山上の垂訓から学ぶ「キリストの人材教育」(28)黒田禎一郎

2015年9月16日08時12分 コラムニスト : 黒田禎一郎 印刷
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第3番目に、私たちはどう生きるべきかを考えましょう。

「心のきよい人は幸いです」と、山上の垂訓は教えています。簡単に言えば、人は原則に忠実であるべきだということです。それは夢を描くこと、ビジョンです。「心のきよい人は幸いです。その人は神を見るからです」。すなわち神の前にアカウンタビリティー(説明責任、自己責任)を持ち歩む人は、「心の清い人」に近づくことができるわけです。そのような生き方は、一つの夢かビジョンであるかもしれません。しかしながら、この原則をまずしっかり保持することが第一に大切です。その人こそ神の前に生きる人で、アカウンタビリティーのある人です。そして第二に、その原則に信頼を持つことです。信頼という言葉と信仰という言葉は、同じ語源から出ています。信頼があるから信じられ、信仰を持てるのです。そう考えてくると、ビジョン、アカウンタビリティー、信仰を持つという基本的姿勢が重要であることがお分かりでしょう。

フローレンス・ナイチンゲールという女性を知らない人はいないでしょう。彼女は夢を描いた人です。ナイチンゲールはどんな夢を描いたかといえば、病人、弱者、貧しい人々を救いたいという単純な夢でした。19世紀においてナースという仕事は、今の時代と異なり、あまり尊敬されていない分野でした。しかも、彼女はイギリスの資産家のお嬢様として生まれました。彼女は31歳のときに、家族の猛反対を押し切りドイツの看護学校に入学しました。その看護学校は私が住んでいたデュッセルドルフの隣町にあります。現在はデュッセルドルフ市に入っていますが、キリスト教のディアコニッセという大施設内にある看護学校で、付属病院も隣接しています。彼女は31歳のときに看護学校に入り、3年間勉強し、34歳でクリミア戦争に派遣されました。それは偏見、差別、戦いがあった時代でした。彼女は多数の負傷兵を看護し救いました。味方の負傷した兵隊たちの看護だけではなく、横たわっていた敵の兵隊たちにも看護しました。ナイチンゲールが評価された背景の一つは、彼女が意思の強い人だったことです。いったん決めたら必ずやるという人、彼女は鉄のような固い意思を持っていたと言われます。彼女がクリミア戦争に出掛けたとき、周りの人々がこう言ったそうです。「女の人に何ができるか。戦争に行ったって何もできない」と非常に冷ややかに扱われたそうです。しかし、彼女はひるむことなく「クリミア戦争の天使」と呼ばれ、人々から愛される人物になりました。現在、世界の看護学校で行われる戴帽式で、ナイチンゲール憲章が唱和されます。彼女にはまさしくビジョン、アカウンタビリティー、信仰がありました。クリスチャンであった彼女は、後世の人々に大きな影響を残しました。

このように聖書は、人を励まし正しく導く道を説いています。多くの人々は一生懸命働き、会社や家を建てようと努めています。しかし、現実はなかなか成果を収めることができません。

話は変わりますが、以前信頼は一瞬にして崩れるという事件が起こりました。それは東横イン事件です。東横イン西田社長の不用意な発言で信頼と顧客を失う破目になり、マスコミは一斉に取り上げました。西田社長の発言内容は、「制限速度が時速60キロの道を67、68キロで走っても、まあいいかと思っていた」でした。その背景には、2006年1月27日工事の完了検査後、東横インは届けた書類と異なる目的に施設を改造していたのでした。具体的にいえば身障者用に用意した場所を、収入が増すように勝手に改修し、収入が入る目的に使っていたことが判明したのです。マスコミは大きく取り上げました。その時、西田社長は次のように言いました。「われわれは、それほど極悪非道なことをしたわけではない」。多くの人々は、この発言から違法を違法と思わない企業体質と受け止めました。すなわち東横イン事件は、社長の言った一言が長年築き上げてきたブランドイメージを一瞬のうちに崩してしまったのです。信頼は一瞬にして崩れると言いますが、まさしくそのとおりです。

問題はどこから来たかといえば、心の基準がずれていたからです。違法行為で非難を浴び、さらに社長の失言が火に油を注ぐ結果になってしまったのが東横イン事件でした。会社は大切な顧客との信頼のきずなを失うことになりました。その後、東横インを利用した顧客100人にアンケートを取った結果、約3分の2の64人が事件で「東横インのイメージが悪化した」と答えました。39人が、すなわち4割が「今後は利用したくない」と答えたそうです。他に、会見で社長の開き直った態度が印象を悪くしたとか、接客サービスも良いのに残念だ、という意見も出ていました。考えてみれば、このような失敗や信頼を失う出来事は他人事ではありません。私たちも、あるいはこのような失点をするかもしれません。それはどこから来るのでしょうか。やはり心の内側から来るのです。従って、どこに自分の信念と原則を置くかということは大変重要です。

読売新聞朝刊〔2006年6月22日付〕のトップ記事は、日銀福井総裁の辞任要求が何と4割もあると報じています。そして、その日の同新聞2ページには全く正反対の記事が出ていました。それは第3回新渡戸稲造・南原繁賞を受賞した資生堂会長、故池田守男氏(当時69歳)の記事です。私はこの記事を大きな感動をもって読みました。この2つは対照的なことです。ご存じのように新渡戸稲造氏は日本円紙幣のお札にもなっています。南原繁氏は東大の学長も務められた方です。資生堂元会長の池田守男氏は、社長時代に「サーバント・リーダーシップ」を提唱した人でした。彼はクリスチャン経営者としてキリスト教を基盤にし、国際平和と教育に人事を尽くした人です。同じように、国際平和や教育に尽力した新渡戸稲造氏は、元国際連盟事務次長をしておられました。この両氏の精神の継承者に贈られる賞が新渡戸・南原賞です。これを経営者として、ビジネスマンとして初めて受賞したのが資生堂の池田守男氏です。池田氏は、「人生の節目、節目で指針を与えられたのは新渡戸先生の著書『武士道』で、私はどんな賞よりもこの賞を頂いてうれしい」と語っています。

彼と新渡戸氏の書『武士道』との出会いは、クリスチャンとしての生き方を模索していた19歳の頃でした。彼は「キリスト教を武士道の幹に接ぎ木する」という一節に魅せられ、牧師を志願し、東京神学大学に進学しました。しかし、「牧師になるだけが信仰の道ではない。一度社会へ出よう」と彼は資生堂に入社しました。資生堂に入った後も、キリスト教精神は彼の心の支えとなっていました。店頭で化粧品を販売する社員がトップで、社長は一番下、会社全体に奉仕するという逆ピラミッド型の発想「サーバント・リーダーシップ」を提唱しました。この視点から経営改革を進め、社外にも「社会全体が物資・金銭主義に傾聴し人間性が失われていってしまう」と警笛を鳴らしていました。それでも後を絶たない企業の不祥事に、彼は「人も企業も多くの庇護の下で存在している。常に感謝の念を持たなければならない。社会の役に立つように努力するのはビジネスマンとして当たり前のことだ」と述べています。2006年6月、池田氏は資生堂相談役に退かれましたが、後も『武士道』を傍らに、奉仕と献身を社会活動で貫いていきたいと語っておられました。日本では少ないですが、聖書を基盤としたこのような素晴らしい経営者がおられることは幸いなことです。私は大きな感動と敬意を覚えました。

ここでまとめてみましょう。本日のテキストは「心のきよい者は幸いです。その人は神を見るから」です。

  1. まず、「心の清い者」とは一体誰でしょうか。それは神一人しかいません。人間がどれだけ装っても、美しく見せようとしても限界があることを覚えなければなりません。
  2. 次に、どのような生き方が問われているのでしょうか。しっかりした、聖書を土台とした生き方が、今の時代に求められています。
  3. 第3番目に、ビジネスマンの生き方です。人生の成功は、ポール・マイヤー氏の言葉「成功は心構えの産物である」「成功は習慣の産物である」というような「心構え」と「習慣」にかかっていることを覚えなければなりません。

■ キリストの人材教育: (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)
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黒田禎一郎

黒田禎一郎(くろだ・ていいちろう)

1946年、台湾・台北市生まれ。70年、ドイツ・デュッセルドルフ医科大学病院留学。トリア大学精神衛生学部、ヴィーダネスト聖書学校卒業。75年、旧ソ連・東欧宣教開始。76年、ドイツ・デュッセルドルフ日本語キリスト教会初代牧師就任。81年、帰国「ミッション・宣教の声」設立。84年、グレイス外語学院設立。87年、堺インターナショナル・バイブル・チャーチ設立、ミニスター。90年、JEEQ(株式会社日欧交流研究所)所長。聖書を基盤に、欧州情報・世界 情報、企業講演等。98年、インターナショナル・バイブル・チャーチ(大阪北浜)設立、活動開始。01年、韓日ワールドカップ宣教GOOL2002親善大使として活躍。著書に『世界の日時計』(Ⅰ~Ⅲ)、『無から有を生み出す神』『新しい人生』『愛される弟子』『神のマスタープランの行くへ』『ヒズブレッシング』、韓国語版『聖書と21世紀の秘密』、中国語版『神の聖書的ご計画』他訳書あり。

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