非暴力で差別と闘った人―キング牧師の生涯(3)バス・ボイコット運動の始まり

2015年8月14日07時21分 執筆者 : 栗栖ひろみ 印刷

1955年12月1日。下町のデパートでお針子をしているローザ・パークス夫人は、帰宅しようとバスに乗った。そして、同僚である3人の黒人と一緒に白人専用席のすぐ後ろの席に座ったところ、間もなく大勢の白人がどやどやと乗り込んできた。すると運転手は彼女に後ろの席に行くよう命令した。他の3人はすぐにそうしたが、彼女はとても疲れて足が痛かったので立たなかった。

「降りろと言ってるんだ!」。運転手は怒鳴りつけたが、彼女はそうしなかった。すると運転手は降りて警官を呼んできた。警官は乱暴に彼女を縛り上げて警察に連行した。そして、市の「人種差別条例」違反の罪で12月5日裁判にかけると言い渡し、ひとまず帰したのである。

パークス夫人は人柄もよく、誰にも好かれていたので、これを聞いた黒人たちは怒った。悩んだ末に、彼女は「寝台ポーター組合」の活動家E・D・ニクソンに相談した。

「こんな非道なやり方ってありませんよ」。憤慨したニクソンは、第一バプテスト教会牧師ラルフ・デービッド・アバナシーに訴えた。キングとは同じ聖職者として地元の人のために活動し、「ラルフ」「マーティン」と呼び合うほど親しい仲であったアバナシーは、すぐさまキングの所に飛んでいった。

「夫人逮捕に抗議してバスのボイコット運動をしたらどうかとニクソンは言うんだがね」。アバナシーの提案にキングは賛成した。この時、キング家は長女ヨランダの誕生のためにあわただしかったが、彼は即座に運動の準備に取りかかった。

「12月5日。出勤、買い物、登校、その他どこへ行くにもバスには乗らないこと」。教会でこのようなビラが7千枚以上印刷され、黒人たちにくまなく配られた。地元の白人誌『モントゴメリー・アドバタイザー』は、このビラを入手し、すぐさま宣伝したので、ボイコット運動は盛り上がった。このデモに賛成し、参加を表明した者の中には各界の有名人も多く、MIA(モントゴメリー地位向上協会)という委員会もできた。彼らは市内の黒人タクシー会社と折衝。200台のタクシーを動員してバス代と同じ10セントで市内のどこへでも乗せてもらうようにした。

そして、その日が来た。6時の始発バスは空っぽだった。2台目も3台目も乗客は一人も乗っていなかった。キングは自分の車を動かして偵察に出かけた。ラッシュアワーだというのに、30分見回っても、行き合ったバスに乗っていた黒人はたった8人であった。

「素晴らしい!」。キングは、MIAのメンバーと共に法廷に乗り込んだ。パークス夫人は有罪の判決を受け、10ドル以上の罰金刑となった。

その夜キングは、会合が持たれたホルト・ストリート・バプテスト教会で4千人近い黒人たちを前に語った。

「今夜われわれがここに集まったのは、これまで長い間差別され、侮辱され、虐待されてきたことにもはや耐えられないということを、身をもって示すためであります。民主主義の栄光の一つは、権利のために抗議することです。白人市民会議やKKK団(黒人等を排斥するための秘密結社)は私たちの抗議に耳を貸さず、この社会に人種差別という悪を永続させるために必死で妨害しています。しかし、われわれの抗議の方法は彼らのやり方とは違うことを見せなくてはなりません。われわれは、十字架を焼いたり、白人を家から引きずり出して殺害したりするようなまねはしません。脅迫も侮辱もしません。私たちはキリスト教の深い教理に従って行動しなくてはならないのです。今ここで、幾世紀を隔てて、再びイエスの言葉に耳を傾けなくてはなりません。『あなたの敵を愛しなさい。あなたを呪う者を祝福しなさい。あなたを虐げる者のために祈りなさい』――これであります。いかに不当な扱いを受けようとも、恨みを抱いて白人のきょうだいを憎むようなことをしてはならないのです」

拍手喝采は会堂を揺るがせた。

『ミネアポリス・スター』紙の記者カール・コーワンは、バス・ボイコット運動は毎日95%の成功率を示していると報じた。黒人たちは、今や共通の目標のために一致団結したのだった。車を持つ人は使用人を乗せてやり、タクシーに乗れない人は毎日10キロ以上もある道を歩き通した。そんな時、ジュリエット・モーガンという白人の老婦人が黒人たちのボイコット運動をガンジーの無抵抗主義のそれになぞらえ、その崇高な精神をたたえる一文を『ザ・モントゴメリー・アドバタイザー』誌に投書し、これが掲載されたことから、キングたちの運動は一躍世界の注目を集めたのだった。

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栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。派遣や請負で働きながら執筆活動を始める。1980〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、1982〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、1990年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。動物愛護を主眼とする童話も手がけ、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で、日本動物児童文学奨励賞を受賞する。2015年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。編集協力として、荘明義著『わが人生と味の道』(イーグレープ、2015年4月)がある。

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