非暴力で差別と闘った人―キング牧師の生涯(9)私には夢がある!

2015年11月12日08時02分 執筆者 : 栗栖ひろみ 印刷

1963年。黒人たちの「権利を求める闘争」が続く中で、キングは国内外を講演して飛び回っていた。その間に白人差別主義者たちの妨害は一層ひどくなり、彼らは政治家や市当局、警察まで買収しようと企て、暴力団を雇い黒人にリンチを加えさせたりした。そのような中で悲しいことであったが一部の黒人たちによる暴動が各地で起きた。彼らの忍耐は限界まできており、あまりにも白人から虐待を受け続けてきたので、非暴力による闘争というものをもはや信じることができなかったのである。

しかし、キングは失望しなかった。彼は「すべてのアメリカ人が自由を獲得すべきだ」という信念を持っており、その夜明けを垣間見、その日が近づいていることを知った。

6月23日。彼はデトロイトにおいて、公民権を求める「自由の大行進」の先頭に立つ。これは彼が今まで経験したあらゆる行進の中で最大規模のものであった。何千何万という黒人が大波のうねりのようにウッドワード通りを通過していった。彼は演説した。

「私たちは非暴力の力を知り、これが弱い手段ではないことを学びました。なぜなら反対の中で立ち上がり、自分に向けられた暴力に立ち向かい、しかも暴力をもって報復するのでなしに相手を赦(ゆる)すことができるのは強い人間なのですから。相手があなたを監獄に放り込んでも恐れることはない。その屈辱の牢獄を自由と結束の天国に変えましょう」

彼の叫びは、白人の中の心ある人々の胸に通じ始めていた。その後シカゴで4日間にわたって開かれた「全米宗教・人種会議」に特別講演者として招かれた彼の演説は多くの人の心を打った。

そして、ついに8月がやってきた。キングはすでに黒人、白人合わせてワシントン記念塔からリンカーン記念堂までの大行進を計画していた。8月2日。真夜中過ぎに最初の一群がワシントン記念塔に着いた。夜明けまでには何千人という人たちがやってきた。彼らは公民権グループ、教会関係者、労働組合、学校といったグループで、汽車、飛行機、バス、あるいは自動車でやってきた。昼になると、NAACP(有色人種地位向上協会)のメンバーがバスを連ねてやってきた。10時45分には9万人もの人々が集い、談笑したり、「勝利の日まで」を歌ったりしていた。黒人5人のうちに、1人は白人が混じっていたが、彼らは親しい友人のように肩をたたき合ったりハグ(抱擁)し合ったりしていた。

やがて1マイル(約1600メートル)ほど離れたリンカーン記念堂からオルガンが「自由の歌」をかなで始めると、群衆はゆっくりと行進を始めた。さらに何千人という人々がワシントン記念塔にやってきて、その後から歩き始めた。午後1時。キラキラ光る星をちりばめた横断幕の前で、ブロンズ色の肌をした美しい女性カミラ・ウィリアムズが「自由の行進開会宣言」をした頃には、20万人を超える人々が、全員リンカーン記念堂に顔を向けて座り、あるいは起立していた。

やがて、司会のフィリップ・ランドルフがあいさつをした。

「私たちは職業と自由を求めている兵士たちです。この革命は全米に波及し、今黒人が圧迫され、搾取されているあらゆる都市、町、村を目覚めさせるでしょう。われわれが自由でない限り、白人もまた自由であり得ないのです」

それから、ボブ・ディラン、ジョン・バエズ、ピーター・ポール・アンド・メアリーなどの歌手が歌った。その後、いよいよキングが紹介され、彼は檀上に登った。その時の彼の演説は、まさに「歴史的演説」として後世に残ることになったのである。

「100年前にリンカーン大統領は奴隷解放宣言をしました。それから100年たった今日でも依然として黒人は自由を得ていません。しかし、米国憲法と独立宣言は、まさに『約束手形』なのであります。まだ法令化されていませんが、私たちが請求し次第、豊かな自由と正義を約束してくれるでしょう。そして、それは今、この時なのです」

「われわれが自由の鐘を鳴らす時、すべての村、すべての州、すべての市から、神の子どもたちが、黒人も、白人も、ユダヤ人も、異教徒も、プロテスタントも、カトリックも、みんな手をつなぎ、声をそろえて『ついに自由だ! 全能の神に感謝せよ。われわれはついに自由になった』という古い黒人霊歌を歌うことができる日を早く来たらせることができるでしょう」

この日、何千万というアメリカ人、それを超えるヨーロッパ各国の人々はテレビの画面に見入り、ラジオに耳を傾けたのだった。

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栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。派遣や請負で働きながら執筆活動を始める。1980〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、1982〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、1990年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。動物愛護を主眼とする童話も手がけ、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で、日本動物児童文学奨励賞を受賞する。2015年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。編集協力として、荘明義著『わが人生と味の道』(2015年4月、イーグレープ)がある。

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