中米の移民集団「キャラバン」めぐる騒動 米福音派が迫られる「究極の選択」は近い?

2018年11月24日23時55分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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米国のアリゾナ州とメキシコのソノラ州の間にある国境沿いを警備する米国境警備隊のヘリコプター=2004年(写真:Dan Sorensen)
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米国がまた試練に立たされている。中米ホンジュラスの元国会議員が自身のフェイスブックで米国への移民を呼び掛けたことがきっかけとなり、ホンジェラスのみならず、エルサルバドルやグアテマラなどの中米諸国から、移民希望者が続々と米国の国境へと押し寄せているのである。当初は160人ほどで始まったこの計画だったが、東洋経済(14日付)によると、11月初旬の時点で中米3カ国の参加者は、子どもを含め1万人以上に膨れ上がっているという。ちなみにホンジェラスから米国の国境までは、ざっと4千キロ。そこを彼らは歩いて向かっているのである。失礼な言い方になるが、途方もない「命懸けの遠足」と言ってもいい大冒険だ。

移民を希望する人々が群れを成して米国を目指す、といういわゆる「キャラバン」という形態はさほど珍しいものではない。毎年春先にはこのような集団が、メキシコと米国の国境付近にやって来ることは今までもあったという。しかし、今回は規模が違う。さらに米国のドナルド・トランプ大統領が「メキシコとの国境に壁を造る」と宣言したため、警備が厳しくなったこともあり、今までのように彼らを寛大に扱うことに抵抗を感じる者たちが声を上げ始めているのが現状だ。

トランプ大統領は9日、警告を発しても増え続ける「キャラバン」を受け、国境警備の強化を指示。さらに、不法入国者の難民申請を認めない旨を示した大統領令に署名した。「キャラバン」の「国境越え」を何としてでも阻止する構えを示し、これを崩していない。

彼ら「キャラバン」がなぜ米国を目指すのか。新聞各紙は、その理由を大きく3つ挙げている。1つは、この3国がいわゆる「最貧国」に指定されるほど、経済状態が良くないこと。2つ目は「マスラ」と呼ばれる麻薬組織とつながったギャング集団が跋扈(ばっこ)し、治安が悪化していること。3つ目は、米国が移民の受け入れに寛大であるという歴史的裏付けがあること。特に目を引くのは、3番目の理由の根拠となるデータである。

21日放送のNHK「クローズアップ現代」は、米国に不法に入国しようとして拘束された人の数が、トランプ政権発足後も減っておらず、むしろ増え続けているという実態を伝えた。米国側の取り締まりが厳しくなる中であっても、移民たちの流れは止まっていないのだ。米国が今の状態を保つために、不法移民をうまく利用してきた実態がそこにある。「キャラバン」に参加した人々は、そこに一縷(いちる)の望みを託しているのだ。

ところが22日(米国では「感謝祭」の祝日)、トランプ大統領は、国境警備要員の後方支援に当たっている約5800人の連邦軍部隊に対し、殺傷力のある武器の使用を許可した。現地で混乱が生じた場合、国境全体の一時的な封鎖もいとわないとする考えを表明したのである。

まず政治的な見地から見るなら、この大規模「キャラバン」はトランプ政権にとっては「追い風」だろう。中間選挙前にトランプ大統領は「移民集団には多数のギャングや極悪人が紛れ込んでいる」と言い、自分の政策が間違っていなかったことをアピールしていた。今まで「メキシコとの国境に壁を造る」と聞いても、絵空事のようにしか思っていなかった米国民もいただろう。しかし今回の騒動で、そこにリアリティーを感じる者がいてもおかしくはない。

朝日新聞(19日付)によると、メキシコ北部のティフアナでは、そこまでたどり着いた「キャラバン」に反対する人々が集会を開き、警備に当たっていた機動隊と小競り合いになった。500人以上が避難所までデモ行進し、「不法移民は出て行け」「(キャラバンを優遇するより)メキシコ人の貧困層を支援しろ」などと叫び続けたという。簡単に彼らを通してしまい、「良き理解者」面をするメキシコ政府に対して、メキシコ国民の中で快く思っていない者たちは、「キャラバン」の排斥を願ったということであろう。この姿が米国との国境地域で繰り返されないとは限らない。

ではこのような一連の流れに対して、キリスト教界はどんな姿勢を見せているのだろうか。クリスチャン・リーダーズ誌(13日付、英語)には、トラビスパーク合同メソジスト教会(テキサス州サンアントニオ)のギャビン・ロジャーズ牧師による現地報告が掲載されている。それによると、彼は「キャラバン」のニュースを聞き、すぐにメキシコへ向かったという。

彼は現地の移民希望者と向き合い、語り合ったことを報告し、レビ記19章33〜34節を引用している。

寄留者があなたの土地に共に住んでいるなら、彼を虐げてはならない。あなたたちのもとに寄留する者をあなたたちのうちの土地に生まれた者同様に扱い、自分自身のように愛しなさい。なぜなら、あなたたちもエジプトの国においては寄留者であったからである。わたしはあなたたちの神、主である。(レビ19:33〜34、新共同訳)

そして次のように語る。

「移民希望者にキリスト者が唯一すべき対応、それは『隣人を自分と同じように愛せ』です。聖書は神の人々に対して、寄留者を不当に扱うことなく、『エジプトの国で寄留者であった』ことを思い起こして、私たち自身のように彼らを愛するよう命じています」

また、南部バプテスト連盟(SBC)の倫理宗教自由委員会副議長であるダニエル・ダーリング氏も、同じような視点で主張している。ワシントン・ポスト紙(2日付、英語)に寄せた寄稿でダーリング氏は、ペトロの第一の手紙2章11節やヘブル人への手紙11章13節など、複数の聖句を引用し、「キリスト者は、すべての人間の尊厳を尊重するよう求める聖書の呼び掛けを、キャラバンの移民たちの中に見るべきだ」と述べている。

愛する者たちよ。あなたがたに勧める。あなたがたは、この世の旅人であり寄留者である(から、たましいに戦いをいどむ肉の欲を避けなさい。)(ペトロ一2:11、口語訳)

これらの人はみな、信仰をいだいて死んだ。まだ約束のものは受けていなかったが、はるかにそれを望み見て喜び、そして、地上では旅人であり寄留者であることを、自ら言いあらわした。(ヘブル11:13、同)

おそらく米国の福音派に属する人々は、彼らの主張を理解し、同意することだろう。だが、こうした流れが「キャラバン」に対する取り組みのイニシアチブを取ることができるだろうか。

聖書的な視点を優先させるなら、ロジャーズ牧師やダーリング氏の指摘は正しい。それは「聖書主義」を標榜する福音派のみならず、米国の理念とも相通ずるものがある。歴史的に見ても、米国は移民を受け入れ続けてきたし、多少の制限を加えながらも彼らを「米国民」とするプロセスに異を唱えることは控えられてきた。

しかし現在、その移民たちが1万人規模の集団となり、間もなく目の前にその姿を現すことになるのだ。そこで米国民、ひいては米国の福音派は、岐路に立たされることになる。さらに苛烈な「究極の選択」を迫られることになるだろう。

聖書を人生の価値基準として生きることを体現する福音派だからこそ、目の前の一人に対して向き合うことができたとしても、その背後に控える数万人、もしかしたら数十万人にもなる「寄留者」を受け入れる決断を、現実的に下すことは可能だろうか。今回の「キャラバン」を受け入れるなら、第2、第3の「キャラバン」も受け入れざるを得なくなる。それは米国の理念、そして聖書的価値観を守るのと同時に、その理念や価値を体現する人々の現実生活をドラスティックに変化させてしまうことになる。

考えてみてほしい。私たち日本に住む者は、これを「ニュース」としてある意味客観的に受け止める立場にある。だが、もし日本がアジア大陸と地続きで、国境付近に1万人以上の移民希望者が押し寄せてきているとしたら、安穏と評論していることができるだろうか。米国において起こっていることは、特に国境付近に位置する各州、各都市にとっては「今そこにある危機」以外の何物でもない。

また多くの穏健な米国の福音派にとっても、今まではトランプ大統領の人格的な部分に目をつむり、自分たちの願う政策を推し進めてくれるという一点で、支持を表明することで事なきを得てきた。しかしここに至り、彼らは聖書的価値観と真っ向から対立する政策を推し進める国の代表者に支持を表明しなければならなくなる。少なくともそう感じざるを得ない心境に追い込まれる福音派の信者は少なくない。それでもトランプ大統領を支持するのか。それともこの一件で背を向けることになるのか。

一触即発の緊張感はしばらく続くことになるだろう。

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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