アングリカン・コミュニオンにおける「性」言説を問う 立教大でケヴィン・ワード准教授が講演

2016年4月15日17時11分 記者 : 行本尚史 印刷
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講演するケヴィン・ワード氏(写真奥中央)=11日、東京都豊島区の立教大学池袋キャンパスで

同性間関係の位置と神学的正当性をめぐる議論の現状を概観しようと、ウガンダ聖公会の司祭で英国国教会のケヴィン・ワード氏(リーズ大学アフリカ宗教学講座准教授)が11日、立教大学池袋キャンパス(東京都豊島区)で「アングリカン・コミュニオンにおける『性』言説を問う―ウガンダと日本における『近代』と『同性愛』をめぐる対照的な議論から見えてくるもの」と題して講演した。

立教大学大学院キリスト教学研究科の主催と同大学ジェンダーフォーラムの共催で行われたこの公開講演会で、ワード氏は、この問題が、この20年にわたってアングリカン・コミュニオン全体に分裂をもたらしてきたとして、1月に英国のカンタベリーで開催された聖公会の首座主教会議とその決議に焦点を当てた。

1月11日から15日まで行われたこの首座主教会議は、同15日に発表したコミュニケ(声明)の補遺Aで、同性婚を認める米国聖公会について、「結婚に関する教会法を変更した米国聖公会の最近の展開は、私たちの大多数の管区が持っている信仰や教えからの根本的な逸脱を表している。他の管区においても起こり得る展開は、この状況をさらに悪化させることになろう」と記した。

同会議はまた、そのコミュニケで、「共に歩みたいというのは、私たちの一致した願いである。しかしながら、これらの事柄の深刻さに鑑み、向こう3年間、米国聖公会は、もはや、エキュメニカル、および宗教間の協議体において、私たちを代表しないし、アングリカン・コミュニオン内の常置委員会を構成する者として任命されたり、選出されたりするべきではなく、アングリカン・コミュニオン内の協議体に参加する場合も、米国聖公会は、教理や教会行政に関するあらゆる課題についての意思決定に加わることはない、ということを求めることによって、この隔たりが存在することを、私たちは公式的に承認するものである」とも記した。

「これは、ある意味では、(ジャスティン・)ウェルビー(・カンタベリー)大主教が述べた希望、すなわちこれを最後にコミュニオンが共に歩むか、別れて歩むかを決めることができるだろうという希望に対する最終的な答えであった。私たちは、共に歩む、そのことが確認されたのだ」と、ワード氏はコメントした。「しかしそれは、いかにしてセクシュアリティーに関する全く異なった考え方を持ったまま共に歩むことができるのかという問題の解決とはなっていない」

「アングリカン・コミュニオンの中でもこの問題に関して特に辛辣(しんらつ)な管区は、ウガンダ聖公会である」と、ワード氏は説明した。「ウガンダ聖公会のスタンリー・ンタガリ(Stanley Ntagali)大主教は、このたびの首座主教会議に最後まで留まることができないと感じた唯一の大主教であった」

「ウガンダ聖公会は、米国聖公会[The Episcopal Church of the USA=TEC, also Protestant Episcopal Church in the United States of America = PECUSA or ECUSA]がその『同性愛』への支持を悔い改めない限り、米国聖公会とは交流を持たないという決議をしていた」とワード氏は述べた。「そのため、ンタガリ大主教は米国聖公会を首座主教会議から排除する議案を提出し、その議案が十分な賛成を得られず却下されると、黙って会議の場から離れた」

ワード氏によると、ウガンダ聖公会は、アングリカン・コミュニオンの中でナイジェリア聖公会の次に大きな教会であり、900万~1000万人もの信徒を有する。ウガンダの人口の3分の1以上がアングリカンであり、これは、世界で最も高いパーセンテージだという。「数字上ではローマ・カトリック教会がアングリカンよりも少しだけ多いとされているが、伝統的に聖公会はウガンダ社会の支配層を代表する宗派である」と、ワード氏は説明した。

この講演でワード氏は、「なぜ近年、ウガンダにおいて同性愛がこれほど有害な問題になっているのかということ、そしてLGBTの人々への敵意にあふれた環境でウガンダ聖公会が果たしている役割」について考察した。

「ウガンダでは1997年まで、同性愛の問題は社会的にも政治的にもそれほどの関心事ではなかった。実は同性愛の問題に社会的な関心を集めたのはウガンダ聖公会(Church of Uganda=COU)だった」とワード氏は指摘した。第三世界に対する米国聖公会の伝統主義者たちの呼び掛けに反応する形で、COUがリードを取ろうとしていた。

「1998年のランベス会議はセクシュアリティーに対するリベラルな視点とは程遠いもので、それに反する表明を出した。特に2004年にヘンリー・オロンビ(Henry Orombi)が大主教になったとき、ウガンダ聖公会は、この事柄に関して自分たちこそが信仰の守護者であると考えていた。オロンビ大主教は米国聖公会との関係を断つことを決め、資金(彼はそれを『苦いお金』と呼んだ)を受け取ることも拒否した」

「そうしている間にこの問題は教会から社会一般に広まっていった」と、ワード氏は付け加えた。

数年前にBBCで「ウガンダ―ゲイであるには最悪の場所」と題するドキュメンタリーが放送されたのを踏まえて、「ウガンダのホモフォビア(同性愛嫌悪)のステレオタイプを超えて、ウガンダの文脈での微妙に異なる理解を明らかにしたい」とワード氏は述べた。

その上でワード氏は、「ウガンダでも現代のアフリカのゲイ文化の形が表れており、人権を求めて運動をし、ゲイやトランスジェンダーの人々への暴力に反対する人々がいる」とワード氏は指摘し、「ウガンダは、よく描写されるように一貫して全ての人がホモフォビックな国なのでは決してない」などと述べた。

そしてワード氏は、19世紀後半以降、近代化とセクシュアリティーをめぐる西洋の議論に対して日本とウガンダが異なる反応をしてきたことを踏まえ、それらを比較検討した。

「最も顕著な違いの一つは、日本の同性愛を巡る議論においてはキリスト教やキリスト教的道徳観は周縁的なものであったのに対して、ウガンダの近代化の過程ではそれが中心的な位置を占めたということだ」とワード氏は指摘した。

そして最後に、ワード氏は、その歴史的な複雑さを考慮する同性愛問題の理解がいかに、変わり続けるアングリカニズムの、特にアフリカのアングリカニズムの姿に枠組みを与えていく可能性があるか、というところに戻って論じた。

「アングリカン・コミュニオン全体として、大切な問題が残っている―アングリカンの包含性は、キリスト教の真理理解のラディカルな違いを包含することができるだろうか、そしてそもそもそれを目指すべきだろうか?」と、ワード氏は問い掛けた。

「『伝統主義者』たちは『修正主義者』たちが聖書、伝統、理性のバランスを否定し、特に聖書の権威を否定していると糾弾する。『進歩的な』アングリカンたちは他の人々が聖書原理主義と神学的教条主義―いずれもアングリカン的な考え方にとって異質なもの―に陥っていると糾弾する。これらの議論の結果がいかなるものであれ、アングリカンたちが神学的試みの基本的なやり方と考えてきた、信頼と精神の寛容さが問われてきたと言える。どちらの側もこの議論を『アングリカニズムの精神』のための戦いと見ている」と、ワード氏は指摘した。

「私はウガンダ聖公会で按手を受けた司祭であり、ウガンダ聖公会を心から愛している。しかし私はいま、英国聖公会で生き、働いている」とワード氏は語った。そして、「これらの問題に関する近年の教区の議論において、教区のあらゆるところからの聖職者と信徒たちの会議での一致した意見は―同性婚や同性関係の祝福に対する英国国教会(CofE)の応答においても論じられていたように―ゲイの人々を『歓迎する』が『肯定する』のではない、という考え方である」と付け加えた。

その上でワード氏は、「これは実現可能な解決ではないし、神学的にも倫理的にも確かな、正直な解決とは言えない」と自らの意見を結論づけた。

立教大学大学院キリスト教学研究科は、「キリスト教諸教派では、性の問題、特に同性愛の関係に関する意見が分かれているが、世界のアングリカン・コミュニオンほど公式に激しい議論を交わしている教派はないかもしれない」と公式サイトで述べていた。

「性の問題に関してアフリカの教会は特に活発に声を挙げてきたが、本講演では、アフリカ、とりわけウガンダが最近の議論が示しているほど一様的に同性愛嫌悪の強い場所ではないことを論じる。森鴎外や江戸川乱歩などの著作、そして近年の『美少年』映画に見える、性をめぐる『近代的』議論への反応に照らして、アフリカにおける同性愛に対する態度の変化を考えることにする」と、同研究科はこの講演会の趣旨について説明していた。

同研究科によると、ワード氏はウガンダ聖公会で按手された司祭であり、1976年から1991年までウガンダのビショップ・タカー神学院(現在:ウガンダ・キリスト教大学)の講師として活躍し、1995年から2014年までリーズ大学のアフリカ宗教学講座准教授を務めた。また2015年に香港中文大学の客員教授としてアジアを訪問したという。

ワード氏による最近の業績には『A History of the World Anglican Communion』(2006年)と『The Church Mission Society and World Christianity, 1799–1999』(Brian Stanleyと共に編集、1999年)がある。その他、東アフリカにおけるキリスト教史、またウガンダのキリスト教界における「性」言説に関する数多くの研究論文を発表している。

なお、立教大学文学部長・立教学院副院長で日本聖公会司祭の西原廉太氏は、『福音と世界』(新教出版社刊)2016年4月号で、「同性愛をめぐるアングリカン・コミュニオン内の対立―首座主教会議の『帰結』とは」と題する記事を著している。この記事の写しはこの講演会で参加者に配布された。

※以上にある講演会からの引用文は、工藤万里江氏訳の配布資料による。

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