【3.11特集】震災3年目の祈り(17):今なお「語れない人」と向き合うために~二本松教会・佐原玲子牧師

2014年4月20日14時32分 記者 : 佐藤憲一 印刷
+【3.11特集】震災3年目の祈り(17):今なお『語れない人』と向き合うために ~二本松教会 佐原玲子牧師
二本松幼稚園の庭で遊ぶ子と、迎えに訪れた母親たち。左に見えるのはソーラーパネルつきの放射能測定器。

「七夕の飾りに使う笹の葉がだめで、猪苗代(いなわしろ)の花屋さんから笹を送ってもらいました」。原発事故の後にはそうした影響もあったと語る佐原玲子さん。佐原さんは二本松幼稚園の園長であり、二本松教会(日本基督教団)の牧師でもある。

お話をうかがった園長室兼牧師室には、親の迎えを待つ園児たちの楽しく遊ぶ声が届き、追いかけっこする子らが小さな足音を響かせる。夕暮れ時の平和な情景、懐かしい空気が流れていた。

福島県二本松市は福島第一原発からおよそ40~60kmに位置する。住民に避難勧告などが出たわけではない。しかし風向きや盆地という地理的環境のため、3・11後の一時期、高い放射能数値が検出されていた。

露地の木の葉に放射能が残ることがある。枯れ葉はもちろん、雨樋や側溝などで数値が出るため、除染はそれらの場所を重点的に行われた。市内のすべての小中学校の校庭、幼稚園の園庭の表土が削られ、深い所の土と入れ替えられた。

各学校や公的機関の建物の前には太陽光発電パネルを備えた放射能測定器が設置され、リアルタイムの測定結果が誰でもわかるようにデジタル表示されている。「うちの幼稚園の園庭にもあります。最近は0.1ミリシーベルト台でほぼ安定していますが、数値の高い時もありました」と佐原さん。

■ 心理カウンセラーから幼稚園の園長に

家族ぐるみの自主避難で、通園する子が減った時期もあった。地元に留まりながら不安を訴える母親たちの声も耳にした。佐原さんは福島大学から専門家を招くなど教会堂を会場に講演会を開き、幼い子を持つ両親に正しい情報を伝えることに努めた。

「原発の近い浪江町から二本松市内に避難した家族がたくさんいました。今も仮設住宅などで暮らす方々がいます。また、被災地の支援拠点が置かれたので、飛び交うヘリコプターの爆音に恐怖心を持った園児は少なくありませんでした」

当時は余震も繰り返し起きていて、「一人でトイレに行けなくなるなど、できていたはずのことができなくなる子もいました。ご両親には、そういう場合にもしかったりすることなく、やさしく見守るようにと話していました」

【3.11特集】震災3年目の祈り(17):今なお『語れない人』と向き合うために ~二本松教会 佐原玲子牧師
毎年6月に教会堂で行われる「花の日」礼拝(二本松幼稚園HPより)

かつては心理カウンセラーの働きもしていた佐原さん。二本松市に生まれ、関西や九州で学び、バプテスト派の牧師となった。その後、病を得て休職。しかし「地元の出身者ならぜひ」と請われ、2008年に日本基督教団二本松教会の牧師となる道が与えられた。

「私にはホルモン系の病気があり、今は歩行も少し不自由です。生まれ故郷で牧会することになるとはまったく思っていませんでしたが、祈った上で役割をお引き受けしました」

二本松教会は、米国人の女性宣教師(初代園長)が資金を集め、1954年に付属幼稚園を設けている。地域初の公認私立幼稚園で、当初は教会堂が保育室として使われていた。以来、牧師が園長を兼ねている。

■ 便利さを求めることが害をもたらす結果に

佐原さんは、3・11のずっと前から原発の存在に疑問を抱き、「原子力行政を問い直す宗教者の会」にも参加していた。「お坊さんや神主さんもいる集いで、さまざまに討論してきました」。すべてを自然淘汰できない限り、原発ではなくほかのエネルギーを選ぶべきだと考えている。

「ドイツでは、消費者が自然由来のエネルギーを選ぶことができます。価格が高くなっても、エコのためにそれを選ぶ人たちがいる。そうした方向に意識を向けていくことが大切です。水もそうですが、安くふんだんに手に入れられるという発想を見直すことです」

神学生の時、熊本県に赴いて水俣病の被害について調べた。「人が便利さや楽(らく)を求めれば、害をもたらすことがあると学ぶべきだと思います」と佐原さん。「原発の電気は原子力の平和利用だと言われてきたわけですが、自然淘汰されないものが『安心安全』ということはあり得ません」

関西ではホームレス支援を行い、カウンセラーとしてフィールドワークを行った。95年の阪神淡路大震災の際には神戸で災害ボランティアも経験。今は神戸に防災センターが建てられ、被災者が「語り部」として経験を伝えていることに触れ、次のように指摘する。

「3年経ったと言いますが、東北ではまだ『語れない人』がたくさんいます。地震、津波、原発という特別なことから立ち直るにはとても時間がかかる。ショックから立ち直って一歩前に出ようと思うまでには時間が必要なのです。やっと3年。まだその時期でない人もいます」。10年か、それ以上かかるかもしれない、と言う。

被災地でボランティアをしたいと思いながら、自分には何もできそうにないと思う人が多い。しかし、特別な技能がなくても、心のケアやサポートはできる。ひとつの好例として、佐原さんは次のような活動を挙げる。

「私の知る教会のチームは、仮設住宅で手のマッサージをしながら被災者とお話をしています。ハンドクリームで掌や腕を揉みほぐしながら、おしゃべりする。時には、つらい経験を打ち明けてもらったり、大変でしたねという話ができることもあるのです」

人に寄り添い、『語れない人』たちに『語れる』場を提供する。前向きな関係を築き、キリストの愛を運ぶことができれば、それは可能となる。(続く:キリスト教会学校が地域の子育て拠点に~岩手県・千厩小羊幼稚園

幼稚園を併設する二本松教会。地域の子育て拠点としての役割もある。

■【3.11特集】震災3年目の祈り:
(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(最終回)

※「震災3年目の祈り」と題して、シリーズで東北の今をお伝えしています。

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