歳の若い祖母がたわいない理由で孫を殺す、などという事件は、かつては絶対になかった。小憎らしい孫がいて、折檻することはあっても、命を奪うところまではいかない。しかし最近は、低年齢化する殺人事件や傷害事件の増加、怒りをコントロールできずに殺人犯になってしまう人々が増えてしまった。日本はいったいどうなってしまったのか、というのです。

私たちは、時に怒りの感情にコントロールされていると感じることがあります。そして、不安と多くの不健康な罪意識で悩むことがあります。怒りを否定的なものとして心の中に抑圧している傾向が強いからです。この状態のままで生活している人は、いつになっても情緒的に未熟で、成長できないばかりか様々な問題を起こします。それは、情緒的、精神的、肉体的な問題や人間関係が円滑に進まない原因となって現れます。多くの人々は、自分の内側に怒りの感情があることに気がついていません。気がついても吟味もせず放置しています。

このような方がおられました。一人で自分の部屋にいる時はよいのですが、一歩町に出ると程度の差はあれ、イライラしてしまうのです。しかも、時々ではなくいつもなのです。前を行く人の歩くスピードが遅い、また私の前に無神経に入ってきて進行を妨げる、私に向かって歩いてくる人は、ぶつかっても「すいません」「ごめんなさい」とも言わないなどとイライラしています。自転車を使用する時も歩いている時と同様にイライラします。電車に乗れば周囲の無神経さにイライラしています。ある時、電車の中で怒りが爆発し、隣の人の足を思いっきり傘の先端でたたいてしまいました。また、怒りのあまり意図的に人にぶつかったり、自転車で道をふさいだりしてしまう日々が続くようになったのです。

やがてこの方は、自分の内にある怒りをどのように処理したらよいか分からずに苦しむようになりました。いつも人々に対してイライラし不愉快な思いをしていました。このような状態は不健康であることが分かります。しかし、怒りの処理の仕方を知らないのです。当然です。私たちは、怒りの処理の仕方を学んでいないのです。怒りをどのように理解し、対応したらよいのか、誰も教えてくれません。

さて、自分の怒りに対して肯定的な態度を身につけ、それを受容できるようになることは大切なことです。自分の怒りを受容できるようになると、他者の怒りの感情に気がつき、受容することができるようになっていくからです。すると、怒りは人間にとって大切な感情であることが分かります。怒りの感情の大切さが分かったら、怒りの感情を受容しながら対応し、表現することを学んでいけばよいのです。すると、具体的に「何を怒っているのか」「誰に怒っているのか」が分かってきます。その結果、非合理的な怒りと合理的な怒り、不当な怒りと正当な怒りを見分けることができるようになるのです。この見極めを身につけ、上手に、適切な時や場所を選んで適した方法で表現するようにすればよいのです。

私たちの怒りは、私自身の持ちものです。私たちは、その怒りの事実と結果に責任を取らなければなりません。私たちは、怒りという感情を自分でコントロールすることが可能なのです。

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渡辺俊彦

渡辺俊彦(わたなべ・としひこ)

1957年生まれ。多摩少年院に4年間法務教官として勤務した後、召しを受け東京聖書学院に入学。東京聖書学院卒業後、日本ホーリネス教団より上馬キリスト教会に派遣。ルーサーライス神学大学大学院博士課程終了(D.Mim)。ルーサーライス神学大学大学院、日本医科大学看護専門学校、千葉英和高等学校などの講師を歴任。現在、上馬キリスト教会牧師、東京YMCA医療福祉専門学校講師、社会福祉法人東京育成園(養護施設)園長、NPO日本グッド・マリッジ推進協会結婚及び家族カウンセリング専門スーパーバイザー、牧会カウンセラー(LPC認定)。WHOのスピリチュアル問題に関し、各地で講演やセミナー講師として活動。主な著書に『神学生活入門』『幸せを見つける人』(イーグレープ)、『スピリチュアリティの混乱を探る』(発行:上馬キリスト教会出版部、定価:1500円)。ほか論文、小論文多数。

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