最後の5分 佐々木満男

2019年9月2日13時35分 コラムニスト : 佐々木満男 印刷
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1. 死刑執行直前の5分間

1849年12月、ロシアの犯罪者収容所に、反体制思想犯として死刑判決を受けた28歳の青年が収容されていた。死刑執行の直前、処刑場に引き出された彼は死刑執行官からこう言い渡された。

「お前の最後に、5分だけ時間を与える!」

ついにこの世と決別する瞬間が来た。「ああ、私は5分後にこの世から消え去るんだ。この5分でいったい何ができるだろうか?」

「愛する家族よ、友よ、先にあの世に行くことを赦(ゆる)してください。私のために悲しまないでください・・・」。まず、家族と知人たちへの別れのあいさつの祈りにささげた。

「2分経過!」

その日まで生かしてくださった神に感謝し、他の死刑囚たちへの別れのあいさつを祈った。

「残り1分!」

「ああ、もう一度人生をやり直すことができたら・・・」「生きたい!生きたいんだ!もう少しだ!あと少しだけでも!どうか、わが神よ・・・」。彼は後悔の涙とともに神に嘆願した。

「死刑準備開始!」

「ガチャッ」。銃に弾丸を装填する音が彼の心臓を突き抜けた。まさに、その時だった。

「やめろ!やめろ!その死刑は中止だ!」 政府の急使が大声を張り上げて処刑場に駆け付けた。まさに銃殺の直前、皇帝ニコライ1世の特赦により死刑は中止され、4年間のシベリア流刑に減刑された。

極寒の地での過酷な強制労働の中で、神に与えられた時間の重要性を悟った彼は、「人生は5分の連続だ!」とばかりに創作活動に没頭した。流刑を終え、さらに4年間の兵役を除隊後、1881年にこの世を去るまで、キリスト教人道主義者として、数々の不朽の名作を書き残した。

罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』『未成年』『悪霊』『白痴』・・・。死刑執行を直前で免れた彼こそは、後にロシアの大文豪になった「ドストエフスキー」であった。

2. 提出期限直前の5分間

「運転手さん、急いでください! どうしても零時5分前までに東京地裁に着かなければならないんです」。夜の11時40分、渋谷駅近くでタクシーに飛び乗った私は、そう叫んだ。

「お客さん、それは無理ですよ。15分で霞が関の裁判所に行くなんて!」「それでもなんとかお願いします!」「う~ん、とにかくベストは尽くしてみますが、保証はできませんよ」

ある刑事事件の控訴趣意書の提出期限だった。一審で有罪判決を受けた被告人が無罪を主張して、私に弁護を依頼してきた。裁判記録を読み、現場を何度も検証し、証拠を集めているうちにあっという間に日にちが過ぎて、ついに、期限当日になってしまった。

提出時間の午前零時が1秒でも過ぎたら書類は受理されず、弁護側の主張も証拠もまったくないまま裁判が終わってしまう。弁護士としての大失態である。

「お客さん、着きましたよ!ちょうど零時5分前です。これは奇跡ですよ!」 代金を払うと、私は暗闇の裁判所の裏庭を必死に走った。「遅れたらどうしよう!主よ、助けてください!」 心臓が張り裂けそうだった。

ようやくたどり着いてドアを開けると、宿直の若い職員が居眠りをしている。「お願いします、控訴趣意書を提出しに来ました! 今日が期限なんです」。びっくりして目をさました職員があわてて時計を見る。

「ああ、ぎりぎりですが間に合いますよ。あと数秒遅れたらアウトでしたよ!」と言って書類を受理してくれた。

最後の5分の重要性、いや、最後の数秒の重要性に目覚めた瞬間だった。絶対ダメだと思ったのに奇跡的に助かった。その時ほど、神の恵みのタイミングに感謝したことはなかった。

「5分あれば何とかなる!」「いや、最後の数秒が肝心だ!」 それ以後、神から与えられた貴重な時間を感謝し、「最後の5分」「最後の数秒」を大切にしながら生活するようになった。

佐々木満男

佐々木満男(ささき・みつお)

弁護士。東京大学法学部卒、モナシュ大学法科大学院卒、法学修士(LL. M)。インターナショナルVIPクラブ東京大学顧問。

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