パウロとフィレモンとオネシモ(2)「フィレモン書の宛先」―フィレモンの家の教会とは何か― 臼田宣弘

2019年10月3日13時30分 コラムニスト : 臼田宣弘 印刷

このコラムは、フィレモン書を起点にして書いていくものです。ですから、何はともあれ、フィレモン書を読んでみたいと思いますが、その前に、この手紙は「いつ、どこで、誰が書いたか」ということを知っておく必要はありましょう。

この手紙は、紀元53~55年ごろに、エフェソ滞在中のパウロが、獄中において執筆したということが一般的にいわれており、私もこれを支持します。テモテが共同執筆人となっていますが、同労者の名前を共同執筆人とするのはパウロの手紙の慣例であり、テモテと共著の手紙とみる必要はないと思います。

では、フィレモン書を読んでみましょう。以下がフィレモン書のすべてです。

1 キリスト・イエスの囚人パウロと兄弟テモテから、わたしたちの愛する協力者フィレモン、2 姉妹アフィア、わたしたちの戦友アルキポ、ならびにあなたの家にある教会へ。3 わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの恵みと平和が、あなたがたにあるように。

4 わたしは、祈りの度に、あなたのことを思い起こして、いつもわたしの神に感謝しています。5 というのは、主イエスに対するあなたの信仰と、聖なる者たち一同に対するあなたの愛とについて聞いているからです。6 わたしたちの間でキリストのためになされているすべての善いことを、あなたが知り、あなたの信仰の交わりが活発になるようにと祈っています。7 兄弟よ、わたしはあなたの愛から大きな喜びと慰めを得ました。聖なる者たちの心があなたのお陰で元気づけられたからです。8 それで、わたしは、あなたのなすべきことを、キリストの名によって遠慮なく命じてもよいのですが、9 むしろ愛に訴えてお願いします、年老いて、今はまた、キリスト・イエスの囚人となっている、このパウロが。10 監禁中にもうけたわたしの子オネシモのことで、頼みがあるのです。11 彼は、以前はあなたにとって役に立たない者でしたが、今は、あなたにもわたしにも役立つ者となっています。12 わたしの心であるオネシモを、あなたのもとに送り帰します。13 本当は、わたしのもとに引き止めて、福音のゆえに監禁されている間、あなたの代わりに仕えてもらってもよいと思ったのですが、13 あなたの承諾なしには何もしたくありません。それは、あなたのせっかくの善い行いが、強いられたかたちでなく、自発的になされるようにと思うからです。15 恐らく彼がしばらくあなたのもとから引き離されていたのは、あなたが彼をいつまでも自分のもとに置くためであったかもしれません。16 その場合、もはや奴隷としてではなく、奴隷以上の者、つまり愛する兄弟としてです。オネシモは特にわたしにとってそうですが、あなたにとってはなおさらのこと、一人の人間としても、主を信じる者としても、愛する兄弟であるはずです。17 だから、わたしを仲間と見なしてくれるのでしたら、オネシモをわたしと思って迎え入れてください。18 彼があなたに何か損害を与えたり、負債を負ったりしていたら、それはわたしの借りにしておいてください。19 わたしパウロが自筆で書いています。わたしが自分で支払いましょう。あなたがあなた自身を、わたしに負うていることは、よいとしましょう。20 そうです。兄弟よ、主によって、あなたから喜ばせてもらいたい。キリストによって、わたしの心を元気づけてください。21 あなたが聞き入れてくれると信じて、この手紙を書いています。わたしが言う以上のことさえもしてくれるでしょう。22 ついでに、わたしのため宿泊の用意を頼みます。あなたがたの祈りによって、そちらに行かせていただけるように希望しているからです。

23 キリスト・イエスのゆえにわたしと共に捕らわれている、エパフラスがよろしくと言っています。24 わたしの協力者たち、マルコ、アリスタルコ、デマス、ルカからもよろしくとのことです。25 主イエス・キリストの恵みが、あなたがたの霊と共にあるように。(1~25節、新共同訳)

この書は、最初と最後が手紙のあいさつとなっており、4~22節が手紙の本文であるとしてよいでしょう。今回は、その最初のあいさつである書き出しの部分を見てみます。そこに書かれているこの手紙の宛先ですが、「わたしたちの愛する協力者フィレモン、姉妹アフィア、わたしたちの戦友アルキポ、ならびにあなたの家にある教会へ」(1節後半~2節)となっています。手紙の宛先は「フィレモンの家の教会」であり、そこにフィレモンがいて、アフィアとアルキポもいたということです。アルキポが何者であるかということについては、回をあらためて執筆したいと思いますが、アフィアはフィレモンの妻と考えて良いと思います。

さて、「フィレモンの家の教会」ですが、私はこれをコロサイ書の宛先教会と同一とみています。新約聖書のパウロ書簡の中には、「コリント書一」「コリント書二」や、「テサロニケ書一」「テサロニケ書二」というように、一つの教会に対して2つの手紙が残されている場合がありますが、コロサイ教会への手紙も、「フィレモン書」が「コロサイ書一」、「コロサイ書」が「コロサイ書二」であってもよいはずなのです。ただ、フィレモン書は教会宛の手紙であると同時に、フィレモンへの個人的書簡としての性格が強いため、そのようにならず、「フィレモンへ」(タイトルの原文に忠実な翻訳)とされたのだと考えています。

フィレモン書の注解書などを見ますと、「フィレモンがコロサイ在住であった」ことはほとんど認められています。しかし「フィレモンの家の教会とコロサイ書の宛先教会は同一」としている注解書はありません。私の知る限り唯一、米国の新約学者であるウェイン・A・ミークスという人が、『古代都市のキリスト教―パウロ伝道圏の社会学的研究―』という本の中で、「ピレモン家の家庭集会はコロサイ教会の全体をさすものではなかった」(209ページ)と、フィレモンの家の教会がコロサイ教会の家庭集会であるとしています。けれども私は、「コロサイ書の宛先教会は、フィレモンの家の教会である」と考えています。

初代教会の異邦人教会は、家の教会として成立していったのです。コロサイ教会は異邦人教会です。コロサイ書の宛先教会が、なぜ一つの家の教会ではないと断言できるのでしょうか。他のパウロ書簡、ローマ書もコリント書もガラテヤ書も、それぞれの地の家の教会に宛てて書かれたものなのです(例えば、コリント書一ならばクロエの家の教会〔1:11〕、ステファナの家の教会〔1:16、16:15〕とされている)。あるいは、コロサイ書執筆の頃には、「コロサイ教会」が、複数の家の教会になっていたかもしれませんが、そうだとしても、「フィレモンの家の教会」は、コロサイ教会の家庭集会のようなものではなく、コロサイ教会の拠点教会であり、「フィレモンの家の教会はコロサイ書の宛先教会である」はずなのです。

コロサイ書を読みますと、そこに登場するオネシモは、「あなたがたの一人(エクス ヒューモーン / ἐξ ὑμῶν、「あなたがたのうちからの出身」とも翻訳できる)、忠実な愛する兄弟オネシモ」(4:9)とされています。フィレモン書を読む限りでは、オネシモは「フィレモンの家の教会」に属する奴隷です。彼は「フィレモンの家の教会」の出身です。ですから、コロサイ書でオネシモが「あなたがたの一人 / あなたがたのうちからの出身」とされているということは、「フィレモンの家の教会とコロサイ書の宛先教会は同一である」ということを証明しているといえるのです。

手紙の前書きから、「『フィレモンの家の教会』は、『コロサイ書の宛先教会』と同一である。そしてそこに、フィレモンとアフィアとアルキポがいた」と、今回はお伝えしたいと思います。次回は、その「フィレモンとアフィア」は、いったい何をしていた人たちなのかということについて、私の考えていることをお伝えさせていただきたいと思います。(続く)

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臼田宣弘

臼田宣弘(うすだ・のぶひろ)

1961年栃木県鹿沼市生まれ。80年に日本基督教団小石川白山教会(東京都文京区)で受洗。92年に日本聖書神学校を卒業後、三重、東京、新潟、愛知の各都県で牧会。日本基督教団正教師。2016年より同教団世真留(せまる)教会(愛知県知多市)牧師。愛知牧師バンドのメンバー(キーボード担当)

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