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不条理なる死を不可知の光で中和せよ

悪霊が悪霊を追い出す?(その2)

2023年1月12日12時33分 コラムニスト : 藤崎裕之
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関連タグ:マタイによる福音書藤崎裕之
悪霊が悪霊を追い出す?(その2)+

不条理なる死を不可知の光で中和せよ―キリスト教スピリチュアルケアとして―(37)

※ 前回「悪霊が悪霊を追い出す?(その1)」から続く。

口から出るものはいろいろあるが

口から出るもので一番始末に悪いのが言葉であるが、その言葉の中でも一番悪いのが褒め殺しではないかと思う。褒め殺されていると分かればよいのだが、人間は何でも都合良く解釈するものだから、私に限って褒め殺しされることはないと思っているのかもしれない。

まあ、褒めるというのは難しいことだし、それが本気のお褒めであっても、時には人間の成長を止めてしまう危険がある。とはいえ、別に人間が成長したとして、それが何だといえばその通りである。ただ単に褒められるのがうれしくなって、それを目的に行動してしまうということもある。それでもよいではないか、と思うのだがどうだろう。

しかし、褒め殺しの場合は違う。そこにとどめておいて、飼い殺し的な何かを企てているのだ。人は成長せねばならないわけではないが、かといって人を飼い殺し状態にとどめてしまうというのは、あまりにも愛がない。相手の成長を願って物事を考えるというのは善意であろうが、何でもいいからとりあえず「褒めておこう」というのは、やはり悪意の一つではないだろうか。ずばりいえば、そういう人間の何か「いやらしい」部分にこそ、悪霊が働く素地があるように思えるのだ。

善意は保たれているのではないか

まあ、褒め殺しなんていうものは、直ぐに気付くものだから気にしなくてもよい。避けたいのは、自己否定というか、自己を抹殺するがごとく自虐的になってしまうことではないだろうか。これはもう、周りも迷惑至極である。

以前、匿名でギャンブル依存症に関するコラムを書いたのだが、全ての依存が病的とは思わないが、とにかく、薬物、アルコール、ギャンブル、ネット、ゲーム依存などは、仮にそれが自己表現だと考えているとしたら、それはもう最悪の部類であろう。端から見たら、悪霊に取り憑(つ)かれているように見えてもおかしくない。

逆に言えば、自己肯定はとても大切なことであって、これは依存症治療にも用いられる手法である。とにかく自己抹殺的、あるいは自己破滅的というべきか、そういうような状況にある場合は、本人の意識を変えようとあれやこれやと言葉を探して応答せねばならない。自己抹殺的に自虐に走ったり、場合によっては自らに刃物を当ててしまうこともあったり、そういう人は、ほとんどが何でもよいから応答してほしいのである。しかし、かといって実のところは、何でもよいからとにかく応答すればよいというわけでもない。追い打ちをかけるように責め立てるのも、今のままでよいのだと言ってしまうのも、多分良い範疇(はんちゅう)にはないのである。

悪霊憑き的な人は厄介だと思いつつも、大抵の人は良心に満ち満ちた善人であるから、一生懸命になってあれこれと応答する。実は人間社会というのは、そういう善意によって保たれているわけで、そのようなやりとりをバカらしいことだとけして思ってはならないのである。かなり結論が分かっているというか、要するに堂々巡りの会話になるのであるが、その堂々巡りそのものが大事であるから、けして手抜きをしないよう寄り添いを保っていただきたいものだ。

SNSは空虚な空間ではない

それで、今回取り上げているマタイによる福音書9章32~34節には、悪霊に取り憑かれて口がきけなくなった人が、イエスのところに連れられてきた様子が書かれている。前回も少し書いたが、2千年も前の社会では、筆記で会話するというのは大変難しいことであったので、発話をできない人にとっては、喉元にたむろしているあれやこれやの思いの出どころがない。

そりゃ、人間の口から出てくる言葉であるから、大抵はろくなものではないに決まっている。そうはいっても、とにかく口から出さないと本人もつらかろうし、何といっても周りがつらい。言葉にならない言葉であっても、口から出た方がよいのだ。口から出た言葉を聞いた人たちがそれを理解できないとしても、喉元でつかえた人間の苦しみを共有するというような夢物語に酔いしれるよりも、とにかくあれやこれやガンガンうるさい口上を聞いた方がましではないか。「諭しよりも聞くが善行」という言葉を今思い付いたのだが、聞くということの大切さは古来より理解されていたわけである。

昨今のSNSも、実のところは発信するよりも、文字化された人間の思いを聞くことの方が本質的なのではないか。「私はあなたの言葉を聞いた」という意味で「いいね」を押すのは、まさに人間の善意なのだ。(余談になるが、最近では否定的な文章に「いいね」を押すというのは、その文章を書いた人間と共に、否定的な事柄を再生産していることになるそうだ。全くもってアホくさい)

残念ながら、われわれはSNS上の愚痴や攻撃的な表現に対して、ついつい余計な言葉で応答してしまうのであるが、それもまたよいではないか。われわれの時代は、口から出したい言葉を文字化して伝えられるという自由が保障され、相互治癒力が保たれた社会なのだろうと思う。もちろん、それは少し褒め殺しに近い評価ではあるが。

SNSという世界は玉石混合であり、怪しいというか、良からぬ投稿があちこちに散在しているのは確かだ。至る所で裁判ネタにされてもいる。まあ、それも味わい深いではないか。言葉は人を傷つけ、時には人を死に追いやるほどの力を持つ。そう考えると恐ろしい。恐ろしいが、われわれは言わねばならぬし、聞かねばならぬ。そうでないなら、人間とはいえないのかもしれない。

言葉には人間を生かす力や共感力があり、それは時代や空間を超えるものではないか。そう、よろしき言葉は時を超えてわれわれの命に寄り添うのだ。それこそが信仰の言葉である。もちろん、それが神の言葉である。

次回は、悪霊に取り憑かれた人とイエスの対面を中心に考えていこうと思う。(続く)

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◇

藤崎裕之

藤崎裕之

(ふじさき・ひろゆき)

1962年高知市生まれ。明治から続くクリスチャン家庭に育つ。88年同志社大学大学院神学研究科卒業。旧約聖書神学専攻。同年、日本基督教団の教師となる。現在、日本基督教団隠退教師、函館ハリストス正教会信徒。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:マタイによる福音書藤崎裕之
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