日本初の復活演奏 よみがえった300年前の美しい響き 作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」

2016年10月5日17時19分 記者 : 坂本直子 印刷
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演奏後、拍手に応える出演者たち=9月29日、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で

ソプラノ歌手山内房子と4人の器楽奏者による作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」の演奏会が9月29日、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で開催された。礼拝堂には約130人が集まり、300年以上の時を経てようやく音楽となったレクツィオ(預言者エレミヤの「哀歌」)の美しい響きに酔いしれた。

「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」は、イタリアのローマにある聖アポリナーレ教会で、聖週間(復活祭前日までの1週間)のミサで朗唱されたレクツィオ。それぞれの楽譜には聖アポリナーレ教会の名前が記されながらも、作者名がどこにも見当たらない同作品は、手稿譜のままオックスフォード大学クライストチャーチおよびロンドン・ライブラリーに保存され、長い間演奏されることはなかった。それが、15年ほど前に、ソプラノ歌手の山内房子さんによって発掘され、日本で初めての復活演奏となった。

山内さんは、今回の演奏会に寄せて、「この曲についての詳細を文字にすることはできません。が、しかし、音で感じる面白さが演奏会の本筋ですので、のんびり音楽をお楽しみくださるとうれしいです」と語った。そして、「詩は、ユダ王国滅亡後に異教徒の都となった廃墟エルサレムを嘆く、痛みに満ちた、望みの見えない内容ですが、今日は宗教的な意義から離れて、声楽作品として楽しんでいただけたらと考えています」と話した。

日本初の復活演奏 よみがえった300年前の美しい響き 作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」
日本で初めてとなる作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」の演奏会は、日本福音ルーテル東京教会の礼拝堂で行われた。

同作品のテキストは、旧約聖書の「哀歌」が使われており、楽譜には2つの高音部楽器と歌と通奏低音が書かれている。全部で9曲ある作品だが、今回はソプラノが歌う4曲が演奏された。いずれも、歌と通奏低音に2つの楽器(バイオリン)が密に絡む音楽と、歌と通奏低音だけでテキストを際立たせる音楽がバランスよく配置された構成となっている。

器楽演奏には、桒形(くわがた)亜樹子さん(オルガン)、チェロは懸田(かけた)貴嗣さん(チェロ)、杉田せつ子さん(バイオリン)と廣海(ひろみ)史帆さん(バイオリン)という、古楽界を代表するメンバーが参加し、「誰にも知られることなく時を経たことが気の毒に思えるほど」の作品の美しさを、山内さんの歌声と4人の器楽演奏によって体現した。

日本初の復活演奏 よみがえった300年前の美しい響き 作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」
作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」の演奏者。左から、オルガンの桒形(くわがた)亜樹子さん、チェロの懸田(かけた)貴嗣さん、ソプラノの山内房子さん、バイオリンの廣海史帆さん。

演奏会は、オルガン独奏で始まった。ヨハン・ヤコブ・フローベルガーの「リチェルカーレ FbWV407より」が演奏されると、礼拝堂はバロックの雰囲気が漂い始めた。続いてバイオリンの美しいイントロが流れ、「第1日 第1のレクツィオ」が始まった。ここでは、哀歌1章1~5節が歌われていった。再び、オルガン独奏によるヨハン・ヤコブ・フローベルガーの「リチェルカーレ FbWV402」が演奏され、その後には「第3日 第1のレクツィオ」が歌われた。ここでは哀歌3章22~30節が歌われ、通奏低音の音が印象的に残った。

今回の演奏の中でもドラマチックな展開を持つのは、休憩をはさんで演奏された「第2日 第1のレクツィオ」だ。哀歌2章8~11節がテキストとなっており、速くなったり遅くなったり音の変化が多いことに驚かされる。解説によると、哀愁に満ちた冒頭に始まり、穏やかな情景へと変わり、それが、町の破壊に話が及ぶと音楽は激変する。その後、半ば諦めモードとなり、失望する人々の姿が動きを止めた音楽で描かれる。痛みに満ち、絶望的な内容でありながら、山内さんの歌うソプラノは、どこまでも優しく美しい響きを放つ。

3度目のオルガンの独奏は、ジローラモ・フレスコバルディの「トッカータ第11番」。そして、4曲目となる「第3の日 第3のレクツィオ」が歌われた。テキストは、哀歌5章1~11節で、この曲だけは、他の3曲に見られた「アレフ」「ベト」などといったヘブライ語のアルファベットは出てこないで、一気に最後まで歌い上げ、「Jerusalem.,Convertere ad Dominum Deum tuum.(エルサレムよ、あなたの神である主に返れ)」と静かに演奏は終了した。

演奏後、大きな拍手に応えて、「第2日 第1のレクツィオ」がもう1度歌われた。その後も拍手は鳴りやまず、集まった人たちは、この日の演奏会の終了を惜しんだ。

日本初の復活演奏 よみがえった300年前の美しい響き 作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」
演奏会で使われた作者不詳「聖アポリナーレ教会のレクツィオ」の手稿譜(画像:山内房子さん提供)

この日の演奏会について、バッハを中心とする西洋音楽史が専門の音楽学者・加藤拓未氏は次のようにコメントを寄せた。

「実に興味深い音楽だと思いました。語り掛けるような歌い口や、ヴォーカリーズで引き伸ばすように歌うところ、また生き生きとした器楽の掛け合いなど、さまざまな様式を効果的に用いて、聖句の内容が掘り下げられています」

「『バロック音楽』というと、どうしてもバッハやヘンデルを中心としたドイツの作曲家のイメージが強いと思いますが、17~18世紀当時の宗教音楽の本場はイタリアでした。そして、この頃に作曲された数多くのイタリアの宗教音楽が、現在でも人知れずに眠っています。今回の『聖アポリナーレ教会のレクツィオ』も、まさにそうした埋もれた宝の1つです。演奏を通じて、イタリア・バロックの宗教音楽の奥深さをあらためて実感しました」

演奏を聴きに来た20代の女性は、「自分でも声楽を学んでいるので、どういう音楽なのか興味があって来ました。とても良い音楽だったので、また演奏してほしい」と感想を述べ、「教会の礼拝堂で行われたのもよかった。できれば、教会が空いているときに、こういった演奏会にもっと開放してもらえればうれしい」と語った。

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