米国の福音派はどこへ向かうのか? トランプ政権下における Evangelicals の変遷(2)

2019年7月16日21時29分 執筆者 : 青木保憲 印刷
+ドナルド・トランプ
2月5日に米議会で就任2度目となる一般教書演説をするドナルド・トランプ大統領(写真:ホワイトハウス / Shealah Craighead)

前回に引き続き、トランプ政権と福音派の関連が取り沙汰された出来事を見ていこう。

● メキシコ国境の壁をめぐる問題

人道的、外交的に人々の注目を最も集めているのが「メキシコ国境の壁」問題だろう。主なやりとりを時系列にまとめてみた。

<2018年>

11月初旬 中米3カ国から難民として米国国境を目指す「キャラバン」が1万人以上に膨れ上がる。

11月22日 トランプ大統領が、キャラバンに対する対応で、米軍部隊に殺傷能力がある武器の使用を許可する声明を発表。

12月22日 国境を分断する壁の建設費用をめぐり、与野党が対立。政府予算が成立しないため、政府機関が一部閉鎖される事態に発展。

<2019年>

2月16日 トランプ大統領が非常事態宣言を発令。壁の建設を強引に推し進めようとする。

3月14日 上院議会は、大統領の非常事態宣言の無効を決議。

3月16日 上院議会の決議を不服とし、トランプ大統領が拒否権を発動。

3月26日 拒否権発動の無効を求めて、下院議会が採決。拒否権発動は覆らず。

4月5日 下院議会が首都ワシントンの連邦地裁に拒否権発動の違憲性を訴えて提訴。今後は法廷論争へ――。

熾烈(しれつ)な政治闘争の跡が読み取れるが、これまたその前提に大きな疑義を差し込まざるを得なくなる。それは米世論調査機関「ピュー研究所」による1月16日付の調査結果である。それによると、米国に滞在する不法移民の数は2015年以降、年々減少傾向にあり、しかも不法移民のほとんどは正規入国した移民たちがオーバーステイすることで不法移民化するという実態である。

もしそうなら、国境に壁を造ることが決定的な事態の改善につながるといえるだろうか。しかもこのような正しい理解をしている米国民は、全体の45パーセントにとどまっているというのだ。つまり国民の半数以上は誤った理解、歪められた報道やプロパガンダに踊らされ、壁建設の是非を議論していることになる。図やその解説は、拙論「中米の移民集団『キャラバン』をめぐる騒動」(2018年11月24日)や、「『不法移民』を正しく理解している米国民は半数以下!?」(2019年2月5日)を参照していただきたい。

この傾向は、福音派であっても同じである。さまざまなキリスト教系メディアは、キャラバンの中にボランティアで入っていくことで人道支援を行う牧師や教会の様子をレポートしている。しかし、これらの議論の前提を問う声はほとんど聞こえてこない。まして、日本のメディア(キリスト教系を含む)においておや、である。

米国の福音派にとっては身近な問題であるため、主観的・感情的な論が噴出することは致し方ないだろう。しかし、日本からこの問題を眺めざるを得ない私たちは、もう少し冷静に事態を分析するツールを手にすべきではないだろうか。大胆な言い方をするなら、「壁問題」そのものがフェイクニュースであり、それを知らずに勝手な議論にふけっている可能性が多分にあるということだ。

トランプ政権はこの事実を当然把握しており、現実路線としてメキシコとの外交を考えているといえる。事実、6月8日にドナルド・トランプ大統領は、不法移民の脅威を理由にメキシコ製品に課すと表明していた制裁関税の発動を無期限で見送ることを明らかにした。移民として送り出す側で取り締まりをしなければ、いくら物理的な壁を造っても現実的な効果は薄いということだろう。その線でメキシコ政府が同意したことで、両国の経済摩擦は解消された。後は、トランプ大統領が公約に掲げていた壁を(どんな形であれ)建設することで、彼はこれまた「有言実行」の指導者としての地位を確保できることになる。

一方、福音派は人道的立場からトランプ政権を支持することが本来ならできなくなる。福音主義に立つならそうであろう。しかし、壁の建設に対する是非をなるべく問わない形で人道支援に徹することで、この問題でやり玉に挙げられることを避けようとしているのではないだろうか。そういった意味では、彼らはフェイクニュースに寄りかかって事態をやり過ごそうとする現実対応的な「老練な一面」をさらすことになるのかもしれない。

● 最高裁判事をめぐるやり取り

トランプ政権を評価する人々の中に最も深く根付いている感覚は、1950年代後半以降、米国社会がリベラル化しているというものだろう。公民権運動しかり、カウンターカルチャーしかり、レーガン政権下で多少かつての価値観への顧みがあったとはいえ、最高裁が1973年にロー対ウェイド裁判で出した「中絶合法化(と保守系は見なしている)」の流れは変わらず、そこに今ではLGBTの流れも混在する。

そのため、4年ごとに改選が行われる大統領それ自体の問題のみならず、彼が指名できる最高裁判事の動向に、国は大きく左右される。最高裁判事は終身制であるため、判事が引退を表明するか、死去する以外に交代はあり得ない。

それを分かっている大統領たちは、こぞって自分の政権下で各々の政治的立場に合う判事任命を願う。しかし時のいたずらか、一番「変化(Change)」を願ったオバマ政権下ではこれが思うように行われなかった。彼が指名を目論んだ穏健リベラル派のメリック・ガーランド判事の指名は期限切れとなり、それに替わる形で、トランプ大統領が保守派のニール・ゴーサッチ判事を任命した。2018年には、中間派として保守・リベラル間を取り持っていたアンソニー・ケネディ判事が引退を表明したため、トランプ大統領はわずか4年の間に2人もの最高裁判事を任命する権限を行使することができた。詳細は2018年7月2日から4回にわたって掲載した拙論「米司法界が保守化?」をご覧いただきたい。

現在、リベラル系判事4人に対して保守系5人ということで、いよいよ中絶やLGBTに対する長期的な抵抗運動が顕在化する可能性が高まったといえよう。この傾向には、福音派は賛成せざるを得ない。聖書の記述をそのまま受け止めているため、米国が聖書的基準に沿って進行することを「良し」とする流れは、それを誰が主導していようと、認めざるを得ない。

やがて再選への動きに本気で同調する福音派の流れが起こってくるだろう。エルサレム問題、最高裁判事任命、これらを見るだけでも、キリスト教用語を用いるなら「霊的な整え」が国家レベルで行われつつある、と見なす福音派層は決してなくならない。

次回は、これらのことを踏まえて、2020年の大統領選挙の展望を記してみたい。(続く)

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※ 本稿は、2019年6月10日に行われた日本福音主義神学会西部部会春期研究会で筆者が発表した内容に加筆・修正を加えたものであり、著作権は筆者本人に帰属する。

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会研修牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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