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京大式・聖書ギリシャ語入門

京大式・聖書ギリシャ語入門(8)「私はあなたがたに平和を与える」―μι 動詞と形容詞の修飾時のルール―

2019年3月5日16時02分
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関連タグ:宮川創福田耕佑ギリシャ語
京大式・聖書ギリシャ語入門(8)「私はあなたがたに平和を与える」―μι 動詞と形容詞の修飾時のルール―+
シノペ福音書写本、6世紀、フランス国立図書館、Manuscrits Occidentaux(Supplement Grec. 1286)

皆さん、こんにちは。続けて京大式・聖書ギリシャ入門を担当させていただいております、宮川創、福田耕佑です。2019年もあっという間に2カ月がたちました。まだまだ寒い日が続いておりますが、健康にお過ごしでしょうか。

今回も前回の練習問題を確認し、第2変化名詞の曲用(主に中性名詞)の説明を行った後、例題7(ヨハネによる福音書14章27節)を取り上げます。

■ 第7回の練習問題の解答

1)次の新約聖書の一節を日本語に訳しなさい。

Ὁ δὲ καρπὸς τοῦ πνεύματός ἐστιν ἀγάπη, χαρά, εἰρήνη, μακροθυμία, χρηστότης, ἀγαθωσύνη, πίστις,

意味は、

「これに対し、霊の結ぶ実は、愛、喜び、平和、寛容、親切、善意、誠実、」(聖書協会共同訳)

「しかし、御霊の実は、愛、喜び、平安、寛容、親切、善意、誠実、」(新改訳2017)

です。

それでは解説に移りましょう!

<語釈>

οἱ
(hoi)
[冠詞] 男性・複数・主格と
δὲ
(dè)
[接続詞] (文頭に立てない)ところが、しかし、他方
καρπὸς
(karpòs)
[名詞] 実、果実
τοῦ
(toû)
[冠詞] 中性・単数・属格と
πνεύματός
(pneúmatós)
[名詞] 霊、聖霊(πνεύμα の中性・単数・属格形)
ἐστιν
(estin)
[動詞] 繋辞動詞 εἰμί(~である)の3人称・単数・現在形
ἀγάπη
(agápē)
[名詞] 愛
χαρά
(chará)
[名詞] 喜び
εἰρήνη;
(eirḗnē)
[名詞] 平和
μακροθυμία
(makrothumía)
[名詞] 寛容、気長
χρηστότης
(chrēstótēs)
[名詞] 親切、善、思いやり
ἀγαθωσύνη
(agathōsúnē)
[名詞] 正しさ、善意
πίστις
(pístis)
[名詞] 信仰、信義

■ 文型のポイント―繋辞動詞

この文章の主語は、「男性・単数・主格」の「定冠詞と名詞」の組み合わせである Ὁ καρπὸς(ho karpòs)です。これは「実が」を表す塊で、これを後ろから「霊の」を意味する「男性・単数・属格」の「定冠詞と名詞」の塊 τοῦ πνεύματός(toû pneúmatós)が修飾していました。よってこの Ὁ καρπὸς τοῦ πνεύματός の塊で、「霊の実が」という1つの主語を形成していました。そしてこの主語と残りの補語を繋辞(けいじ)動詞(英語でいう be 動詞)の ἐστιν(estin)がつないでいました。

そこで全体の構文は、

Ὁ καρπὸς τοῦ πνεύματός ἐστιν A:霊の実はAである。

という構文になります。ところでここまで何度か繋辞動詞については紹介してきましたが、まだ活用形を覚えていない人は、本コラムの第5回を参照してください。

そして次にこのAの部分に入る言葉ですが、「聖霊の7つの実」が入ってきます。つまり、ἀγάπη, χαρά, εἰρήνη, μακροθυμία, χρηστότης, ἀγαθωσύνη, πίστις(agápē, chará, eirḗnē, makrothumía, chrēstótēs, agathōsúnē, pístis)「愛、喜び、平和、寛容、親切、善意、誠実」です。

そして「ところが、しかし、他方」を表す接続詞 δὲ(dè)を補って全体を訳すと、「これに対し、霊の結ぶ実は、愛、喜び、平和、寛容、親切、善意、誠実」となりました。この文の文型は簡単なものですので、単語の意味さえ分かれば読解に大きな困難はなかったのではないかと思います。

2)定冠詞の男性形と女性形をそれぞれ書きなさい。

 *定冠詞の男性形

  単数形 複数形 意味
主格 ὁ (ho) οἱ (hoi) -が
属格 τοῦ (toû) τῶν (tō̂n) -の
与格 τῷ (tō̂i) τοῖς (toîs) -に
対格 τὸν (tòn) τοὺς (toùs) -を

*定冠詞の女性形

  単数形 複数形 意味
主格 ἡ (hē) αἱ (hai) -が
属格 τῆς (tē̂s) τῶν (tō̂n) -の
与格 τῇ (tē̂i) ταῖς (taîs) -に
対格 τὴν (tḕn) τὰς (tàs) -を

でした。第1変化名詞(女性)と第2変化名詞(男性)はそれぞれ、定冠詞の曲用とよく似た形で変化しますので、この定冠詞については繰り返し読んだり書いたりして形を暗記していただければ幸いです。

ここまで男性定冠詞と女性定冠詞を紹介し、それぞれと似た形で変化する名詞についてはその変化を紹介しましたが、まだ中性定冠詞とこれに対応するような変化をする中性名詞の曲用を紹介できていなかったので、ここで紹介したいと思います。

 *定冠詞の中性形 

  単数形 複数形 意味
主格 τὸ (τò) τὰ (tà) -が
属格 τοῦ (toû) τῶν (tō̂n) -の
与格 τῷ (tō̂i) τοῖς (toîs) -に
対格 τὸ (τò) τὰ (tà) -を

上記の男性定冠詞の形と比べていただきたいのですが、単数形でも複数形でもそれぞれ属格と与格の形は同じです。また、中性形においては主格と対格の形が同じになるということも併せて確認してください。さらに、この定冠詞の変化とよく似た変化をする第2変化名詞(中性)の曲用も併せて紹介します。

*第2変化名詞(中性)の曲用(名詞の語尾変化)

  単数形 複数形 意味
主格 τέκνον (-on) τέκνα (-a) -が
属格 τέκνου (-ou) τέκνων (-ōn) -の
与格 τέκνῳ (-ōi) τέκνοις (-ois) -に
対格 τέκνον (-on) τέκνα (-a) -を

太字にしてある部分が変化語尾です。

ご覧の通り、第2変化名詞(中性)においても単数形と複数形で、属格と与格は中性定冠詞のものと同じ形になり、また主格と対格の形が同じになります。この曲用も、定冠詞と非常に似た変化形を有しているので覚えやすいのではないかと思います。

■ 例題7(ヨハネによる福音書14章27節)

「私(イエス・キリスト)は、平和をあなたがたに残し、私の平和を与える。私はこれを、世が与えるように与えるのではない」(聖書協会共同訳)

「私はあなたがたに平安を残します。私の平安を与えます。私は、世が与えるのと同じようには与えません」(新改訳2017)

ギリシャ語:Εἰρήνην ἀφίημι ὑμῖν, εἰρήνην τὴν ἐμὴν δίδωμι ὑμῖν: οὐ καθὼς ὁ κόσμος δίδωσιν ἐγὼ δίδωμι ὑμῖν.

翻字:Eirḗnēn afíēmi humîn, eirḗnēn tḕn emḕn dídōmi humîn: ou kathṑs ho kósmos dídōsin egṑ dídōmi humîn.

<語釈>

εἰρήνην
(eirḗnēn)
[名詞] 平和、平安(εἰρήνη の女性・単数・対格)
ἀφίημι
(afíēmi)
[動詞] 私は~を残す(1人称・単数・現在)
ὑμῖν
(humîn)
[代名詞] あなたたちに
τὴν
(tḕn)
[冠詞] 女性・単数・対格と
ἐμὴν
(emḕn)
[所有形容詞] (他の誰のものでもない)私の(ἐμός の女性・単数・対格形)
δίδωμι
(dídōmi)
[動詞] 私は~を与える(1人称・単数・現在)
οὐ
(ou)
[否定辞] ~でない(英語の not)
καθὼς
(kathṑs)
[副詞] ~のように
οὐ καθὼς
(ou kathṑs)
[熟語] ~とは(事情が)異なって
ὁ
(ho)
[冠詞] 男性・単数・主格と
χρηστότης
(chrēstótēs)
[名詞] 親切、善、思いやり
κόσμος
(kósmos)
[名詞] 秩序、飾り、世、人の世界
δίδωσιν
(dídōsin)
[動詞] 彼・彼女・それは~を与える(δίδωμι の3人称・単数・現在)
ἐγὼ
(egṑ)
[代名詞] 私は、私が(1人称・単数・主格)

■ μι 動詞について

今回はこれまでに学んできた ω 動詞とは異なる活用をする μι 動詞を学びます。聖書のギリシャ語において、現在形では大きく分類してこの ω 動詞と μι 動詞しかありませんので、現在形・能動(!)においては、もうほとんど動詞の学習は終了したといっても過言ではありません! この μι 動詞の特徴も学問的に述べればもちろんいろいろとあるのですが、学習者の観点から言えばこの μι 動詞に属する動詞は数が少なく、また最も頻繁に使われる意味の動詞が属していることです。何はともあれ、まずは活用形を見てみましょう。

*δίδωμι(didōmi)[動詞](1人称・単数・現在)「私は~を与える」の活用

  単数 複数
1人称 δίδωμι
(dídōmi)

「私が~を与える」
δίδομεν
(dídomen)

「私たちが~を与える」
2人称 δίδως
(dídōs)

「あなたが~を与える」
δίδοτε
(dídote)

「あなたたちが~を与える」
3人称 δίδωσι(ν)
(dídōsi(n))

「彼(女)が~与える」
διδόασι
(didóasi)

「彼(女)たちが~を与える」

単数形と複数形で語幹の ”δίδω-” と ”δίδο-” のように ”-ω-” と ”-ο-” で語幹末の母音が長母音から短母音に交代していますが、それ以外は人称に応じて上記の表と同じように ”-μι, -ς, -σι, -μεν, -τε, -ασι” 活用語尾を付ければOKです! ですがすべての μι 動詞に属する動詞が単数形と複数形で母音の長短が交代するわけではなく、τίθημι(títhēmi / 置く)や ἵστημι(hístēmi / 立てる)、また今回の例文に登場した ἀφίημι (afíēmi / 残す)などの動詞が属しています。例として τίθημι(títhēmi / 置く)の現在形の活用も紹介します。

*τίθημι(tithēmi)[動詞](1人称・単数・現在)「私は~を置く」の活用

  単数 複数
1人称 τίθημι
(títhēmi)

「私が~を置く」
τίθεμεν
(títhemen)

「私たちが~を置く」
2人称 τίθης
(títhēs)

「あなたが~を置く」
τίθετε
(títhete)

「あなたたちが~を置く」
3人称 τίθησι
(títhēsi(n))

「彼(女)が~置く」
τιθέασι
(tithéasi)

「彼(女)たちがを~を置く」

ここでも単数形と複数形で、”η” と ”ε” で語幹末の母音の長短が入れ替わっています。この活用表では取り上げませんでしたが、ἵστημι(hístēmi)と ἀφίημι(afíēmi)も上記の表と同じ変化をします。なお、これまで学習してきた繋辞動詞の εἰμί はこれまで紹介してきたように上記の活用表に見られるのとは異なった活用で変化します。εἰμί は例外として覚えていただければ幸いです。

■ 本文の解説(1)

ギリシャ語:Εἰρήνην ἀφίημι ὑμῖν, εἰρήνην τὴν ἐμὴν δίδωμι ὑμῖν:

翻字:Eirḗnēn afíēmi humîn, eirḗnēn tḕn emḕn dídōmi humîn:

εἰρήνην
(eirḗnēn)
[名詞] 平和、平安(εἰρήνη の女性・単数・対格)
ἀφίημι
(afíēmi)
[動詞] 私は~を残す(1人称・単数・現在)
ὑμῖν
(humîn)
[代名詞] あなたたちに
τὴν
(tḕn)
[冠詞] 女性・単数・対格と
ἐμὴν
(emḕn)
[所有形容詞] (他の誰のものでもない)私の(ἐμός の女性・単数・対格形)
δίδωμι
(dídōmi)
[動詞] 私は~を与える(1人称・単数・現在)

それでは本文の解説に移りたいと思います。冒頭の Εἰρήνην ἀφίημι ὑμῖν(Eirḗnēn afíēmi humîn)ですが、ここでは前回に学んだ第1変化名詞(女性)の εἰρήνη(eirḗnē)がまず登場しています。今回はこの名詞に冠詞が付されていませんが、Εἰρήνην という ”-ν(-n)” が付された形で登場しています。前回の復習もかねて、第1変化 η 幹名詞(女性)変化表を確認すると、語尾に ”-ν(-n)” が付されるのは、

*第1変化 η 幹名詞(女性)の曲用(名詞の語尾変化)

  単数形 複数形 意味
主格 ἀγάπη (-ē) ἀγάπαι (-ai) -が
属格 ἀγάπης (-ēs) ἀγαπῶν (-ōn) -の
与格 ἀγάπῃ (-ēi) ἀγάπαις (-ais) -に
対格 ἀγάπην (-ēn) ἀγάπας (-ās) -を

ご覧の通り、単数・対格系です。ですので意味は「平和を」となります。全体を合わせてみると、

Εἰρήνην ἀφίημι ὑμῖν,
平和を 私は~を残す あなたたちに、

となりますので、「私はあなたたちに平和を残す」となるでしょう。次に εἰρήνην τὴν ἐμὴν δίδωμι ὑμῖν(eirḗnēn tḕn emḕn dídōmi humîn)を扱います。先程の塊とまったく同じ構造をしているのでこの文を理解するのは容易だと思います。ここで皆様に紹介したいのは冠詞と所有形容詞のルールに関してです。εἰρήνην τὴν ἐμὴν δίδωμι ὑμῖν(eirḗnēn tēn emēn)の塊ですが、「名詞+冠詞+所有形容詞」の順番になっています。英語やドイツ語などですと、通例「冠詞+形容詞+名詞」の順番になる場合が多いと思います。ここで、所有形容詞が出てきましたが、これは英語の my が形容詞のように使われるものと覚えておいてください。格・性・数によって異なり、それが修飾する名詞の格・性・数と一致します。統語的には形容詞のように用いられます。ギリシャ語では、形容詞が名詞を修飾する場合には「冠詞+形容詞」の順番、つまり冠詞の後に形容詞を置いておかなければ名詞を修飾する用法で使えないというルールがあります。ですので、本文のように例えば「私の平和を」という場合、

①[τὴν ἐμὴν] → [τὴν εἰρήνην]
冠詞+(所有)形容詞 → 平和を

②[τὴν ἐμὴν] → [εἰρήνην]
冠詞+(所有)形容詞 → 平和を

③[τὴν εἰρήνην] ← [τὴν ἐμὴν]
平和を ← 冠詞+(所有)形容詞

④[εἰρήνην] ← [τὴν ἐμὴν]
平和を ← 冠詞+(所有)形容詞

のような組み合わせが考えられます。①の ”τὴν ἐμὴν τὴν εἰρήνην” などは冠詞が2つもあってまどろっこしいような気もしますが、大事な点は、(所有)形容詞が名詞を修飾する際には必ず(所有)形容詞の前に冠詞を置かなければならず、名詞の前の冠詞はその点では重要でないということに注意してください。

少々話が本文の解説からは逸れてしまいましたが、こちらも先程と同じように解説すると、

εἰρήνην[τὴν ἐμὴν] δίδωμι ὑμῖν
平和を(←私たちの) 私は~与える あななたちに

となり、意味としては「私は私の平和をあなたたちに与える」となり、全体で「私はあなたたちに平和を残し、あなたたちに私の平和を与える」となるでしょう。

■ 本文の解説(2)

ギリシャ語:οὐ καθὼς ὁ κόσμος δίδωσιν

翻字:ou kathṑs ho kósmos dídōsin

οὐ
(ou)
[否定辞] ~でない(英語の not)
καθὼς
(kathṑs)
[副詞] ~のように
οὐ καθὼς
(ou kathṑs)
[熟語] ~とは(事情が)異なって
ὁ
(ho)
[冠詞] 男性・単数・主格と
χρηστότης
(chrēstótēs)
[名詞] 親切、善、思いやり
κόσμος
(kósmos)
[名詞] 秩序、飾り、世、人の世界
δίδωσιν
(dídōsin)
[動詞] 彼・彼女・それは~を与える(δίδωμι の3人称・単数・現在)

続いて οὐ καθὼς ὁ κόσμος δίδωσιν(ou kathṑs ho kósmos dídōsin)を見ていきましょう。ここでは οὐ καθὼς は熟語として「~とは(事情が)異なって」という意味を表します。そして主語は定冠詞と語尾の形から判断して ὁ κόσμος(ho kósmos)「世が」になります。この名詞が主語になる場合、これを受ける動詞は3人称・単数形の動詞が来るはずです。これでは、δίδωμι の3人称・単数形、δίδωσιν が対応しています。活用形は上記で紹介した δίδωμι の活用表で確認してください。ですので、

οὐ καθὼς [ὁ κόσμος] δίδωσιν
~のようにではなく 世が 彼が・彼女が・それが~与える

となり、「世が(平和を)与えるようにではなく」となります。この文の場合、目的語となる体格の名詞で「平和を」に当たるものが書かれていませんが、前の文を見れば意味が明白であるため、省略されています。

■ 本文の解説(3)

ギリシャ語:ἐγὼ δίδωμι ὑμῖν.

翻字:egṑ dídōmi humîn.

ἐγὼ
(egṑ)
[代名詞] 私は、私が(1人称・単数・主格)

最後に ἐγὼ δίδωμι ὑμῖν(egṑ dídōmi humîn)を確認しましょう。ここまでお読みいただいた読者の皆様には、最後の一文の意味は明確だと思います。まず、本文の解説(2)で紹介したように、前の文章のつながりから「平和を」を表す εἰρήνην(eirḗnēn)が省略されています。次に、本文の解説(1)で取り上げた文章と異なって、δίδωμι に対して今回はわざわざ主語の ἐγὼ が置かれています。これは「世が平和を与えるやり方と違って(どうせ世が本当の平和を与えることはありませんが)、私は、私はね、本当の平和・平安を与えます、私がね!」ぐらいの断定と強調をイエス・キリストが置いていることを表すために、ここで ἐγὼ がわざわざ書かれています。まとめますと、

ἐγὼ δίδωμι ὑμῖν
(他でもない)私が 私が~与える あなたたちに

となり、「わたしこそがあなたちに(平和を)与える」という意味になります。

■ まとめ

最後に例文全体をもう一度見てみましょう。

Εἰρήνην ἀφίημι ὑμῖν, εἰρήνην τὴν ἐμὴν δίδωμι ὑμῖν: οὐ καθὼς ὁ κόσμος δίδωσιν ἐγὼ δίδωμι ὑμῖν(Eirḗnēn afíēmi humîn, eirḗnēn tḕn emḕn dídōmi humîn: ou kathṑs ho kósmos dídōsin egṑ dídōmi humîn)の直訳は、

「平和を私はあなたたちに残し、私の平和を私はあなたたちに与える。世が(平和を)与えるのとは違う方法で、私が(!)あななちに(平和を)与えるのだ」

となります。「私が(!)」の(!)は強調のために書きました。なかなかギリシャ語のニュアンスをすべて日本語に移植することは難しいですが、ヨハネによる福音書を通して描かれたこのイエス・キリストの強い(!)を味わっていただければ幸いです。

最後に κόσμος(kósmos)という単語の話をして解説を終わりたいと思います。日本の漫画やアニメでも、「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」の中で、内側に秘めたるエネルギー「小宇宙」が「コスモ」と呼ばれたり、「伝説巨神イデオン」に登場する主人公の名前が「ユウキ・コスモ」であったり、あるいは「伝説巨神イデオン」のエンディング曲が「コスモスに君と」であったりと、「コスモ(ス)」という言葉が度々登場します(少々マニアックすぎました・・・)。もちろんいろいろなことが言えますが、日本のサブカルチャーの中では多くが「宇宙」を連想させるものが多く、またホメロスやギリシャ哲学などに触れた人でしたら、「混沌」(カオス)の反対の「秩序」(コスモス)を連想するかもしれません。このように「秩序」や「宇宙・世界」という意味を有している語です。

またこの κόσμος に由来する言葉として、「コスメ」(化粧品)が挙げられます。「宇宙」と「化粧」が由来を同じくするというのは私にとっては驚きでしたが、「コスモス」の基本的な意味が「秩序」だと思えば、なるほどとも思わされます。これに関する意味としては、聖書の中でもペトロの手紙一3章3節で髪や金、そして衣服の「飾り」という意味で κόσμος が使用されています。

ですが今日の例文の κόσμος を「宇宙が与えるようにではなく」と訳すと、何だか電磁波や怪光線を食らっているような気分になります。そのため、訳語として「世」といういまいちつかみどころのない言葉が使用されています。もちろん本講座では聖書の思想について紹介するのが目的ではございませんので、この κόσμος の正確な意味や用法についてお話しすることはできませんが、ここでいう「世」は多くの場合、「神を離れた人間世界」や「神を離れ肉的でこの世的な生き方、つまり罪の中にある人間の総体」といったニュアンスで使用されています。聖書を原典で読む場合よくこの意味で κόσμος を目にしますので注意してください。

■ 練習問題

1)次の一節を日本語に訳しなさい。

δίδωμι ὑμῖν τὴν ἐμὴν εἰρήνην

今回はすこーーしだけ元の形から変えてみましたが、ここまで学んだことを応用すれば解くことができると思います。また練習問題のヒントはいつも通りすべて上の文章中にあります。

今回のレッスンは以上になります。次回は第8回の練習問題の解答をした後、約音、ω 動詞の現在形と簡単な形容詞について学び、その後、例題を一緒に解いていきましょう。それでは次回の講座もよろしくお願いします!

<<前回へ

◇

宮川創

宮川創(みやがわ・そう)

1989年神戸市生まれ。独ゲッティンゲン大学にドイツ学術振興会によって設立された共同研究センター1136「古代から中世および古典イスラム期にかけての地中海圏とその周辺の文化における教育と宗教」の研究員。コプト語を含むエジプト語、ギリシャ語など、古代の東地中海世界の言語と文献が専門領域。ゲッティンゲン大学エジプト学コプト学専修博士後期課程および京都大学文学研究科言語学専修在籍。元・日本学術振興会特別研究員(DC1)。京都大学文学研究科言語学専修博士前期課程卒業。北海道大学文学部言語・文学コース卒業。「コプト・エジプト語サイード方言における母音体系と母音字の重複の音価:白修道院長・アトリペのシェヌーテによる『第六カノン』の写本をもとに」『言語記述論集』第9号など、論文多数。

福田耕佑

福田耕佑(ふくだ・こうすけ)

1990年愛媛県生まれ。現在、京都大学大学院文学研究科現代文科学専攻博士後期課程、日本学術振興会特別研究員(DC1)。専門は後ビザンツから現代にかけての神学を含むギリシャ文学および思想史。特にニコス・カザンザキスの思想とギリシャ歴史記述とナショナリズムに関する研究が中心である。学部時代は京都大学文学部西洋近世哲学史科でスピノザの哲学とヘブライ語を学んだ。主な論文に「ニコス・カザンザキスの形而上学と正教神学試論―『禁欲』を中心に―」『東方キリスト教世界研究』第1号など。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:宮川創福田耕佑ギリシャ語
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