米国の移民規制に一つの結論が! 揺れているのは「建国の理念」?

2018年6月28日18時33分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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ドナルド・トランプ米大統領が昨年、難民受け入れの一時停止や一部の国からの入国を制限する大統領令に署名したことを受け、反対デモを行う人々=2017年2月4日、米首都ワシントンで(写真:Ted Eytan)
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現地時間26日、米国のドナルド・トランプ大統領の就任以来大きな混乱の種となっていた移民規制に関する大統領令について、連邦最高裁が一つの結論を出した。それは大統領の主張を認めるというもの。2017年2月に履行された一部の国からの入国制限は、大きな混乱を招くとともに、シアトルの連邦裁判所をはじめ、各州の裁判所が一時差し止めを命じる事態となり、トランプ政権側は規制案の見直しを迫られることとなっていた。

今回の規制法は、主要5カ国(イラン、リビア、ソマリア、リシア、イラク)に絞ったものとなり、これに準ずる形で北朝鮮とベネズエラが加えられたものとなっている。

トランプ大統領はいつものごとくツイッター(英語)に勝利宣言を書き込み、「私が大統領である間は、米国の秩序と市民の安全を守り続ける」と各所で語っている。

注目したいのは、最高裁判事の評決である。5対4の僅差で保守派がリベラル派を上回った形で出された判決は、米国の現在の事情を端的に表しているといえよう。

オバマ前大統領が時間切れで最高裁判事に指名できなかったメリック・ガーランド氏に代わって、トランプ大統領は保守派のニール・ゴーサッチ氏を判事に任命できた。これが「大統領支持」に傾いた大きな要因ともいえよう。

一方、2009年にオバマ前大統領が就任した際に任命されたソニア・ソトマヨール氏(史上初のヒスパニック系女性判事)は、太平洋戦争時、日系米国人と在米日本人を敵対国の危険分子と見なし、収容所送りとした政策を引き合いに出し、今回の結論を批判している。それほど拮抗(きっこう)したものだったことがうかがえる。

ワシントン・ポスト紙のホワイトハウス担当記者であるデビッド・ナカムラ氏は、トランプ大統領が中間選挙(11月実施)に向けて弾みをつけたことを認めながらも、「外国人嫌いの風潮が、次の段階へ進むのではないか」と懸念を示す記事(英語)を出している。

ニューヨーク・タイムズ紙のマイケル・バーバロ氏は、毎日の主要ニュースを伝えるポッドキャスト「ザ・デイリー」(英語)で、今回の主文を書いたジョン・ロバーツ主席判事のコメントを「大統領は国家の安全保障を判断する権限を持っており、それは移民問題に関しても同様である。それはトランプ大統領が反イスラムの声明を発表し続けてきたからといって、その権限が低下させられるものではない」と取り挙げている。

しかし、キリスト者として最も傾聴に値するのは、判事の発言でも移民局の反対声明でもない。この判決が出る4日前に、ノースカロライナ州のジョン・パブロビッツ牧師が出した声明(英語)であろう。

彼は26日に入国制限に関して最高裁が判決を出すことを踏まえ、「わが国は現在、かつてないほど人権が危機にさらされている。政治家たちによって」と訴える。そして、このような事態に対し、福音派の牧師や信徒たちが何の声明も発しないことを非難しているのである。

彼はさらに訴える。「聖書は助け合うことや貧困、難民をサポートすることを教えているのではないのか」と。旧約時代ではモーセ(エジプト人から見たら異邦人)を助けるファラオ(エジプトの王)の娘がいたし、新約時代ではイエスの両親がヘロデ王の圧政から逃がれてエジプトへ渡っており、神はそれを良しとされている。

この聖書解釈には異論があるだろうが、最高裁が今回の入国制限を認めたことに関して、福音派は大きなジレンマに陥ってしまったことは間違いない。だが、日本時間28日午前の段階で、米国の福音派内から正式な声明(賛成か反対かも含む)は出ていないようである。

福音派がトランプ政権の支持母体の1つであることは間違いない。大使館のエルサレム遷都やLGBT、中絶問題に関して、トランプ大統領が他の大統領にも増して熱心に「聖書的」な政策を打ち出しているから、これは福音派としては大いに納得がいくだろう。

しかし移民問題に関しては、少々勝手が違う。なぜなら福音派は一貫して移民への門戸を開くことを支持し、トランプ大統領にも意見書を提出するほど、この問題には「博愛精神」で臨んでいたからである。パブロビッツ牧師の訴えを待つまでもなく、「福音主義」とはイエス・キリストが「全人類のため(ここには今回規制を受ける5カ国の国民も含まれる)」に十字架で命を犠牲にしたことを根幹に据える神学理解である。そしてこの精神に則って米国は独立戦争を勝ち抜き、建国の理念としてこれが憲法(および修正事項)として明文化されているのである。

政治や司法の世界ではこれに関しての解釈がうんぬんされることはあろう。しかし「福音主義」というものを標榜し、体現するキリスト教界(特に福音派)においては、この土台を揺るがすことは自らのアイデンティティー放棄につながるはずである。

さてどうするのか。今後の福音派代表たちの声明に注目したい。

そういった意味で、確かに米国は「分断化・二極化」していると捉えることもできよう。だが「米国=神の国」を想定して国家としての営みを始めたという神学的理解に立つなら、これは「建国の理念」がメルトダウンしつつあるということができなだろうか。まだこの問題に関しては途上にあると思われる。今後もしっかりと見守っていきたい。

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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