日本宗教学会第74回大会(2)キリスト教から諸宗教まで 震災、ケア、教育ほか14部会で280の研究発表

2015年9月21日17時25分 記者 : 土門稔 印刷
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パネル発表「戦場のウィトゲンシュタイン―神への祈り」で発表する大正大学の星川啓慈氏(左)

日本宗教学会第74回学術大会(9月4〜6日、創価大学)の2日目、3日目は、宗教学、宗教史学、宗教哲学、民俗学、心理学、医療、震災、葬送、仏教、神道、新宗教、宗教と教育、ジェンダー、アジア、アフリカなど14の部会に分かれ、264の個人の研究発表と16のパネル発表が行われた。

キリスト教をテーマにした研究も、「キリシタン文化の観光資源化―長崎県外海地方を事例として」(長崎国際大学大学院、池田拓朗氏)、「ペンテコスタリズムにおけるジェンダー」(茨城工業高専、野口生也氏)、「カトリック教会の社会福祉事業と女性のエンパワーメント」(中央大学、岡光信子氏)、「キリスト教会におけるハラスメント防止対策の諸問題」(同志社大学、三木メイ氏)、「『十字の切り方』―その初期歴史と象徴的意義をめぐって」(南山大学、リアナ・トルファシュ氏)、「R・ニーバーと内村鑑三―アモス書解釈とその応用をめぐって」(日本学術振興会、柴田真希都氏)など、多くのものが見られた。

以下、聴講した研究発表の中から概要を幾つか紹介する。

● 「ドイツ宗教間対話におけるユダヤ人の位置づけ―ベルリンの事例」(一橋大学大学院、堀彩子氏)では、戦後ドイツにおけるユダヤ人の意味付けと、近年のアラブ圏からの移民の増加の中で反ユダヤ主義が見られるケースも出ていることが報告された。

ナチス・ドイツによるホロコーストの過去を負う戦後の西ドイツでは、国内のユダヤ人コミュニティーの復興のためにさまざまな処置が取られ、文学作品や専門書、テレビや新聞でもユダヤ人が日常的に取り上げられ、ドイツの歴史とナショナルアイデンティティーの正当性と尊厳を問う中心的な構成要素とされてきたという。

しかし、移民の背景を持つ市民の人口がベルリンで約100万人を超え(2014年調査)、アラブ系移民の増加やイスラエルとパレスチナの紛争が激化する中、2012年にはユダヤ教のラビが、アラブ系の若者に暴行される事件が発生し、ユダヤ地区への襲撃事件が起きるなど、反ユダヤ的な事件が発生しているという。このような中、ドイツでは宗教間対話が、移民の統合をめぐる社会的な問題との強い関連で論じられているという。

● 「現代中国におけるリューサーのエコ・フェミニスト神学研究」(京都大学大学院、張旋氏)では、2005年以降、中国ではエコフェミニスト神学に関する研究論文が急増していることが報告された。環境汚染に関する論文は2004年の4049本から1万4799本に急増しているという。一方で宗教をテーマとする論文の中でも、神学に関する論文はまだ極めて少ないという。

その中で、現代フェミニスト神学の代表的神学者であり、エコフェミニズムの指導的推進者である、ローズマリー・ラドフォード・リューサー(1936~)の研究が、現代中国でどのようになされているかが発表された。

● 「社会主義とキリスト教―カール・バルトの場合」(青山学院大学、福島揚氏)では、カール・バルト(1886~1968)が、スイスの工場労働者の村ザーフェンウィルに牧師として赴任していた時代(1911~21)の思想をもとに、社会主義とキリスト教の連関が論じられた。この中では、今年1月に出た『現代思想―柄谷行人の思想』臨時増刊号(青土社)で、柄谷行人氏が、バルトの「イエス・キリストと社会運動」を含む初期バルトを論じ評価していることなども紹介され、現代において資本主義経済をいかに制御し、超克するかという課題から注目が集まっていることも報告された。

● パネル発表「漢字文化圏における聖書翻訳と信仰の表現」では、中国、韓国、日本という漢字文化圏に属してきた国々において、伝統文化とキリスト教の葛藤・対話・融合が顕在化してきた場の一つとして聖書翻訳があると注目。中国、朝鮮半島、日本における漢語の翻訳などについて、4人の研究者によって複合的に検討が行われた。

日本宗教学会第74回大会(2)キリスト教から諸宗教まで 震災、ケア、教育ほか14部会で280の研究発表
パネル発表「震災と記憶―声にならない声を聴く」で発表する、浄土真宗本願寺派総合研究所の金沢豊氏

● パネル発表「震災と記憶―声にならない声を聴く」では、東日本大震災以来、宗教者たちが多くの被災者の声に耳を傾けてきた経験を、死者の記憶、宗教者の対応などから5人の研究者が発表した。

東北大学大学院の高橋原氏は、東日本大震災の被災地で、宗教者が被災者から「心霊現象」にまつわる相談を受けたときにどのように対応しているのか、3年間の調査に基づき発表した。

高橋氏は、これらの訴えは、被災者が震災の際に周りで目にしながら助けることができなかったという記憶など、「声にならない」「死者の記憶」を適切に受け入れることができず、苦しみが得体の知れない不安となり、それを他者に向かって表出することができず、「心霊現象」などの形で現れているのではないかと考察した。

具体的なケースを示した上で、その際、宗教者は、①受容(辛抱強く話を聞く)、②儀礼的対応(読経などを行う)、③教育(「霊による祟(たた)り」という概念を否定し、先祖供養の意味と大切さを教える)、そして最終的に、④自己解決(自然治癒)の了解、というプロセスを経る対応を行っていると報告した。宗教者が行っているのは、問題の明確な原因と解決方法の提示や処方ではなく、依頼者の宗教的世界に寄り添いながら、依頼者自らが心身のストレスと向き合うことを援助し、時が問題を解決するに任せる、セルフケアサポートであると考察した。

そこから高橋氏は、「死者の記憶」は、かつては故人の親族や近隣の人々を集めて、私的な恨みつらみも合わせて一定の範囲で共有され、受け止められ、それを聞く者たちを癒やし、動かす力を持っていたが、今日それは共有されることはなく、保存されることもない。そこで、「死者の記憶」を受け止め、意味付けることを助ける役割を宗教者が担っていると考察した。

● パネル発表「戦場のウィトゲンシュタイン―神への祈り」では、ルードヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889~1951)が第一次世界大戦従軍中に戦場でしたためた私的な日記『秘密の日記』をもとに、戦場体験が『論理哲学論考』など、彼の思想に大きな影響を与えていることに注目し、5人の研究者が論考を行った。

軍事研究家の石神郁馬氏は、計120万人以上の犠牲者を出した、第一次世界大戦中のロシア軍によるブルシーロフ攻勢(1916年)に、オーストリア・ハンガリー軍に従軍していた、ウィトゲンシュタインの日記に注目。極限状態、多民族、多言語の部隊の中、「言われえないことは、言われえないのだ!」という叫びのような記述が、後のよく知られる「語りえないものについては、沈黙しなければならない」という一節につながったのではないか、と指摘した。

宗教者ウィトゲンシュタイン』の著作がある大正大学の星川啓慈氏は、『秘密の日記』の中には戦場に携帯した、レフ・トルストイ(1828〜1910)の『要約福音書』を何度も読み込んでいたことや、神や聖霊に対する祈りの記述が繰り返し現れることに注目し、戦場体験と「神への祈り」が、ウィトゲンシュタインの哲学の原点として注目されるべきだと発表した。

日本宗教学会の第75回学術大会は来年、早稲田大学で開催される。

■ 日本宗教学会第74回学術大会:(1)(2)

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