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み使いダニエル

(み使いダニエル・信仰者編)ケンジのものがたり 星野ひかり

2021年7月8日22時34分 コラムニスト : 星野ひかり
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(み使いダニエル・信仰者編)リカのものがたり 星野ひかり+

冷たいものに手首をつかまれ、暗い所に引きずり込まれることを感じました。暗い所は底が見えないそれは恐ろしい暗闇で、ケンジのことを、口を開けて待っています。その力にあらがって、叫んだ声で目を覚ましました。空の酒瓶がいくつも転がる中に、うずくまるようにして、ケンジは寝入っておりました。

身を起こして、先ほどつかまれていたはずの自分の手に目をやりました。固く握られたこぶしは震えていました。この手で、何度、愛する妻を、そして息子のコータを殴ってきたことだったか、思い出しそうになって身震いしました。伸びたひげを撫でつけて、自分を落ち着かせようとしました。

すがるように壁を見ました。そこには妻の愛したイエス・キリスト・・・木彫りの十字架がかけられておりました。

ケンジは力なく笑いました。「まさかこの私だけは、お赦(ゆる)しにならないでしょう・・・」

イエス・キリストの隣に、十字架にかけられた罪人が見えるようでした。イエスはその罪人にほほ笑んで、「あなたは今日、私と共にパラダイスにいるでしょう」そう言われたことを思い出しました。

それでもケンジは首を振りました。「私の罪は、その罪人よりももっともっと重いのです」。そう言って、拳を震わせました。

手探りで、まだ入っている酒瓶を探しました。見つけるとそれを喉に流し込み、しゃっくりを上げました。こうして自分で自分を諦めることが、ケンジにとって唯一の、罪償いのような気がしていたのです。

妻の遺影の横には、庭で摘んだ菜の花が、花を落としてしおれていました。妻を叩きのめし続けた揚げ句に、妻は心を病んで、そのまま一昨年に亡くなりました。妻の愛したイエス・キリストを知りたい気持ちから、近くの村の教会にケンジも通い始めました。しかし、続けることはできませんでした。聖書を知るほどに、自分の犯してきた過ちが迫ってきて、どうしても、自分が ‘赦されている’ とは思えなかったのです。

「イエス様は本当の神様で、妻も天国に行っただろう。しかし、世界中の人が赦されても、自分だけは赦されない」それがケンジの信仰でした。

もう自分は ‘キリスト’ はいいというのに、牧師先生や教会の人は、たびたびケンジの家を訪ねました。手作りのお弁当や、イエス・キリストにまつわる本を持って来ては、また教会に来るように誘いました。

おぼつかない手で、ジョッキに焼酎を注ぎました。そのジョッキは、父の日に息子のコータから贈られたもので、メモリが細かく記されてありました。ビールなら一日にここまで、焼酎なら一日にここまで、日本酒なら・・・と、細かく一日の摂取量が線で引かれているのです。もちろんケンジはそんなメモリは無視して、なみなみと焼酎を注ぎました。それでもコータから贈られたジョッキを、それは大切にしていました。

「こんな俺の体を気遣うなんて」。ケンジは忌々しく、そして愛しく思いました。コータは遠く離れた街で、家庭を持って幸せにやっているようでした。そのことがケンジの救いでした。

小さなコータの泣き声が聞こえてきます。「お母さんをぶたないで」。妻のか細い叫び声も聞こえてきます。「子どもには手を出さないで!」

まるで自分は鬼のようでありました。顔を酒で真っ赤に火照らせて、「舐められてはいけない」「ぜんぶこいつらのせいだ」悪魔のささやきに目を吊り上げて、赤い鬼のようになりました。ケンジの拳に、足に、悪霊が宿っておりました。叩きのめし、蹴り上げながら、ケンジは叫んでおりました。「助けてくれ」

神様は、そしてダニエルは、その頃よりずっとケンジの叫びに目を留めておりました。悪魔もケンジを離しませんでした。その心の繊細で、傷つきやすく、卑屈なところに悪霊をすべりこませ、ケンジの体に巣くわせました。それは、妻のどんな献身をも跳ねつけました。妻がついに心を病んだとき、ケンジは自分のしてしまったことに気付き始めましたが、この男を救えるのは、もはや神様ご自身でしかなかったのです。

神様は、み使いたちを遣わして、幾度もケンジに手を差し伸べました。「この手を取りなさい」そう切にケンジを求めました。しかしケンジはその手を何度、振り払ったことでしょうか。コータや妻が、神様を信じ始めたときも、ケンジの心はひねくれて、「もしも神がいたならば、俺の人生はこんなものではなかった」と心に言い続け、神を憎みました。

この暗闇の世界に、十字架は唯一光り輝いて、旗のように立っており、神の愛を証明し続けておりましたが、ケンジの目は卑屈に閉ざされ、その光を見ることはできなかったのです。

そんなケンジも、ようやく年老い、体は自由が利かなくなってきました。かたくなな心も、長い年月をかけて柔らかくされてきました。今ようやく、神様の前に降参するように屈服し、「あなたはいる」そう告白するまでになりました。しかしそれでも、自分の罪をすべて赦し、神の民と加え、神のまぶしい国に招かれているとは信じることができませんでした。

木彫りの十字架を見上げては、ため息をつきました。ケンジは、神様にはお赦しになれる罪の臨界点のようなものがあり、自分はそれをもう超えてしまったのだと思っていたのです。しかし神様は、ご自身に来ようとしているものを拒まれるわけはありませんでした。ケンジの諦めを、神様は見つめておりました。

そのまなざしと同じような悲しい瞳で、神様のお造りになったみ使いたちはケンジを見つめておりました。ダニエルもその一人でした。

あくる朝、ケンジの家のチャイムが鳴りました。やれやれ、とケンジは身を起こしました。「また教会のやつらか」そう思ったのです。この前、ケンジの通っていた教会の牧師が訪ねたとき、間もなく退任するのだ、と残念そうに言っていました。あの教会に新しい牧師が来るのかと、ケンジも一応思い巡らせていたのです。「そうしたら、このしつこい訪問もなくなるだろう」と。

縁側を開けると、玄関のほうに一人の背の高く、髪のとても長い、男か女かも見分けのつかない風貌の人が立っているのが見えました。ケンジは「なんだ、お前」と億劫そうに声を掛けました。その人はケンジをじっと見るとほほ笑んで、縁側のほうに進み出て、縁側の淵に腰かけました。そして口を開いたかと思ったら、「日も浴びていないようですね」と言い、つらそうにケンジを見つめました。そのまなざしが、あまりに優しいものだったので、ケンジはつい、「ああ」と答えて、伸びきったひげを恥ずかしそうに撫でました。

「罪のことで苦しんでおられるのですね」。その人は、そう言うとケンジの肩を抱くように撫ぜたのです。ケンジは不思議と嫌な気はしませんでした。ふと、教会の新しい牧師なのだ、と思いました。

「教会はもういいんです。俺は一人で好き勝手にやってますから」。そう言ってうつむきました。「あなたが良くても、‘あなた以外の者たち’ は、良くないでしょう。あなたが苦しんでおられることを悲しんでいるのですから」

ケンジは不思議な心地がしました。その人の声色を聞くとなぜか心が柔らかくされ、正直になってしまうのです。そして、久しぶりに見た庭先や、その先の野山がやけに輝いて見えるのです。芝まで朝露で七色に煌めいて、花や木々は今にも歌いだしそうなくらい、生き生きと輝いているのです。

「俺は、赦されなくてもいいと思っているんです。赦されるような人間じゃないんです」。ケンジはそう告白していました。

「あなたはずいぶんと高慢ですね」。その言葉に驚きました。「どういうわけですか?」ケンジは聞きました。その人は言いました。

「・・・あなたはどれほどにご自分が聖いとお思いですか? また人間が聖いとお思いですか? すべての罪赦された者たちが、どれほどに聖いものであったことでしょう」

「それは・・・」。ケンジは言葉に詰まりました。そして、眼前に迫るように聖書の世界が広がっていったのです。イエス様の足に油を塗って涙で拭いた罪の女、イエスに見いだされた取税人のマタイにザアカイ、夜闇の深い中、イエスのもとを訪ねたニコデモの姿が、まるで目の前で映画が繰り広げられるように見えたのです。その有名な一人一人であっても、十字架につけられなければならないほどの罪を背負って、イエスのもとにひざまずいておりました。

「俺は・・・」そう言いながら、ケンジは涙をぽろぽろと流しました。「イエス様はおっしゃりました。多く赦されたものは、多く愛するものになる、と」。その人は、そう言ってケンジの伸びきったひげを愛しそうに撫ぜました。

ケンジは体を丸めて泣きました。そして幼子が駄々をこねるように、「許されちゃいけない、許されちゃいけない」と言いました。

まなざしを感じていました。それは慈しみに満ちており、悲しみに満ちており、十字架についたイエス様のまなざしのようでありました。

「あなたは、イエス様と共に、かならずパラダイスに住むでしょう」。その言葉に驚いて顔を上げると、その人はもうおりませんでした。ケンジは庭を走り、その人を探しましたが、見当たりませんでした。

その後、ケンジはその人に会いたい一心で、日曜日を待ち、身なりを整えて教会に行きました。すると、若くて柔和な夫妻がおり、新しくこの教会で牧師を務めているのだとあいさつをされました。ケンジの家を訪問しようと思っていた矢先だったと言っていました。ケンジは驚きましたが、席に着き、礼拝に参加しました。信徒たちも、ケンジが来たことを喜んで、次々に声をかけてくれました。

ケンジは説教を聞きながら、天を見上げました。そこには計り知れない神様の不思議があり、ケンジは自分が愛されていることを知らずにはいられない思いがしました。説教の中で語られたみことばは、まるで神様がケンジに与えてくれているようでした。

「あなたはわたしの魂を黄泉に捨ておくことをせず、あなたの聖者が朽ち果てるのを、お許しにならないであろう」(使徒2:27)

ケンジは子どものようにしゃくりをあげて泣きながら、説教に耳を傾けました。

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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