パウロとフィレモンとオネシモ(3)「フィレモンとアフィア」―何をしていた人たちなのか― 臼田宣弘

2019年10月17日11時19分 コラムニスト : 臼田宣弘 印刷

1 キリスト・イエスの囚人パウロと兄弟テモテから、わたしたちの愛する協力者フィレモン、2 姉妹アフィア、わたしたちの戦友アルキポ、ならびにあなたの家にある教会へ。(フィレモン1~2、新共同訳)

前回は、2節の「あなたの家にある教会」つまり、フィレモンの家の教会と、コロサイ書の宛先教会は同一であるという私の考えをお伝えさせていただきました。今後は、「コロサイ書の宛先教会」は、「コロサイ教会」と記させていただきます。つまり私の主張は、「フィレモンの家の教会はコロサイ教会である」ということです。

さて、今回は「フィレモンとアフィアは何をしていた人たちなのか」ということを考えてみたいと思います。まずフィレモンですが、彼は自分の家を教会として開放し、オネシモをはじめとする奴隷を有していたのですから、裕福な人物であったでしょう。エドウィン・ヤマウチ著『小アジアの古代都市』によりますと、コロサイは紫・赤に染色される毛織物で有名だったそうです(同書154ページ)。フィレモンも毛織物に関する事業をしていたのではないでしょうか。そうなるとフィレモンは、交易のため、アジア州の中心都市でありコロサイからは200キロほどの距離にあるエフェソには、しばしば行っていたことでしょう。

使徒言行録19章10節には、パウロのエフェソでの活動について、「このようなことが2年も続いたので、アジア州に住む者は、ユダヤ人であれギリシア人であれ、だれもが主の言葉を聞くことになった」とあります。これは、パウロがアジア州の各地に出掛けて行って福音を語ったということではなく、フィレモンのようなエフェソに通う人たちが、エフェソにおいてパウロから福音を聞いて協力者となり、さらに自分の地元で教会を創設し、そこで伝道が行われることによって、「主の言葉を聞く者がアジア州全体に起こされた」ということではないでしょうか。フィレモンの家の教会、つまりコロサイ教会は、そういったいきさつによってコロサイにつくられた教会だったのではないかと、私は考えています。

フィレモン書4節には、「わたしは、祈りの度に、あなたのことを思い起こして、いつもわたしの神に感謝しています」とあり、パウロがフィレモンのことをよく知っていることが分かります。しかし、フィレモン書を見てもコロサイ書を見ても、パウロはコロサイに行ったことはないことがうかがえます。フィレモンは、おそらくエフェソにおいて、パウロと出会った人なのです。

ただ、コロサイ書1章7節には、「あなたがたは、この福音を、わたしたちと共に仕えている仲間、愛するエパフラスから学びました」とありますので、コロサイ教会の創設には、エパフラスという人が何らかの形で関っていたことが考えられます。フィレモン書23節に、「わたしと共に捕らわれている、エパフラスがよろしくといっています」と記されていることも、コロサイ教会とエパフラスの関わりを示唆しています。フィレモン書・コロサイ書を読むに当たっては、ここが大事なところであると思います。

フィレモンは地元で自分の家を開放して教会とした人ですが、そこに遣わされたエパフラスという伝道者がいたのです。エパフラスは、エフェソにいるパウロの周辺から遣わされたのでしょう。時系列にまとめてみますと、次のように捉えることができます。

  1. フィレモンがコロサイに家の教会を立て、エパフラスがそこで伝道した。
  2. その後、パウロが、コロサイにあるフィレモンの家の教会宛に「フィレモン書」を書いた。その時、エパフラスはコロサイではなくパウロと共に獄にいた(フィレモン23)。
  3. その後、コロサイ書がコロサイ教会(フィレモンの家の教会)宛に執筆された。その時もエパフラスはコロサイではなく、パウロの周辺にいた(コロサイ4:12)。

どうやら初代教会には、フィレモンのように自分の家を教会として開放することで伝道に加わった人と、エパフラスのように各教会を巡回することで伝道に携わった人がいたようです。このことの記録が、教会史家エウセビオス(263頃~339)の『教会史』の中に見られるのです。

エウセビオス「教会史」(上)』の教会史第3巻37によれば、2世紀初頭の教会には、テモテ書二4章5節の「しかしあなたは、どんな場合にも身を慎み、苦しみを耐え忍び、福音宣教者の仕事に励み、自分の務めを果たしなさい」という聖句に倣って伝道をしていた「福音宣教者(福音伝道者、エウアンゲリステース / εὐαγγελιστής)」と呼ばれる巡回型宣教者が存在していました。「彼らは、外国の見知らぬ土地に信仰の基礎を置き、他の人びとを牧者に立て、導かれたばかりの者の世話を彼らに託した」(同書206ページ)とされています。エウセビオスのこの記述の内容は、パウロの時代の宣教形態を踏襲していると思われます。初代教会には、「巡回型宣教者」と「定住型宣教者」が存在していたということになのです。パウロも定住して教会を持った人ではなかったので、「巡回型宣教者」とみることができるでしょう。

この図式を、コロサイ教会創設に当てはめてみましょう。エパフラスが巡回型宣教者としてコロサイの地で福音を伝える一方、その地に住むフィレモンは家を開放して定住型宣教者として教会を形成したということになります。エフェソ書4章11節に、「そして、ある人を使徒、ある人を預言者、ある人を福音宣教者、ある人を牧者、教師とされたのです」とありますが、「福音宣教者」とはエパフラスのような巡回型宣教者を、「牧者」とはフィレモンのような、それぞれの地に立てられた定住型宣教者のことをいっているのではないかと私は考えています。

フィレモンは「牧者」なのです。フィレモン書を続けて読みますと、彼が牧会をしている様子が見えてきます。

5 というのは、主イエスに対するあなたの信仰と、聖なる者たち一同に対するあなたの愛とについて聞いているからです。6 わたしたちの間でキリストのためになされているすべての善いことを、あなたが知り、あなたの信仰の交わりが活発になるようにと祈っています。7 兄弟よ、わたしはあなたの愛から大きな喜びと慰めを得ました。聖なる者たちの心があなたのお陰で元気づけられたからです。(フィレモン5~7、新共同訳)

ここには、パウロが真正書簡(この言葉については後日詳しく書きますが、ローマ書、コリント書一・二、ガラテヤ書、フィリピ書、テサロニケ書一、フィレモン書の7書のことです)のどこにおいても書いている「信仰・愛・希望」という言葉を見て取ることができます。5節の「主イエスに対するあなたの信仰と、聖なる者たち一同に対するあなたの愛とについて聞いているからです」という部分に、まず「信仰」と「愛」という語があります。6節の「キリストのためになされている」を、ドイツの新約聖書学者ペーター・シュトールマッハ―は『EKK新約聖書註解(18)ピレモンへの手紙』で、「来るべきキリストへの栄光へと、そして、そのキリストを前にして」という意味だと解釈しています(同書31ページ)。私もそう捉えています。つまり「キリストのためになされている」とは「希望」の事柄なのです。フィレモンは「信仰・愛・希望」の実践をしている人だと、パウロは言っているのです。

この部分を読むならば、フィレモンが自身の家の教会のメンバーに対し、「信仰・愛・希望」による牧会をしていたことがうかがい知れるのです。注解書などには、「フィレモンは家の教会のパトロン(経済的後援者)である」としているものがありますが、フィレモンは教会の単なる経済的後援者ではありません。コロサイ教会に定住する牧者、今日のプロテスタント教会で言うなれば「牧師」なのです。

次に「姉妹アフィア」については、誰しもがフィレモンの妻だとしています。私もそうだと思います。ただ、この「姉妹(アデルフェー / αδελφή)」という言葉は、1節の「兄弟テモテ」の「兄弟(アデルフォス / ἀδελφός)」と対になっているように思えます。パウロがテモテを「兄弟」と呼ぶのは、伝道者としての呼び方であって、ならばアフィアを「姉妹」と呼ぶのは、やはり彼女を伝道者と見ているからでしょう。

これは、パウロがエフェソで共に伝道した「プリスキラ(妻)とアキラ(夫)」(使徒18:26)を範としているということもできましょう。プリスキラとアキラは、初代教会を代表するともいえる、家の教会の夫婦牧会者です。私は、フィレモンとアフィアは、プリスキラとアキラのように、コロサイ教会を夫婦で牧会していたと考えています。それ故にパウロは、フィレモンとアフィアを手紙の名宛人としているのです。次回はもう一人の名宛人、「戦友アルキポ」について考えてみたいと思います。(続く)

※ 次回第4回は、11月4日(月・祝)に行われる教会バザーの準備のため、11月7日(木)の掲載はお休みし、11月21日(木)に掲載します。
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臼田宣弘

臼田宣弘(うすだ・のぶひろ)

1961年栃木県鹿沼市生まれ。80年に日本基督教団小石川白山教会(東京都文京区)で受洗。92年に日本聖書神学校を卒業後、三重、東京、新潟、愛知の各都県で牧会。日本基督教団正教師。2016年より同教団世真留(せまる)教会(愛知県知多市)牧師。愛知牧師バンドのメンバー(キーボード担当)

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