男性から性別移行したトランスジェンダーの女性で弁護士のオータム・スカーディナさんが、自身の性別移行を祝うケーキの制作を拒否したことは差別に当たるとし、ケーキ職人のジャック・フィリップスさんを提訴した訴訟で、米コロラド州最高裁は8日、スカーディナさんの訴えを6対3で棄却した。
フィリップスさんは2017年、自身のキリスト教信仰を理由にスカーディナさんから依頼されたケーキの制作を拒否。スカーディナさんは、コロラド州公民権委員会への苦情申し立てを経て、19年にフィリップスさんを提訴していた。
スカーディナさんは訴訟で、フィリップスさんの行為はコロラド州の差別禁止法に違反すると主張。一方、フィリップスさんは、ケーキの制作は自身にとっては表現行為であり、自らの宗教的信条に反する表現行為を拒否することは、米国憲法修正第1条で定められた言論の自由として保護されると主張していた。
これに対し、コロラド州最高裁は両者の主張の是非には踏み込まず、手続き上の不備を理由にスカーディナさんの訴えを棄却。判決(英語)にも、「スカーディナさんのコロラド州差別禁止法に関する主張の正当性も、ケーキ店の行為が米国憲法修正第1条で保護されるかどうかについても考慮していない」と付記した。
スカーディナさんは初め、フィリップスさんがケーキの制作を拒否したことは、コロラド州の差別禁止法と消費者保護法の両者に違反すると主張していた。これに対し、1審のデンバー地裁は21年、消費者保護法に関する訴えは棄却し、差別禁止法違反については認める判決を言い渡した。
デンバー地裁のA・ブルース・ジョーンズ判事は、「ケーキのデザインがより複雑で芸術的なものであったり、被告に属するメッセージが明白に表現されていたりしていた場合は、分析結果が異なる」可能性があると説明。しかし、「要求されたケーキを提供することが、米国憲法修正第1条で保護される象徴的または表現的な言論であることを示す責任を果たしていない」として、フィリップスさんの主張は退けていた。
2審のコロラド州控訴裁は23年、1審と同様に、ケーキは「メッセージを表現していない」と判断。「全ての行為が(法的に保護される)表現行為に該当するわけではない」とし、フィリップスさんの行為を差別禁止法違反とする判決を下していた。
フィリップスさんは、当時まだコロラド州で同性婚が法的に認められていなかった12年、自身の宗教的信条を理由に同性婚を祝うウェディングケーキの制作を拒否したことで、同性カップルから提訴された経験も持つ。この訴訟でも、フィリップスさんは1審、2審で敗訴したが、18年に連邦最高裁で逆転勝訴している(関連記事:同性婚ケーキ作り拒否 最高裁でケーキ職人が逆転勝訴、なぜ? 判決詳細)。
同性カップルのウェディングケーキを巡る訴訟と、スカーディナさんの訴訟は間接的に関係している。フィリップスさんは当時、同性カップルのウエディングケーキは宗教的信条を理由に作れないが、その他の商品は販売すると述べていた。スカーディナさんは、それを確かめるため自身の性別移行を祝うケーキを注文したと明かしている(関連記事:米ケーキ職人、連邦最高裁で勝訴も性別移行祝うケーキ作り拒否で再び法廷に)。
フィリップスさんの代理人を務めてきた米キリスト教法曹団体「自由防衛同盟」(ADF)は声明(英語)で、「フィリップスさんは自身の見解に同意できない政府関係者や活動家から執拗に追及され、嘲笑の的にされてきました」と指摘。ADFのジェイク・ワーナー上級弁護士は、「もう十分です。ジャックは10年以上も法廷で引きずり回されてきました。今は、彼を一人にさせてあげる時です」と訴えた。