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リビングストンの生涯

アフリカ奥地に神の愛を―リビングストンの生涯(4)兄弟をばか者と言ってはならない

2021年7月14日18時43分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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アフリカ奥地に神の愛を―リビングストンの生涯(1)悲しい伝説+
リビングストン(1813〜73、写真:Thomas Annan)

「クルマン伝道所」に来て最初の朝。リビングストンは、けたたましい泣き声で眠りを破られた。「痛いよう! おなかが痛いよう!」寝不足の渋い目をこすりながら出てみると、6歳くらいの黒人の子どもが、地べたにしゃがみ込んで泣いていた。「坊や、どうした?」抱き起こすと、子どもは手足を突っ張って呻き声を上げた。

診療室に連れていって診察してみると、どうやら食あたりのようなので、彼は薬瓶から丸い錠剤を2粒出して子どもに飲ませた。「さあ、これを飲むとすぐに良くなるよ」。子どもは素直にうなずいて薬を飲んだ。5、6分そのままにしておくと、腹痛はうそのように治まった。

「もう痛くない! 痛くない!」子どもは大声を上げて診療所の中を駆け回った。そして、スキップしながら帰って行った。

「ああいう子どもたちに、かまっていてはきりがないですよ。中には仮病を使って薬を盗みに来るやつらもいますからね」。早くから起こされた執事のエドワーズは、コーヒーを入れながら渋い顔をして言った。「この現地の人を教化するのは大変に困難なことです。彼らの中にはやはり原始人の血が流れていて、野蛮で無知な習性から抜け切れませんよ」

その時、ふとリビングストンの胸に暗い影がよぎった。一瞬であるが、彼はこのアフリカが暗黒大陸と呼ばれ、多くの宣教師や探検家がやってきたにもかかわらず、少しも開けない、その本当の原因が分かったような気がした。そして、自分とこのエドワーズとの間に、その考えや理想に違いがあることも感じないではいられなかった。

幾日かクルマンに滞在するうちに、リビングストンは北の方に出掛けてみたくなった。そこでロス医師にあとを頼み、一人で何日かジャングルの中を歩いてやがてレペロレという村に着いた。そこはパクワネ族の集落になっており、奇妙な羽飾りや鼻輪を付けた人々が、リビングストンを見るや長いやりや石を持ってジリジリと近寄ってきた。

リビングストンは身振り手振りで、自分は怪しい者ではなく、医者としてここの人たちの生活を助けたくてやってきたのだと訴えた。すると、たちまち彼らは友好的になった。

「それなら、首長の病気も診てもらおうじゃないか」。一人が言うと、彼らはガヤガヤと騒ぎながら彼を首長の屋敷に案内した。しかしながら、ある儀式を踏まないと首長に会えなかったので、彼は一度戻り、エドワーズにわけを話して一緒に来てもらうことにした。エドワーズは細長いプリントの布と、ジュズを使者に渡して言った。「つつしんで首長にお目にかかりたい」

すると使者は、リビングストンとエドワーズを中に入れてくれた。首長のパピは眼病を患っていた。リビングストンはホウ酸を水に溶かして目を洗い、目薬を差した。それから間もなく眼病が治った首長は、よほどうれしかったのか広い屋敷を歩き回り、皆に目を見せたり銅板の鏡に映したりした。

「あんたは恩人だ」。首長はリビングストンの手を握って言った。「あんたに金銀や宝石を差し上げたいのだが、あいにく私はすっかり貧乏になってしまった。白人たちが目を治してやると言ってはくだらない迷信を教え、高額の金を持っていってしまったからだ。それなのにちっとも良くならない。文句を言うと彼らは、あんたがた色の黒い人たちは目も耳も、口も何もかも白人に劣っているから仕方がないのだと言った」

この時、リビングストンの胸には「兄弟をばか者と言う者は地獄の火で焼かれる」という聖書の言葉がひらめいた。

この首長の息子ボーマーは、リビングストンを父と同じように慕っていたが、ある日雨を降らせてほしいとせびったので、リビングストンはこう言った。「私は雨を降らせることはできないが、どうだろう、皆で力を合わせて川の水を畑に引こうじゃないか」。そして、黒人たちを指導し、溝を掘って水の流れる道を掘り始めた。皆大喜びだった。

「先生、皆が雨乞いの奇跡を見たがるのは、前に白人が来て青い紙を薬で赤くする魔法を使ったからなんですよ」。ボーマーの言葉に、リビングストンはすぐに彼らがリトマス試験紙を使って無知な彼らの目を欺いたことに気付いた。そして情けない思いでいっぱいになるのだった。

*

<あとがき>

クルマン伝道所に赴任したリビングストンは、早速現地の人々に医療と伝道の奉仕を始めます。彼の最初の働きはレペロレ村の首長ペピの眼病を癒やしたことでした。喜んだ首長は白人であるリビングストンに心を開き、以来2人は良き友人になりました。しかし、首長の言葉はリビングストンの心を痛めました。彼は言います。

「白人たちは、眼を治してやると言いながら、くだらない迷信を教え高額の金を持っていってしまった。ちっとも治らないので文句を言ったら、彼らは『あんたがた黒人は目も耳も、口も、何もかも白人に劣っているから仕方がないのだ』と言った」

また首長の息子ボーマーからも、いつか白人たちがリトマス試験紙を使って彼らをだまし、魔法を使ったかのように見せた話を聞いたリビングストンは憤りと悲しみを覚え、「兄弟をばか者と言う者は地獄の火で焼かれる」という聖書の言葉を思うのでした。まさに、こうしたやり方で欧州人は黒人を長い間搾取してきたのです。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。12年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。その他雑誌の連載もあり。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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