【インタビュー】オペラ歌手の稲垣俊也さんと遠藤久美子さん「音楽は、他者に自分をささげる喜び」

2016年4月24日07時54分 記者 : 坂本直子 印刷
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オペラ歌手の稲垣俊也さん(写真右)と遠藤久美子さん(同左)

オペラ歌手として国内外で活躍するバスバリトンの稲垣俊也さんとソプラノの遠藤久美子さん。29日に東京都千代田区にある紀尾井町ホールで開催される東日本大震災復興支援5周年記念コンサート「3・11を忘れない メサイア2016」への出演を前に、2人の信仰や音楽宣教を通して感じていることから、日本の教会の現状に至るまで、多岐にわたって話を聞いた。

「5年という区切りの今、メサイア公演を通して被災地の方々と主の慰めと希望を共有したい」と話す稲垣さんは、オペラ歌手であるとともにシャロンゴスペルチャーチの牧師でもある。19歳の時に受洗し、その後東京芸術大学を卒業。オペラ歌手として、また教会音楽家として常に第一線で活躍してきたが、東日本大震災後、新たに東京基督教大学の神学部で学び、牧師となった。現在は、牧師、オペラ歌手、大学講師の3役を務める。そんな稲垣さんと数多くの舞台を共にするプリマドンナである遠藤さんは、公私にわたるパートナーだ。

稲垣さんと遠藤さんは、東京芸術大学時代からの知り合い。イタリア政府給費留学生、文化庁特別派遣芸術家在外研修員として遠藤さんがイタリアに留学し、その1年後に稲垣さんも留学した。より豊かな音楽を作り上げていくためにも、お互いの存在はなくてはならないものとなり、イタリアで結婚式を挙げた。遠藤さんは、その留学中に受洗したという。日常生活の中にキリスト教が溶け込むイタリア生活の中で、イエス・キリストを自然に信じるようになり、自分で洗礼を受けたいと思ったと話す。

「オペラの楽曲の中には、神に語り掛ける言葉がたくさん出てくるので、作品を理解する上で神理解は切っても切れないもの。それを頭で理解するだけなく、信仰のうちに『感じる』ことができるようになったことは大きな神の恵みだと思う」と、遠藤さんは受洗後の音楽観を述べ、「その後は、歌の学びという枠を超えて、賛美の喜びを味わいながら作品に触れるようになったことが、イタリアの留学生活の中での一番の恵みだった」と語った。

「演奏活動において、聴衆の受け取り方は人それぞれ違っている。その意味で、私は人間の限界を知りつつ、その中でどなたかの心に深く思いが届くとすれば、神様の深い恵み、聖霊の働きによるものだと思う」と自身の音楽活動を振り返った。

それに対して稲垣さんは、「命は尊い授かりものであり『生きる』ことには深い意味と意義が与えられている。信仰とは、命を与え給う神に感謝し、神を喜ぶこと」と述べる。神を信じることで、平面的で近視眼的な人の見方が、神がかけがえのない命をお与えになったお一人お一人であると、立体的に見えるようになっていくと話す。「聴衆に対しても、イエスの眼差しをもってお一人お一人を見続けずにはいられない気持ちになっていく。音楽には、神経由で人々を互いに関わらせる聖なる力がある」と話した。

稲垣さんは、「人々の出来事はすべからく神がつかさどっておられるので、世俗曲であっても、おのずと神を視点とした音楽の構築になってくる」と話す。遠藤さんも、来月イタリア・ミラノで開かれる演奏会で、共演するイタリア人の合唱団から、日本人の一番ポピュラーな音楽をリクエストされたことを明かし、「宗教音楽でないと神を賛美できないということではなく、もっと開かれた宗教観が必要かと思った。日常生活において深く沁み込み受け継がれてきた音楽も切り離すことなく、つなげていく使命があるのではないか」と語った。

【インタビュー】オペラ歌手の稲垣俊也さんと遠藤久美子さん「音楽は、他者に自分をささげる喜び」
昨年12月12日に行われた藤沢市民クリスマスで

稲垣さんは、「神様は、聖書の言葉を頂点にして、生活世界のあらゆる出来事を通して、ご自身を自由に表す」と話す。「神様が自由にお働きになれる場所を、教会だけにとどめてはいけない。教会の優位性・素晴らしさを認めた上で、なお可能性を外の世界に見いだしていくことが必要だ」とし、自らが「音楽」という文化の懸け橋となっている意義を語った。日本人は俳句の5・7・5の17文字で森羅万象・心模様を表す美しい文化を持っている。その意味では、説明に説明を加えるような言葉が過多になってしまう宣教より、短歌、和歌的な“ことのは”のそよぎを醸し出す音楽宣教は、日本人の琴線に触れるのではないか、と話す。

クラシックとコンテンポラリーとの関係についても、稲垣さんは、「それぞれのジャンルに役割がある。『神のなさることは、すべて時にかなって美しい』(伝道の書3:11)と聖書にあるように、その都度、その場所にふさわしい音楽の関わりを見いだせばよい」と話す。遠藤さんは、「若い人でもグレゴリオ聖歌をこよなく愛する人がたくさんいるので、古典とか新しいものという固定観念を捨て、いろいろな音楽に触れてほしい」と述べた。その上で、演奏するときのバランス感覚の必要性を指摘し、「いい音楽を作ろうとしたら、バランスを考えざるを得ない。それを養う力が音楽にはある」と語った。

稲垣さんは、キリスト教式(教会式)結婚式を通じて、できる限り広く万人に「イエス・キリストの愛と福音を伝える」キリスト教ブライダル宣教団で司式も務める。今、キリスト教式で結婚式を挙げたいと考えている人は、数千万人ともいわれ、ここに福音の種をまいていくことが役割だと話す。また、「神様のお働きになる機会は、教会だけではなく、事業を通して、経済活動を通して、神様は自由にご自身を表す」と述べ、「私たちは文化人の働きを決して手放すことはしない、牧師になってもオペラ歌手。そういう世間とのつながりを断つことは、神のお働きを妨げることになるのではないかと思う。生活世界の中にわれわれのほうから出向いていく」と自身の役割を語った。

さらに、牧師の役割は常に教会にいることで、牧師と宣教師は働きが違うとした上で、「自分の役割は宣教師に近い」と話す。「宣教があるからこそ共同体が構築される。宣教すればするほど、教会という愛の共同体を堅固に構築することができる」と力を込め、また「音楽は自然に素朴に生活世界の中に飛び込んでいける。聴衆に楽の音が奏でるところの“みことば”に共鳴、共振していただけるならば、それはすなわち”みことば”の授受がなされたこと。宣教がその場で成就していることだ」と話した。

【インタビュー】オペラ歌手の稲垣俊也さんと遠藤久美子さん「音楽は、他者に自分をささげる喜び」
ビゼーのオペラ「カルメン」にも出演した2人。この時、遠藤さんは自身とは全く違った女性・カルメンを演じきった。(写真:稲垣俊也さん提供)

遠藤さんは、「仏教国といえる日本で、他宗教の音楽作品である『メサイア』『マタイ受難曲』『レクイエム』『ミサ曲』などの公演で合唱団員を募集すると大勢集まるという現象は、外国と比べるととても特殊らしい。日本人の心の中にキリスト教精神に対する感受性があるのではないか。その中に私たちの宣教の糸口があるのかと思っている」と語る。

また結婚観については、レバノン出身のハリール・ジブラーンの詩集『The Prophet(預言者)』の「結婚について」を引用し、「“自由な空間を置きなさい、そしてそこに天からの風をそよがせなさい。・・・むしろ2人の魂の岸辺と岸辺に動く海があるように・・・ちょうどリュートの弦がそれぞれでも同じ楽の音を奏でるように・・・” ―つまり、ほど良い風、神様の息吹が通るような距離感。夫婦であっても、ぴったりだけれどもお互いがお互いに客観視できるゆとりが大切なのかなと思います」と語った。

最後に好きな楽曲について尋ねたところ、遠藤さんは、「出会った作品を好きになるようにする。作品は“出会い”だと思うので、それを準備する間にどんどん好きになっていく。相性の悪いものもあるが、準備の段階で愛着が湧いてくる。でもあえていうならば、やはり心が、自然に神に向かって引き上げられるようなエネルギーを持った楽曲には惹かれる」と話した。

稲垣さんは、「私が好きというより、歌の方が自分を好きになってくれる。近づいてきてくれる。歌は一人の人格者との出会いのような喜びと緊張感がある」「賛美の原意はエウ・ロギア―良く言い合うこと・祝福と同義―。神と神につながる人々が、愛の言葉を交わし合い、より良く関わり合っていくこと。音楽は関わる存在そのものである人に寄り添う最高の友」と語った。

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