重要な局面を迎える地球温暖化対策 環境ジャーナリスト・川名英之

2015年7月14日12時27分 執筆者 : 川名英之 印刷

今、地球規模で気温が上昇し、このため南極・北極の海氷や高山の氷河が解けて海面上昇が続いている。この地球温暖化の主要な原因は、温室効果ガス総排出量の9割を占めている二酸化炭素(CO2、石炭・石油の燃焼による)の排出である。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が昨年発表した第5次評価報告書によると、今のペースで温室効果ガスが排出されると、18世紀半ばの産業革命前から今世紀末までに気温は最大4・8度、海水面は82センチメートルも上昇するという。海抜1メートル未満の海に面した低地に住んでいる人は推定約1億人。高潮被害もあるため、移住を余儀なくされる人は2050年までに1億5000万人に上ると予測されている。

極圏と高山の氷が解けて海面が上昇

海面上昇の原因である極圏と高山の氷のうち、北極海の海氷について見ると、1996年から2015年までに17パーセントも減少している。写真の白い部分は、2005年9月21日現在の北極圏の海氷部分と、パラフィン島(右に突き出ている部分)を覆っている氷である。黄色の線は1979年9月時点の海氷部分で、26年間にこれだけ海氷が解けて消えた。この写真を9年後の2014年9月17日に日本の地球観測衛星「しずく」が捉えた北極海の写真と比較すると、2005年9月の時点では右に突き出していたパラフィン島の氷が消え失せ、海氷部分もかなり縮まっている。このように北極海の海氷は年を追って減り、それが確実に海面を上昇させている。

重要な局面を迎える地球温暖化対策 環境ジャーナリスト・川名英之
左:白い部分は2005年9月21日時点の海氷部分とパラフィン島の氷。黄色い線は1979年9月の海氷部分。北極圏の海氷が急ピッチで減少している証拠である。米国航空宇宙局が衛星から写す。(写真:AFP)
右:南極大陸の氷河が溶け、その氷が流れ込む速度をイメージで表した写真。濃い赤色部分で最も早く流入している。米プリンストン大学のジョナサン・バンバー教授の研究グループが過去50年間の衛星写真のデータを読み取って作成した。(写真:ジョナサン・バンバー教授提供)

猛烈熱帯低気圧の発生と被害

猛烈な熱帯低気圧(フィリピン、日本列島など東アジアを襲う台風・西インド諸島、メキシコ湾で発生するハリケーン・インド洋で発生するサイクロン)の被害の増加、降雨量の少ない地域における一層の雨量の減少と干ばつ、これによる水不足の深刻化など、地球温暖化による異常気象と被害は既に頻繁に発生している。2013年11月22日、フィリピン・レイテ島の高潮・暴風災害(=写真)の死者は4460人、フィリピン全土では6200人。被災者は総人口の1割に当たる967万人を数えた。また2005年8月末、米国東南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」による直接・間接の死者は800~1335人、被害額は1兆1000億~2兆8000億円、さらに2012年10月、米国東海岸を襲ったハリケーン「サンディ」の被害額は8兆円に上った。

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地球温暖化に起因する高さ数メートルの高潮(台風30号による)のため、死者4460人(国連人道問題調整事務所発表)、家屋損壊24万3600戸が出たフィリピン・レイテ島の災害現場(写真:毎日新聞社提供)

対策の強化を呼び掛けたローマ教皇

こんな被害の頻発を回避するためには、地球の平均気温を産業革命前と比べて2度未満の上昇に抑えようというのが、世界共通の目標である。平均気温を2度未満の上昇に抑えるためには、世界全体の二酸化炭素排出量を2100年までにゼロまたは、それ以下に削減する必要があるとされているが、各国が現在発表している削減目標では、その達成はほぼ不可能である。

今年12月、パリで開かれる国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、京都議定書を離脱した米国や、これまで京都議定書に参加していなかった中国やインドなどの新興国・途上国も参加することになっている。この会議は、温室効果ガスの排出量をどこまで削減し、気温上昇を低く抑えることができるかに関わる重要な会議である。

今年6月18日、ローマ・カトリック教会の教皇フランシスコが地球温暖化問題に関する初の重要公文書「回勅」を発表した。12月のパリ会議によい影響を与えることを狙ったものであろう。この文書で教皇は「地球温暖化の原因物質である二酸化炭素の排出やこれによる海洋の酸性化が続けば、今世紀にとてつもない気候変動と未曾有の生態系破壊が起こり、深刻な影響を招きかねない」と警告、国際社会に迅速な行動を呼び掛けた。教皇の回勅は全世界で報道され、大きな反響を呼んだ。

週刊「世界キリスト教情報」6月22日号(第1274号)によると、この回勅のテーマは環境問題の方向転換を目指すという意味の「環境的回心」で、全6章からなる。教皇は、まず現在の環境危機のいろいろな様相を気候変動や水不足、生物学的多様性の喪失、環境的負債などについて概観、ユダヤ教およびキリスト教的伝統の視点から、人類共通の財産としての環境と自然に対する人類の責任について述べた。

教皇は次に現在の環境危機の原因が「テクノロジーと人間中心主義の弊害にある」と指摘、国際社会に化石燃料の過剰使用を戒め、その排出大国に削減努力を呼び掛けるとともに、テクノロジーと人間中心主義の弊害を是正するために、「統合的なエコロジー」や環境教育の重視、環境危機につながる習慣の見直し、環境の改善に役立つ生活スタイルの選択を呼び掛けた。

重要な局面を迎える地球温暖化対策 環境ジャーナリスト・川名英之
地球温暖化による海面の上昇で、遠からず水没が心配されているオーストラリアのサンゴ礁の島(写真:REUTERS SUN)

「地球の叫びに耳を傾けよ」

教皇は、「私たちの家である地球が上げている叫びに耳を傾け、皆の共通の家を保全し、責任を持ってその美しさを守るために」環境的回心を呼び掛けるとしている。教皇が地球温暖化対策への行動を呼び掛けたことについて、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長やバラク・オバマ米大統領らが6月18日、相次いでこれを歓迎する声明を発表した。潘事務総長は声明で、「全ての宗教指導者による気候変動問題への貢献を歓迎する」と述べた。また、オバマ大統領は「教皇の決断に深く敬服する」と語った。

今、世界には、人類の安全保障を脅かす危険が2つある。その1つは、地球温暖化による気候の激変や異常気象の頻発、海面上昇の危険性、もう1つは野放図な核兵器の拡散による核テロや紛争の際の核兵器使用の危険性である。教皇は世界に多数の核兵器が残り、核拡散の危険性があることについても、2014年11月30日、「人類は原子力エネルギーを森羅万象と人類を破壊するために使った。人類は核問題について基本的な事柄も定められないでいる。人類は広島、長崎の被爆から何も学んでいない」と語った。

今回の回勅や教皇の一連の発言には、人類に襲いかかる恐るべき地球温暖化の被害や核兵器の使用、核戦争による惨禍を防がなければならないという、強い意志と使命感がうかがえる。それは弱者に寄り添う「貧者の教会」路線から発しているものであろう。この回勅が国際社会の温室効果ガス削減の取り組みによい影響を与えることを願わずにはいられない。

■ 環境ジャーナリスト・川名英之コラム:(1)(2)(3)(4)

川名英之

川名英之(かわな・ひでゆき)

環境ジャーナリスト。1935年、千葉県生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業後、毎日新聞社に入社。63~64年、ウィーン大学へ文部省交換留学。毎日新聞社では、社会部に所属し、主に環境庁・環境問題を担当、編集委員。90年、毎日新聞社を定年退職、環境問題の著述に従事。立教大学法学部、津田塾大学国際関係学科の各非常勤講師。主な著書に、日本の公害・環境問題の歴史をまとめた初の通史『ドキュメント 日本の公害』全13巻(緑風出版、87〜96年)、『世界の環境問題』(全11巻、うち既刊は第10巻まで)(同、2006~14年)、『なぜドイツは脱原発を選んだのか』(合同出版、13年)など。日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団小岩栄光キリスト教会員。

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