京大式・聖書ギリシャ語入門(3)「愛の中に住む人は神の中に住む」ー文字の後半および動詞の活用と語順の基礎ー

2018年10月1日16時34分 印刷
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三大ギリシャ語聖書写本の一つ「アレクサンドリア写本」(フォリオ41v)。ルカによる福音書の最後が書かれている。
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皆さん、こんにちは。京大式・聖書ギリシャ語入門を担当させていただいております、宮川創、福田耕佑です。今回もよろしくお願い致します。前回予告しましたように、今回の講座を通してギリシャ文字の紹介がすべて終了します。1カ月に1回ぐらいのペースですから中々定着しにくいかもしれませんが、繰り返し文字を見たり書いたりしていただいて覚えていただければ幸いです。この講座が終わるころには、ご自分のお名前をギリシャ文字で書くことができるようになっているはずです!

今回のメニューですが、初めに第2回の練習問題の解答を行います。それからギリシャ文字のアルファベット(後半)について解説した後で、例題3(ヨハネ一4:16の後半)を取り上げます。

■ 第2回の練習問題の解答

1)次の新約聖書の一節を日本語に訳しなさい。

Ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ λόγος, καὶ ὁ λόγος ἦν πρὸς τὸν θεόν, καὶ θεὸς ἦν ὁ λόγος.

解答例:
「はじめに言葉があって、そして言葉は神と共にあって、そして言葉は神であった」

「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」(ヨハネ1:1、新共同訳)

「初めにことばがあった。ことばは神とともにあった。ことばは神であった」(同、新改訳2017)

2)次のギリシャ語の単語の意味を答え、発音をカタカナで書きなさい。

解答例:
εἰμι 「私~である」、エイミ
ἀλήθεια 「真実、真理」、アレーテイア
καὶ 「そして」、カイ

おさらいですが、前回はギリシャ語の「格」についてお話ししました。格とは「文章中で名詞がどのような働きをしているかを表している標識」のことであり、日本語でいうと「て・に・を・は」といった助詞に相当するものでした。ギリシャ語ではこの「格」を、名詞の語尾を変化させることで表現し、主に、①主格(文の主語になることが多い「〜が」)、②属格(所有などを表すことが多い「〜の」)、③与格(文の間接目的語になることが多い「〜に」)、④対格(文の直接目的語になることが多い「〜を」)、⑤呼格(呼びかけの形「〜よ!」)の5つが存在することを紹介しました。前回の例文に出てきた「神」を意味する単語を取り上げると、

θεὸς(theos / テオス)「神」(主格)
θεόν(theon / テオン)「神」(対格)

のように、-os(オス)で日本語の「が」を、-on(オン)で日本語の「を」に相当する意味を表していました。

そしてもう一つ重要な文法事項として、前置詞の後ろにはその前置詞が要求する決まった格というものが存在することもお話ししました。前回の例文ですと、ἐν ἀρχῇ(en arkhēi / エン・アルケーィ)では、「〜において」を意味し、与格を要求する前置詞「エン」の後ろに、「始まり」を意味する単語「アルケー」の与格の形「アルケーィ」が来て、「エン・アルケーィ」の形で「初めに」という意味を表していました。

ちなみに、最後の「ィ」は「下付きイオタ」というものに対応する発音であり、これはもっと古いギリシャ語にあったはずの音を再建したもので、日本の神学校では発音せずに教えることが多いようです。

もう一つの前置詞と名詞のセットを紹介すると、πρὸς τὸν θεόν(pros ton theon / プロス・トン・テオン)では、「〜と一緒に」を意味し、対格を要求する前置詞「プロス」は後ろに、対格の「神を」を表す塊「トン・テオン」が置かれ、「プロス」とセットになって「プロス・トン・テオン」全体で「神と共に」という意味を表していました。

そして本文中には繋辞動詞の過去形 ἦν(ēn / エーン)が3回登場しましたが、これは3人称単数形、つまり「彼・彼女・それ」という人称のための形になっていて、英語の was に相当する意味を担っていました。

前回の練習問題の解答とおさらいは以上です。解説は前回の「例題2」も参考にしてください。

■ ギリシャ文字のアルファベットの解説(後半)

前回に引き続き、今回はギリシャ文字の残り半分12文字を紹介します。前回も発音の心構えとして少しお話ししましたが、本講座では、初めてギリシャ文字を学ぶ人のために、正確さを多少犠牲にしてでも、まずはとにかくギリシャ語の聖書を音読できるようになることを最優先に解説しています。大学や神学校でギリシャ語の発音を既に習った方には物足りなさもあるかもしれませんが、ご理解いただければ幸いです。

前回お伝えしたように、ギリシャ文字のアルファベットの使い方は、私たちが知っている英語のアルファベットの使い方と同じですが、発音は英語と違って書かれている通りに発音すれば大丈夫です。今回学ぶ後半12文字のギリシャ文字を紹介します。

■ ギリシャ文字のアルファベット後半12文字

文字 名称 音価
Ν, ν νῦ(ニュー) n 日本語の「ナ行」とほぼ同じ
Ξ, ξ ξῖ(クシ) ks 英語の x と同じ「クス」のような音
Ο, ο ὄ μικρόν(オミクロン) o 日本語の「オ」とほぼ同じ(常に短音)
Π, π πῖ(ピ) p 日本語の「パ行」とほぼ同じ
Ρ, ρ ῥῶ(ロー) r 日本語の「ラ行」に似ているが巻き舌で発音
Σ, σ, ς σῖγμα(シグマ) s 日本語の「サ行」にほぼ同じ ς については後述
Τ, τ ταῦ(タウ) t 日本語の「タ行」とほぼ同じ
Υ, υ ὒ ψιλόν(ユプシロン) y, y: 日本語の「ユ」の音に近いが、実際は「ウ」の口で「イ」を発音したような音
Φ, φ φῖ(ピー) ph  息を強く吐きながら「パ行」を発音、英語の f のように発音しても良い
Χ, χ χῖ(キー) ch 息を強く吐きながら「カ行」を発音、ドイツ語のBach(バッハ)の ch のように喉の奥を擦るような音で発音しても良い
Ψ, ψ ψῖ(プシ) ps 「プス」という発音にほぼ同じ
Ω, ω ὦμέγα(オーメガ) ɔ:  日本語の「オー」とほぼ同じ(常に長音)

前回の「ギリシャ文字のアルファベット前半12文字」と合わせ、以上ですべてのギリシャ文字を紹介し終えました。特に「シグマ」に σ と ς の2つの小文字があることに注意してください。ς の文字は単語の末尾に来るときだけ使用し、大文字もありません。それ以外は常に Σ と σ を使用します。例文は後ほどまとめて紹介します。

また、χ の音は、強く息を込めながら「カ行」のように発音するか、喉の奥からこするような音を出しながら「ハ行」でもどちらでも構いません。ですが、日本語の「カ行」で代用しても差し支えないでしょう。

また、お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、この24文字の中には「ウ」の音を表す文字がありません。「ウ」の音は、2つの文字を重ねて ου のように表記します。発音の注意点として、日本語よりも口をとがらせて「ウー」と長く発音する点が特徴です。例として、ψ の文字と母音を組み合わせてみましょう。

例:ψα(プサ) ψι(プシィ) ψου(プスー) ψε(プセ) ψη(プセー) ψο(プソ) ψω(プソー)のようになります。聖書に登場する人名をギリシャ語で見てみると、

Ίησοῦς Χριστός(Iēsous Christos / イエースース・クリストス) イエス・キリスト

Μαρία(Maria / マリア) マリア(聖母マリア)

Παῦλος(Paulos / パウロス) パウロ

のようになります。パウロは日本語で聞き慣れている形と少し異なるぐらいですが、イエス・キリストに関しては大きく異なっていますね。また例えば福田耕佑の名前をこれまでに習ったギリシャ文字で書いてみると、

Φουκουδα Κωσουκε

となります。宮川創の名前は次のようになります

Σω Μιιαγαουα

宮川の「ヤ」を ια(イァ)、「ワ」は代わりに ουα(ウ〔ー〕ァ)で書いています。

皆さんもどうぞご自分のお名前をギリシャ文字で書いてみてください! 次回の文字の解説では、ギリシャ文字の二重母音と母音の合体(縮合)、そしてアクセントについてお話しします。

■ 例題3(ヨハネ一4:16後半)

「神は愛です。愛にとどまる人は、神の内にとどまり、神もその人の内にとどまってくださいます」(新共同訳)

「神は愛です。愛のうちにとどまる人は神のうちにとどまり、神もその人のうちにとどまっておられます」(新改訳2017)

ギリシャ語:Ὁ θεὸς ἀγάπη ἐστίν, καὶ ὁ μένων ἐν τῇ ἀγάπῃ ἐν τῷ θεῷ μένει καὶ ὁ θεὸς ἐν αὐτῷ μένει.

音写:Ho theos agapē estin, kai ho menōn en tēi agapēi en tōi theōi menei kai ho theos en autōi menei.

カタカナ音写:ホ・テオス・アガペー・エスティン、カイ・ホ・メノーン・エン・テーィ・アガペーィ・エン・トーィ・テオーィ・メネイ・カイ・ホ・テオス・エン・アウトーィ・メネイ

<語釈>


(ho / ホ)
[定冠詞] 男性・単数・主格と
θεὸς
(theos / テオス)
[名詞] 神が(男性・単数・主格)
ἀγάπη
(agapē / アガペー)
[名詞] 愛(主格)
ἐστίν
(estin / エスティン)
[動詞] ~である(3人称・単数・現在、英語 be 動詞の is に相当)
καὶ
(kai / カイ)
[名詞] ①そして、②~も(英語の also や too の意味)
μένων
(menōn / メノーン)
[分詞] 留まる人、住む人、滞在者(男性・単数・主格・現在)
ἐν
(en / エン)
[前置詞] (与格の名詞と)〜において、〜の中で
τῇ
(tēi / テーィ)
[定冠詞] 女性・単数・与格と
ἀγάπῃ
(agapēi / アガペーィ)
[名詞] 愛に(女性・単数・与格)
τῷ
(tōi / トーィ)
[定冠詞] 男性・単数・与格と
θεῷ
(theōi / テオーィ)
[名詞] 神に(男性・単数・与格)
μένει
(menei / メネイ)
[動詞] 留まる、住む(3人称・単数・現在)
αὐτῷ
(autōi / アウトーィ)
[代名詞] これ、この人(男性・単数・与格)

■ おさらいと単語

ここまで繰り返し出ている単語として、接続詞 καὶ(kai / カイ)があります。この単語は「そして」を意味し、主に英語の and と同じ働きをしていました。今回はもう一つの重要な意味である「~も」という英語の also や too に当たる用法を学んでいきます。そして第2講でも取り挙げた「神」を表す単語の θεὸς(theos / テオス)と、「~において、~の中で」を意味し与格と共に用る前置詞の ἐν(en / エン)が再び出てきます。

余談ですが、この「神」を表す θεὸς(theos / テオス)と、前回取り上げた「言葉、理性、学」を意味する λόγος(logos / ロゴス)が組み合わされ、θεολογία(theologia / テオロギア)という単語になり、これが英語に入って theology つまり「神学」という単語になりました。

英語などの言語の語源になっている単語も紹介していきますので、繰り返し出てくる頻出単語はゆっくり覚えていってくだされば幸いです。

■ 動詞の活用(conjugation)

ギリシャ語の動詞も、他の多くの欧州の言語と同じように活用します。簡単に申し上げますと、ギリシャ語の動詞は変化しない部分である「語幹」と「語幹」の後ろに変化する「語尾」があって、この「語尾を変化させる」ことで人称・数・性・時制などのさまざまな意味を表していきます。図式化しますと、

語幹(不変化)+語尾(変化)

という構造をしています。一般にギリシャ語の学習は困難だといわれていますが、それはこの語尾変化のパターンが複雑で多岐にわたり、どんな変化をしているのかを理解し、これらを一つ一つ覚えていくのがあまりに大変である、という点に大きな原因の一つがあるでしょう。今回の講座では「留まる、住む」という意味を表す動詞 μένει(menei / メネイ)が登場します。この動詞の語幹は μέν-(men-)までで、語尾は -ει(-ei)です。上で用いた図式に当てはめますと、

μέν- + -ει
men-(語幹) + -ei(語尾)

となります。そしてこの動詞の語尾 -ει(-ei)は「3人称・単数・現在」を表しています。言い換えると、「住む」のは、「現在」のことで、「私」や「あなた」、また「彼ら・彼女ら・それら」でもなく「彼・彼女・それ」が住んでいるのだということを表しています。ここで、最も頻繁に用いられる動詞の活用形の「1人称・単数・現在」と「2人称・単数・現在」、そして「3人称・単数・現在」の活用形を紹介すると、

μένω(menō / メノー) 私は、住む(1人称単数)

μένεις(meneis / メネイス) あなたは、住む(2人称単数)

μένει(menei / メネイ) 彼(彼女、それ)は、住む(3人称単数)

という形になります。それぞれ、μέν-(men-)までが語幹で変化せず、(-ō)、-εις(-eis)、-ει(-ei)の語尾の変化によって、主語の人称が変化しています。文章中における動詞の詳しい使い方は、次々項とそれ以降の講座で説明していきます。

■ ギリシャ語の語順について

ギリシャ語は語順の自由度がかなり高い言語です。そのことを理解していただくために、まずは英語や中国語の例を見てましょう。

“Paul eats it.”(ポールがそれを食べる) ⇔ “It eats Paul.”(それがポールを食べる)

「我吃米饭」(私がご飯を食べる) ⇔ 「米饭吃我」(ご飯が私を食べる)

このように、英語や中国語では語順が文の意味を決める重要な役割を果たしていますので、語順を変えると文の意味が大きく変わってしまいます。次に日本語の例を見てみましょう。

「私ご飯食べる」と「ご飯食べる」

このように、日本語ではたとえ語順が変わったとしても、名詞が文章の中でどんな役割を果たしているのかは助詞によって明示されていますので、語順によってはそれほど文章の意味は大きく変わりません。続いてギリシャ語ですが、前回の練習問題の解答で見た、ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ λόγος(エン・アルケーィ・エーン・ホ・ロゴス)を例にとって説明しますと、

ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ λόγος(エン・アルケーィ・エーン・ホ・ロゴス)(初めに、あった、言葉が)

ἦν ὁ λόγος ἐν ἀρχῇ(エーン・ホ・ロゴス・エン・アルケーィ)(あった、言葉が、初めに)

ὁ λόγος ἐν ἀρχῇ ἦν(ホ・ロゴス・エン・アルケーィ・エーン)(言葉が、初めに、あった)

日本語訳を見れば違和感もあるかもしれませんが、それぞれ語順を入れ替えてもギリシャ語としては成立しています。このようにギリシャ語でも、名詞が文章の中でどんな役割を果たしているのかは格変化によって明示されていますので、語順によってはそれほど文章の意味は大きく変わりません。これまでに学習した例文では十分な例を示すことはできませんが、今後さまざまな例文を通して詳しく説明していきます。

■ 繋辞動詞の現在形

ギリシャ語:Ὁ θεὸς ἀγάπη ἐστίν

音写:Ho theos agapē estin

カタカナ音写:ホ・テオス・アガペー・エスティン


(ho / ホ)
[定冠詞] 男性・単数・主格と
θεὸς
(theos / テオス)
[名詞] 神が(男性・単数・主格)
ἀγάπη
(agapē / アガペー)
[名詞] 愛(主格)
ἐστίν
(estin / エスティン)
[動詞] ~である(3人称・単数・現在、英語 be 動詞の is に相当)

続いて、今回の例題3の最初の部分「ホ・テオス・アガペー・エスティン」(神は愛である)を見ていきましょう。今回も繋辞動詞(英語の be 動詞に相当)が出てきます。今回登場しているのは ἐστίν(estin / エスティン)で、これは「彼・彼女・それが~である」という意味で、英語の is と同じ働きをしています。この文章では、「ホ・テオス」(the god)と「アガペー」(love)が並んで書かれており、英語の語順で考えれば、“the god love is” のような語順になっています。

ですが、ギリシャ語は語順が比較的自由な言語であることに加え、文の主語には定冠詞が付くことが多いということを前回お話ししたことを思い出してください。「テオス」に定冠詞「ホ」が付いて、「アガペー」に定冠詞がないことから、「ホ・テオス」が文の主語であり、この「ホ・テオス」とイコールの関係にある補語が「アガペー」であることが分かります。ですので、この文の語順をさらに理解しやすい語順に並び替えると、

Ὁ θεὸς ἀγάπη ἐστίν (ホ・テオス・アガペー・エスティン) (the god love is

→ Ὁ θεὸς ἐστίν ἀγάπη (ホ・テオス・エスティン・アガペー) (the god is love)

「神は愛である」となります。

■ 動詞の現在形

ギリシャ語:καὶ ὁ μένων ἐν τῇ ἀγάπῃ ἐν τῷ θεῷ μένει

音写:kai ho menōn en tēi agapēi en tōi theōi menei

カタカナ音写:カイ・ホ・メノーン・エン・テーィ・アガペーィ・エン・トーィ・テオーィ・メネイ

καὶ
(kai / カイ)
[名詞] ①そして、②~も(英語の also や too の意味)
μένων
(menōn / メノーン)
[分詞] 留まる人、住む人、滞在者(男性・単数・主格・現在)
ἐν
(en / エン)
[前置詞] (与格の名詞と)〜において、〜の中で
τῇ
(tēi / テーィ)
[定冠詞] 女性・単数・与格と
ἀγάπῃ
(agapēi / アガペーィ)
[名詞] 愛に(女性・単数・与格)
τῷ
(tōi / トーィ)
[定冠詞] 男性・単数・与格と
τῷ
(theōi / テオーィ)
[名詞] 神に(男性・単数・与格)
μένει
(menei / メネイ)
[動詞] 留まる、住む(3人称・単数・現在)

次は「カイ・ホ・メノーン・エン・テーィ・アガペーィ・エン・トーィ・テオーィ・メネイ」(そして愛の中に住む人は神の中に住む)を見ていきましょう。初めに出てくる接続詞の「カイ」はもう大丈夫だと思います。次に ὁ μένων(ho menōn / ホ・メノーン)ですが、「ホ」は「男性・単数・主格」の名詞に付く定冠詞(英語の the)で、 μένων(menōn / メノーン)は「住む人が」(主格)を表す言葉です。そして前回学んだ前置詞「エン」が、「メノーン」がどこに住んでいるのかを説明しています。前置詞「エン」は後ろに与格の名詞を伴って「~において、~の中で」という意味を表していました。今回は前置詞「エン」の後ろに τῇ ἀγάπῃ(tēi agapēi / テーィ・アガペーィ)という、定冠詞「テーィ」と、「愛」を意味する名詞「アガペー」の与格の形「アガペーィ」が来ています。「エン・テーィ・アガペーィ」という塊で「愛の中に」という意味になりました。これと「ホ・メノーン」を組み合わせて、「愛の中に住む人が」という一つの文の主語を構成しています。

では、ἐν τῷ θεῷ(en tōi theōi / エン・トーィ・テオーィ)はどうでしょうか。同じく「~において、~の中で」を意味する前置詞「エン」と、定冠詞「トーィ」+与格の形の名詞「テオーィ」(神に)の組み合わせです。前置詞「エン」と組み合わされ「エン・トーィ・テオーィ」で「神において、神の中で」を表す一つの塊になります。

最後に、「留まる、住む」を意味する動詞 μένει(menei / メネイ)(3人称・単数・現在)から、動詞を組み合わせ文章として考えてみましょう。この「メネイ」の主語になってくれる主格の名詞は「ホ・メノーン」しかありませんので、「住む人」が「住む」となります。

ὁ μένων μένει → 「住む人」が「住む」
(ホ・メノーン・メネイ)

ですが、この「ホ・メノーン」はもう一つ「エン・テーィ・アガペーィ」(愛の中に)という情報を持っていました。つまり「ホ・メノーン・エン・テ-ィ・アガペーィ」で「愛の中に住む人が」という塊を形成していました。主語の塊を【】でくくります。

【ὁ μένων ἐν τῇ ἀγάπῃ】 μένει → 「愛の中に住む人」が「住む」
(【ホ・メノーン・エン・テーィ・アガペーィ】・メネイ)

「愛の中に住む人」が「住む」となります。では最後に「愛の中に住む人」が一体どこに住んでいるのかというと、先ほど見た「エン・トーィ・テオーィ」(神において、神の中で)でした。「エン・トーィ・テオーィ」の塊も【】でくくります。

【ὁ μένων ἐν τῇ ἀγάπῃ】 【ἐν τῷ θεῷ】 μένει → 「愛の中に住む人」が「神の中」に「住む」
(【ホ・メノーン・エン・テーィ・アガペーィ】・【エン・トーィ・テオーィ】・メネイ)

英語のような語順に変えてみますと、

【ὁ μένων ἐν τῇ ἀγάπῃ】 μένει 【ἐν τῷ θεῷ】 (the living in the love lives in the god)
(【ホ・メノーン・エン・テーィ・アガペーィ】・メネイ・【エン・トーィ・テオーィ】)

となります。単語を機械的に入れ替えただけですが、見やすくなったのではないでしょうか。接続詞「カイ」を忘れずに補って直訳するとこの一文で「そして愛の中に住む人は神の中に住む」という意味になります。

■ 最後の一文と今日の復習

ギリシャ語:καὶ ὁ θεὸς ἐν αὐτῷ μένει.

音写:kai ho theos en autōi menei.

カタカナ音写:カイ・ホ・テオス・エン・アウトーィ・メネイ

καὶ
(kai / カイ)
[名詞] ①そして、②~も(英語の also や too の意味)

(ho / ホ)
[定冠詞] 男性・単数・主格と
θεὸς
(theos / テオス)
[名詞] 神が(男性・単数・主格)
ἐν
(en / エン)
[前置詞] (与格の名詞と)〜において、〜の中で
αὐτῷ
(autōi / アウトーィ)
[代名詞] これ、この人(男性・単数・与格)
μένει
(menei / メネイ)
[動詞] 留まる、住む(3人称・単数・現在)

前の文と同じように、接続詞「カイ」から始まりますが、この場合の「カイ」は英語の also や too の用法の「~も」という意味を表しています。and の用法と also・too の用法が同じなのは何だか不便なような気がしてなりませんが、現代のギリシャ語でもこの使い方は一緒で、多くは文脈から判断していくことになります。

この文の主語は、主格の「ホ・テオス」(神が)になります。そして前の文と同様に「~において、~の中で」を意味する前置詞「エン」と与格の名詞の組み合わせが来ています。今回は「エン・アウトーィ」です。この「アウトーィ」は指示代名詞のように用いることができ、前に出てきた男性・単数の名詞を受けています。前の文には「ホ・メノーン」(住む人が)と「トーィ・テオーィ」(神に)の2つが出てきていましたが、この文の主語が「ホ・テオス」(神が)になりますので、今回、この「アウトーィ」は「ホ・メノーン」(住む人が)を受けた与格になっています。ですので、「エン・アウトーィ」で「彼の中に」、つまり「住む人の中に」となります。さらに「ホ・メノーン」には「エン・テーィ・アガペーィ」(愛の中に)とい情報が付いていましたので、「愛の中に住む人の中に」という意味になります。動詞の「メネイ」は「留まる、住む」という意味でしたので、これらを組み合わせると、

καὶ ὁ θεὸς ἐν αὐτῷ μένειalso the god in him lives
カイ・ホ・テオス・エン・アウトーィ・メネイ

英語のような語順に並べ替えますと、

ὁ θεὸς καὶ μένει ἐν αὐτῷ(the god also lives in him)
(ホ・テオス・カイメネイ・エン・アウトーィ)

この一文によって「神もその人の中に住む」という意味になります。

■ まとめ

最後に例文全体を見てみると、直訳は「神は愛であり、そしてその愛の中に住む人は神の中に住み、神もその人の中に住む」となります。

こなれた日本語にすると、「神は愛です。愛にとどまる人は、神の内にとどまり、神もその人の内にとどまってくださいます」(新共同訳)のようになります。初めの「神は愛であり」の部分は見慣れない語順に見えたかもしれませんが、繋辞動詞を用いた前回と前々回の復習になっています。また残りの部分も繰り返しが多い部分でしたので、文法説明によく目を通していただいてゆっくり理解していただければ幸いです。

また今回の講座では、これまでに頻出した接続詞「カイ」、前置詞「エン」、そして「神」を意味する名詞「テオス」の復習と、例題3で初登場した「留まる、住む」を意味する動詞「メノー」を例に、ギリシャ語の動詞の活用を学び、そして語順について触れました。動詞や名詞の活用表などは少しずつ順を追って紹介していきます。

■ 練習問題

1)次の新約聖書の一節を日本語に訳しなさい。

Ὁ θεὸς ἀγάπη ἐστίν, καὶ ὁ μένων ἐν τῇ ἀγάπῃ ἐν τῷ θεῷ μένει καὶ ὁ θεὸς ἐν αὐτῷ μένει.

2)次のギリシャ語の単語の意味を答え、発音をカタカナで書きなさい。

Ίησοῦς Χριστός
Μαρία
Παῦλος

3)自分の名前をギリシャ語で書きなさい。

練習問題のヒントはすべて上の文章中にあります。

今回のレッスンはいかがでしたでしょうか。次回は第3回の練習問題の解答をした後、ギリシャ文字の二重母音とアクセント、そして気息記号を解説し、例題を一緒に解いていきます。次回の講座もよろしくお願いします!(続く)

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宮川創

宮川創(みやがわ・そう)

1989年神戸市生まれ。独ゲッティンゲン大学にドイツ学術振興会によって設立された共同研究センター1136「古代から中世および古典イスラム期にかけての地中海圏とその周辺の文化における教育と宗教」の研究員。コプト語を含むエジプト語、ギリシャ語など、古代の東地中海世界の言語と文献が専門領域。ゲッティンゲン大学エジプト学コプト学専修博士後期課程および京都大学文学研究科言語学専修在籍。元・日本学術振興会特別研究員(DC1)。京都大学文学研究科言語学専修博士前期課程卒業。北海道大学文学部言語・文学コース卒業。「コプト・エジプト語サイード方言における母音体系と母音字の重複の音価:白修道院長・アトリペのシェヌーテによる『第六カノン』の写本をもとに」『言語記述論集』第9号など、論文多数。

福田耕佑

福田耕佑(ふくだ・こうすけ)

1990年愛媛県生まれ。現在、京都大学大学院文学研究科現代文科学専攻博士後期課程、日本学術振興会特別研究員(DC1)。専門は後ビザンツから現代にかけての神学を含むギリシャ文学および思想史。特にニコス・カザンザキスの思想とギリシャ歴史記述とナショナリズムに関する研究が中心である。学部時代は京都大学文学部西洋近世哲学史科でスピノザの哲学とヘブライ語を学んだ。主な論文に「ニコス・カザンザキスの形而上学と正教神学試論―『禁欲』を中心に―」『東方キリスト教世界研究』第1号など。

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