沖縄戦で武器を持たずに75人を救ったクリスチャン兵の実話 映画「ハクソー・リッジ」

2017年6月23日06時36分 記者 : 内田周作 印刷
+沖縄戦で武器を持たずに75人を救ったクリスチャン兵の実話 映画「ハクソー・リッジ」あす公開
ハクソー・リッジに上る前に聖書を持って祈るデズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド演) © Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

沖縄戦の実話を基にしたメル・ギブソン監督の最新作「ハクソー・リッジ」が、いよいよ日本でも24日から公開される。セブンスデー・アドベンチスト教会の忠実な信徒であったデズモンド・ドス(1919〜2006)は、聖書の「汝(なんじ)、殺すなかれ」の戒めに従い、戦場でも武器は一切持たず、米陸軍の衛生兵として人の命を救うことに徹した。そして、激戦地となった沖縄の前田高地(浦添市前田)では、自軍が撤退する中、自らの命の危険をもかえりみず戦火の中に飛び込み、1人で75人もの負傷兵を救助した。「主よ、もう1人救わせてください」。これが、銃弾が飛び交う中でドスが神にささげた祈りだった。

ハクソー・リッジとは「のこぎりの崖」を意味し、150メートルにも及ぶ断崖絶壁の前田高地に米軍が付けた名前だ。そこは、沖縄防衛を命じられた第32軍司令部のあった首里から北に約3キロメートルと、日本軍にとっては南下してくる米軍を迎え撃つ防衛戦の要だった。一方、米軍にとっては「ありったけの地獄を1つにまとめた戦場」と表現するほど、大きな苦戦を強いられた場所だ。ドスたちが到着する前、先発部隊が6回登って6回とも撤退を余儀なくされた。負傷者や戦死者を山のように乗せたトラックがドスたちの目の前を通り過ぎるシーンは、その過酷さを伝えている。

映画前半は、バージニア州の緑豊かな田舎町で過ごした幼少期や、看護師ドロシー・シュッテとの恋、そして「人は殺せない」と銃に触れることさえ拒否し、仲間や上官の嫌がらせを受けながらも屈せず、祖国のために厳しい訓練を続けるドスの姿が描かれる。そして後半、「パッション」(2004年)でイエス・キリストの凄惨な拷問シーンを生々しく描いたギブソンが、ハクソー・リッジの戦闘シーンを、目を背けたくなるようなリアルさで再現する。

ドスは良心的兵役拒否者としては初となる名誉勲章を受けており、映画化の話はこれまで何度もあったという。しかし、「真の英雄は大地に眠る人たちだ」と言うドスは、06年に87歳で亡くなる数年前まで、映画化を許さなかった。

「デズモンド・ドスは特別な存在だ。そして、彼が英雄である理由を挙げるとすれば、彼が謙虚であることだ」。本作が10年ぶりの監督作となったギブソンはそう語る。「映画の世界は架空の英雄であふれている。そろそろ真の英雄を称賛してもいいのではないだろうか」「デズモンドのような人物に対して、どうやって賛辞を送ればいいか。できるだけ現実味のある物語を作り上げること、それしかないと考えた」。その思いで作られた本作は米国で昨年公開され、アカデミー賞の2部門で受賞した。

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演技指導をするメル・ギブソン監督 © Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

映画は実話とは異なる場面が幾つもあるが、それらのエピソードも本当にあった出来事から取られている。例えば、ドロシーとの結婚式のために取った特別休暇(軍法会議にかけられる原因となった)は、実際には海外派遣される前、弟ハロルドと実家で会うためのものだった。また、目に血が入った負傷兵にドスが水をかけて血をぬぐい、負傷兵が「目が見えなくなったと思ったよ」とドスにほほ笑むシーンは、ハクソー・リッジでの戦闘の一場面として描かれるが、実際には沖縄に上陸する前、フィリピンのレイテであった話だという。

米国内の山岳地帯や砂漠での2年に及ぶ過酷な訓練、グアムや、親友2人を亡くしたレイテでの戦闘――。ドスの歩みの中で実際にあったさまざまなエピソードが、2時間19分の中に溶け込むように盛り込まれている。セブンスデー・アドベスト教会の出版社である福音社は、映画に合わせて今月、『デズモンド・ドス もうひとつの真実』を出版しており、映画では描ききれなかったドスの物語が紹介されている。

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縄を使って負傷兵をハクソー・リッジの崖の下に降ろすドス © Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

英雄として描かれるドスだが、弱さがまったくなかったわけではない。銃を持つ訓練を受けないことが命令違反だとして、結婚式当日に足止めを食らったドスは、留置所の中で絶望して壁を強く打ちたたく。戦場の塹壕(ざんごう)で過ごした夜には、日本兵の奇襲で殺される夢を見て飛び起きる。恐怖は常にあったはずだ。『もうひとつの真実』によれば、海外派遣が決まり、列車で故郷バージニア州を通ったときには、飛び降りて自ら命を絶つことも頭をよぎったという。

そうしたドスが、どうして武器なしで戦場へ赴き、多くの人を救うことができたのだろうか。同じく福音社が伝道用小冊子として出している『ハクソー・リッジの奇跡』は、ドスが戦場に持っていった2つの「武器」として、祈りと、ドロシーから贈られた小さな聖書を紹介している。

確かにドスは機会があれば聖書を読み、そして何事においても祈り、神に助けを求めた。そして、初めはそれを揶揄(やゆ)していた仲間たちにも認められていく。日本軍の反撃を受けて撤退した後、再びハクソー・リッジに出陣する場面では、作戦が10分ほど遅れる。それは、ドスが祈り終わるまで皆が待っていたからだった。邪魔者扱いされていたドスは今や、多くの仲間にとっていなければならない存在になっていたのだ。

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負傷兵を必死で助けるドス © Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

周りの理解が得られない中でも神を信じ、愚直に信仰を貫き通す姿は、現代に生きるクリスチャン一人一人にとってチャレンジになるのではないだろうか。また、最後には仲間がドスを認めてくれる結末は励ましにもなる。

本作の公開前日の6月23日は、第32軍司令官の牛島満中将が自決し、沖縄戦が実質的に終了した日であり、沖縄県が定める「慰霊の日」でもある。沖縄戦では、わずか3カ月の間に、米側1万4千人、日本側18万8千人(うち9万4千人が民間人)と、20万人以上が犠牲になったとされている。戦争という非常時でも信仰を貫き通し、多くの人を救った実在の人物の姿にチャレンジと励ましを受ける一方、人と人とが殺し合うという、人類の罪の極みともいえる戦争をあらためて考えさせられる作品でもある。

映画「ハクソー・リッジ」は、東京・有楽町のTOHOシネマズ・スカラ座ほかで24日公開。

■ 映画「ハクソー・リッジ」予告編

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