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不条理なる死を不可知の光で中和せよ

危機感にあふれた時代に黙示録的な解毒(その3)

2023年4月27日10時31分 コラムニスト : 藤崎裕之
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不条理なる死を不可知の光で中和せよ―キリスト教スピリチュアルケアとして―(44)+

不条理なる死を不可知の光で中和せよ―キリスト教スピリチュアルケアとして―(44)

※ 前回「危機感にあふれた時代に黙示録的な解毒(その2)」から続く。

「イエスに帰れ」

善行とは神の愛の実現であるというのは当たり前のことであるが、その善行においてこそ、しばしば人は争うのである。神の愛の実現において、「いと小さき者」の人権が守られ、公共の福祉が行き渡ることが肝心であるというのは、その通りではある。しかし、それが最終目標ということではないし、その先があるのだろうが、実のところ人類の歴史では、人権と福祉がきちんと行き渡るということがなかなか実現しない。

必ず誰かがそこからはじかれたり、あるいは、制度としてほぼ満点でありながらも、その運用においては不正だらけで、弱者のためというよりも、権力者を肥え太らせるだけという場合もあったりする。

また、キリスト教の世界においてはさまざまな軋轢(あつれき)がある。「いと小さき者」への愛を実現させていくだと言いながら、しばしば怒りに満ちて攻撃的になる人がいる。その攻撃によって、ますますかたくなになっていく人々のことを、われわれはよく知っているのではないだろうか。

聖書は「解放の書」であるということに異論はないが、その書そのものの中には、現代では意味をなさないであろう、反ヒューマニズム的な掟(おきて)がある。

「聖書を書き換えろ」というスローガンが、1980年代の神学界には鳴り響いていた。性差別的な掟や表現、民族主義、戦争主義をにおわせる内容に対する反感というのもあった。だから「イエスに帰れ」という合い言葉が流行したのだ。イエスは虐げられた弱者の友であり、そのような人々のためにこそ「死んだ」英雄であるとする神学がもてはやされたりもしたし、その流れは現代にも続いている。

解放の神学はまさにそのようなものであったし、それが今ではクィア神学へと受け継がれているのだろと思う。内容には共感はするが、それらは教会に奉仕するという意味での神学の機能を果たしているだろうか。キリストに倣うという謙遜から生まれたものが、いつしか「闘争」の手段になってはいないだろうか。私は、そんな自問をずっと繰り返してきた。

バナナもエビもあかんぜよ

私が青年時代を生きた80年代の教会には、「お前が食っているバナナもエビも、資本主義がアジアの人々から奪い取った富の象徴なのだ」と叫ぶ声があった。バナナを食うことさえも、非難を覚悟させられる教会社会があった。それが80年代だ。「ベトナム戦争が終わっても資本主義の搾取は終わらない、弱者をむしばむ戦争が終わることはないのだ」と、真っ赤な青年だけではなく、大人の信徒も、牧師たちさえも、教会の中で、そして説教壇の上でさえ語り続けたのだ。

神の栄光をたたえるために、教会の中で賛美歌を歌う「ごく普通の人々」にさえ、その人たちは怒りをぶつけたではないか。「なぜあなたは弱者たちの生活に目をつぶり、そのうめき声に耳を閉ざすのか」と糾弾する声が、キリスト教の世界に響き渡ったではないか。そう、天皇制も、王制も、大統領制も、権力の行使の装置であり、それを支えているのはあなたたちなのだと。むろん、私もその一人であったのだ。そして、今もそれは必要なことだと考えることもある。

私が悪いと私は思う

誰もが、私こそが神の愛を実現する者だと、言葉を巧みに使い、上段に構えて人々を攻撃した張本人だったと思う。確かに、もっと上の世代にあおられ、乗せられたことは事実であろう。それでもあまりに無反省過ぎた。神の愛の実現のためなら、多少脚色されたキリストを語る手段は罪ではないし、悪行ではない、と自分に言い聞かせ続けた。

怒りをぶちまけて大声を響き渡らせても自己正当化できたのだ。さあ、反省したまえ。あなたは本当に、神の愛の実現のために汗を流していたのか。実は、それは自己実現のためではなかったのか。善行という魔法の言葉に酔いしれていただけで、それは何一つ善行ではないし、何一つ「いと小さき者」のためではなかったのかもしれない。

「教会で働きました。社会福祉の世界で、教育や医療の世界で、外国の貧民街で、日本の荒れ果てた町で、私は弱者と共にいて、その言葉を、その怒りを代弁しただけです」。そうだろう。その通りなのだ。善行をなした人々が多くいいることをわれわれは知っている。その志を尊敬する。しかし、その者たちが投げかけてくる怒りや裁きの言葉に、人々は辟易(へきえき)としたのだ。あの独特の正義に満ち満ちた言葉を聞くたびに、「ごく普通の庶民たる『私たち』」は吐き気を感じたのだ。

「あなたがたがバナナを食い、エビを食い、紅茶やコーヒーを飲むその時に、あなたがたは権力の側に立ち、弱者を虐げているのだ」と吐き捨てるどなり声に、多くの人々は共感しなかったし、協力しようとも思わなかった。ただこれ以上は関わりたくないから、少しばかりの寄付をしてごまかしただけだ。そんなことはとっくの昔にバレバレであっと思ったが、どうもそうではないらしい。

神を利用してはならない

「善行としての神の愛の実現」が本当に愛であるなら、それらを人に知らせる必要があったのか、怒りに満ちて攻撃する必要があったのか。どうだろうか。私には分からない。少数者の人権を擁護し、福祉を行き渡らせることは必要だ。その声が宗教の側から発せられるのも当然のことである。

しかし、その前に私は私自身に問う。「それは本当にお前の中に生きているキリストから生まれた行為」なのかと。善行を手段に誰かを攻撃したり、誰かを卑しめたりして楽しんでいるお前はいないか、と私は絶対的に私に問うべきだ。神を手段としてはならない。愛もまたしかりである。神を、愛を、誰かに怒りをぶつけるために、誰かを攻撃するために用いてはならない。それこそが悪なのだ。

自らを解毒せよ

最近、キリスト教の世界が荒れているらしい。まあ、普通に今までも荒れていたのだが。何かを巡って互いに攻撃し合うなら、教会も荒れる。たとえそれが弱い人々を守るためでも、愛を伝えるためでも、神の愛の実現のためでも、怒りを持って向き合うなら、教会は荒れるのだ。

キリストの千年王国がいかなるものかを私は知らない。ただ言えることは、キリストは誰かのために怒りを持ってあなたを攻撃するような方だろうか。キリストは、宮清めは行ったが、社会攻撃をしたり、まして普通に暮らしている人々に怒りを抱いたりしたとは思えない。あなたは「正義を振りかざすキリスト」の側に立っているのか。それがサタンであるということも知らずに!「神は善であり、人を愛するもの」だ。そのことを忘れてはならない。(終わり)

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◇

藤崎裕之

藤崎裕之

(ふじさき・ひろゆき)

1962年高知市生まれ。明治から続くクリスチャン家庭に育つ。88年同志社大学大学院神学研究科卒業。旧約聖書神学専攻。同年、日本基督教団の教師となる。現在、日本基督教団隠退教師、函館ハリストス正教会信徒。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:藤崎裕之
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