「私たちは、ユダヤ人とキリスト教徒を憎み、彼らを殺すべきだと教えられて育ちました。それがコーランの教えであり、正義だと信じていたのです」
そう語る女性の名前はジュマンだ。彼女は、現代中東情勢の深層にある「霊的な闇」を語る。彼女はただのパレスチナ人女性ではない。彼女の父親は、過激派組織ハマスの創設メンバーの一人なのだ。
カタールで生まれ育った彼女の家庭環境は、純粋培養された憎悪の温床だった。父と母は幼い彼女に、イスラエルへの憎悪、ユダヤ人への呪い、そして自分たちの教義に属さない全ての者(キリスト教徒やシーア派イスラム教徒さえも)を敵視することを徹底的に教え込んだ。
「※イエスが戻って来たら、十字架を折り、豚を殺し、異教徒を滅ぼすだろう」――そんなイスラム過激派特有の終末論を信じ、岩や木々さえもが「ここにユダヤ人が隠れている、殺せ」と叫ぶ日が来ると本気で信じていたのだ。(※イエス=預言者イーサ:イスラムの終末論では、イエスの再臨を彼らの都合に合わせて信じている)
彼女にとって、世界は「敵」と「味方」に二分されており、自分たちはアッラーのために戦う正義の側だと疑わなかった。2002年、彼女は自身のルーツであるガザ地区へ移住し、そこでハマスのメンバーの男性と結婚し、13年間にわたる結婚生活を送った。それは、組織の中枢に近い場所で、彼らの実態を目の当たりにする日々でもあった。
当初、彼女はハマスに希望を抱いていた。「ファタハ(ハマスの対立組織)よりも清廉で、平等を重んじる」という彼らのプロパガンダを信じ、選挙ではハマスに一票を投じさえしたのだ。しかし、2006年以降、ハマスがガザを実効支配し始めると、彼女が信じていた「正義」の仮面が剥がれ落ちていくことになる。
ガザという閉ざされた世界で、組織幹部の娘として、また妻として生きた彼女が、いかにしてその偽りの教義に疑問を抱くようになったのか、どのようにしてキリストに出会ったのか、その壮絶な遍歴を追う。(続く)
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