ハマスの創設幹部を父に持ち、幼い頃から「ユダヤ人を殺すことが正義」と教え込まれてきたジュマン。彼女は成長し、ガザ地区でハマスのメンバーと結婚する。当初はハマスこそがパレスチナに平等をもたらすと信じて投票したが、ガザでの実生活は彼女の期待を無残に裏切るものだった。権力を握った彼らが最初にしたことは、約束された改革ではなく、恐怖による支配だったのだ。(第1回から読む)
ガザ地区での生活は、ジュマンにとって「欺瞞(ぎまん)」との直面であった。世界中から「ガザの復興」のために莫大(ばくだい)な支援金が送られてきていた。しかし、ハマスのメンバーであった彼女の夫やその親族たちの会話は、彼女を戦慄(せんりつ)させた。「彼らは誇らしげに話していました。『今、われわれは都市の下にもう一つの都市を建設しているのだ』と」
国際社会が学校や病院の再建のために送った資金は、市民のためではなく、地下トンネル(テロのためのネットワーク)の建設に流用されていたのだ。「ガザをシンガポールのようにする」という約束はほごにされ、市民のためのシェルターは一つも作られなかった。それどころか、ハマスは自分たちの権力を守るために、罪のない子どもや市民を「人間の盾」として利用することさえいとわなかった。
「彼らは私たちの命など気にかけていませんでした。彼らが気にかけているのは、自分たちの地位と権力、そして外部からの資金だけだったのです」
政治的な幻滅と同時に、彼女の目には、同じイスラムの名の下で残虐行為を繰り返すISIS(イスラム国)のニュース映像が飛び込んできた。同じムスリムを平然と殺りくする彼らの姿に、彼女の心に決定的な疑念が芽生えた。「この宗教は、何か根本的に間違っている」。それは、彼女が「憎しみの英才教育」という殻を破り、真理へと手を伸ばす最初の亀裂となったのである。(続く)
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