非暴力で差別と闘った人―キング牧師の生涯(5)自由への大いなる歩み

2015年9月10日19時11分 執筆者 : 栗栖ひろみ 印刷

1957年1月28日をもってバス・ボイコット運動が終わった。キングは一躍黒人指導者として脚光を浴び、海外でも知られるようになった。しかし、彼の体力はこのとき限界にきていた。デクスター・アベニュー・バプテスト教会では、彼を休養させる必要ありと判断し、海外旅行をさせるために2500ドルを与えた。たまたまキングはエンクルマ首相から招かれていたので、夫人と共にアフリカのガーナを訪れることにした。

3月5日。キング夫妻はアクラに着き、独立式典に出席。エンクルマ首相は、「戦いは終わった。われらの愛する国ガーナは永遠に自由である」と宣言した。このときキングは、感動を抑えることができなかった。自分たちの祖先が奴隷として鎖につながれ狩り立てられた祖国が自由になったのだ。エンクルマは戦争をすることなく、非暴力をもって愛する国の自由を勝ち取ったのだった。キングは、エンクルマとの出会いで勇気づけられるのを覚えた。

3月25日に帰国。4月5日にはワシントンのメトロポリタン・バプテスト教会で開かれたNAACP(有色人種地位向上協会)の協議会に出席し、「自由のための祈りの巡礼」というイベントを実施することにした。

5月17日の朝。黒人キリスト教徒が主体となり、全米各地からやってきた3万7000人の「祈りの巡礼」がリンカーン記念堂前に集まった。この中には、シドニー・ポワチエ、ハリー・ベラフォンテ、サミー・デービス・ジュニアといった芸能人も交じっていた。集会は正午から始まり、マヘリア・ジャクソンの独唱、そしてSCLC(南部キリスト者指導会議)の指導者3人が報告を行った。そして午後3時。キングが紹介されると、群衆は総立ちになって歓呼した。彼は美しいバリトンの声で静かに語り始めた。

「われわれに参政権を与えてください! そうすれば、われわれは暴徒たちに秩序を与え、善良な市民に変えてみせましょう。われわれに参政権を与えてください! そうすれば、われわれは議会を善良な人々で満たします」

「みなさん、われわれは愛の秩序により、自由を勝ち取るための行動を起こしたのです。決してわれわれを弾圧する者たちに手向かってはなりません。相手を憎めば、新しい秩序も古いそれと変わりがなくなります。われわれは憎しみには愛を、暴力には精神の力をもって報いなくてはなりません」

この「自由のための祈りの巡礼」は、全米の人に知られるところとなり、カリフォルニア、アイオワ、メリーランド、ミズリー各州の知事は5月17日を「巡礼の日」と定め、ロサンゼルスやニューヨークの市長もこれにならった。キングの名は国内外にとどろき、いくつかの財団によって賞が与えられ、3つの大学から名誉学位が与えられた。そして彼は57年中に200回を超える講演を行った。この頃コレッタ夫人は身重になり、翌年9月に長男のマーティン・ルーサー・キング3世が誕生した。

これより少し前からキングは、友人のローレンス・レディックの手助けにより執筆活動を始めていた。そして『自由への大いなる歩み』『暴力なき十字架』が共に出版された。

しかしながらこの後、苦難が次々と彼に襲いかかる。9月3日のことであった。彼は友人の牧師アバナシーがある裁判で証言するのを傍聴するため、アバナシー夫妻とつれだって市の裁判所に出かけた。ところが護衛の警官は彼らの入場を拒否した。キングは知り合いの弁護士に話をつけてもらおうとしたところ、突然警官は怒鳴りつけた。

「黒ん坊め! とっとと出て行かないと、牢にぶち込むぞ!」。そして、話を聞いてもらう間もなく「こいつをしょっぴけ」と命じ、別の2人の警官が彼の腕をねじりあげ、石段から引きずり下ろし、警察に引き立てて行った。しかし幸い彼はその日のうちに釈放された。

それから2週間後の9月20日のこと。キングはハーレムにある黒人が経営する靴屋の店内で群衆に配るために自著『自由への大いなる歩み』にサインをしていた。そこへ大柄の黒人女性がつかつかと来て言った。

「あなたがキングさん?」「そうです」「ルーサー・キング。あんたを5年も捜していたのよ」

そう言うと、女性はいきなりペーパーナイフを彼の胸に突き刺した。彼女は駆けつけた警官に取り押さえられたが、ハンドバックの中には実弾入りの拳銃が入っていた。キングは病院に運ばれ、医師が3人がかりで3時間にわたりようやくナイフを抜き取った。この女性は精神疾患を持っており、精神病院に送られた。

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栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。派遣や請負で働きながら執筆活動を始める。1980〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、1982〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、1990年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。動物愛護を主眼とする童話も手がけ、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で、日本動物児童文学奨励賞を受賞する。2015年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。編集協力として、荘明義著『わが人生と味の道』(2015年4月、イーグレープ)がある。

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