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21世紀の神学

21世紀の神学(10)直木賞受賞作品『宝島』を読んで 山崎純二

2019年4月1日18時33分 コラムニスト : 山崎純二
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関連タグ:山崎純二
21世紀の神学(10)直木賞受賞作品『宝島』を読んで 山崎純二+
真藤順丈著『宝島』(講談社、2018年6月)

私は現在、沖縄に移住して5、6年がたっているのですが、沖縄を舞台にした『宝島』という作品が直木賞を受賞したということで、手に取ってみたのですが、すぐにその世界に引き込まれ、一気に読んでしまいました。今日はこの本の魅力をお伝えしつつ、大切なポイントを皆様と一緒に考えていければと思います。ネタばれはなるべくしないように書きますが、少しは内容に踏み込みますので、気になる方は先に作品を読まれることをお勧めします。

■ 作品の魅力

まず、読み始めてすぐに驚かされるのが、うちなーぐち(沖縄の方言)が随所に散りばめられていることです。しかも、読んでも分からないような言葉は、日本語と併記されており、その他の箇所は、方言を知らない人でも何となく分かる程度に適度に織り交ぜられています。

しかもそれらが、無機質に使われているのではなく、ストーリーの中で激高する場面や情感の豊かな場面などに、その言霊が叫んでいるかのように使われています。他の方々の読後レビューなどを見ると、読んだ人々の心の内にそれらの言霊が刻み込まれていることがよく分かります。”あきさみよう!”

そして、読んだ人が驚くのは、それが沖縄とは縁もゆかりもない東京の著者、真藤順丈さんによって書かれていることです。真藤さんは、多くの資料を読み込み、7年の歳月をかけて書き上げたということです。

しかし、いくら調べたとはいえ、ここまで沖縄の人々の心情を深く、適切に表現されたということは驚嘆に値します。言葉だけではありません。読めば分かることですが、真藤さんは50年近く前の沖縄の歴史、文化、そしてなにより「時代の空気」というものを、実にリアルに描き切っています。”あきさみよう!”

沖縄の歴史といいますと、多くの苦しみや悲劇があったことを想起される方も多いと思います。確かにその通りなのですが、真藤さんはそれらの歴史の重みを薄めることなく、物語の中に「明るさ」や「ユーモア」をも入れています。

そして、それはまさに沖縄(シマ)の方々の生きざまでもあります。苦しく悲しい歴史を背負いつつも、お互いに「なんくるないさ」と励まし合いながら、助け合い、笑い合う、そのような情感が文書の節々からにじみ出ています。個人的には、真藤さんの文章そのものの表現力や自由奔放さにも大変魅せられました。1カ所だけ引用させてください。

ちゃらんぽらんなお調子者(テーファー)で、それまでの十九年間を流されるままに生きてきた男だけど、それでもグスクはこの沖縄(シマ)の若者だ。ほかでもない”鉄の暴風”を生き抜いた若者だよ。だからよく知っているのさ。この島の宴会(スージ)の多幸感を。おのずと手や足が動きだす幸福な一体感を。喉が渇ききったときの水の美味しさを。二度寝の気持ちよさを。島の娘たちの肌がどんなに熱くて柔らかいかを。にぎわう市場から静かな海辺へ移ったときの、あの心地よい魂の揺らめきを - 知っているからこそ、飽くなき命(ヌチ)への執着から、危機に対する驚くほどの耐性や瞬発力を呼びさますことができるのさ。(本書33ページ)

命を狙われながら逃走している中での緊張感と、沖縄の情景や登場人物の心象が目に浮かびます。読者である私の胸中にもいろいろな感情が沸き起こり、しばらく本を読み進めることができませんでした。そして、そのようなことが度々続きました。”あきさみよう!”

■ 作品のあらすじ

さて物語は、第二次世界大戦直後の沖縄が米国に統治されていた時代のものです。その時代、人々の生活はとても苦しく、生きるや死ぬやという状況にありました。そこに登場するのが本書の登場人物たちである”戦果アギヤー”です。

彼らは、米軍から物資を”戦果”として盗んでは逃走し、極度に困窮している住民たちにその物資を配って回る若者集団です。このことは確かに違法行為でしたが、彼らは生きるために、また愛する人を生かすために”奪われたものを奪い返すのが流儀だ”と言って悪びれません。この物語を読むと、「正しさ」とは何かということを考えざるを得ません。

また作品は、単なる歴史小説ではなく、主人公がいきなり疾走して、残された仲間たちがその謎に少しずつ迫っていくというミステリー性もあります。そして、その仲間たちも皆とても魅力的です。それぞれが喪失感を抱えながら、自分と沖縄がどのように生きていくのが正しいのかというのを必死に模索し、時に慰め合い、時に銃口を向け合いながら、それぞれが成長していく過程が描かれています。

■ 歴史への向き合い方の卓越性

さてこの本の卓越性は、文章の豊かさや美しさ、そして「うちなーぐち(沖縄の方言)」という固有性だけではありません。私たちが難解な歴史を語り得る最良の道が示されています。

私は、普段は外国の方々を対象に沖縄で通訳ガイドをしていますので、文化や歴史の話をする機会が多くあります。そしていろいろな方と歴史の話をするときに、多くの人は一面的な理解しかできないことに気付かされます。自分の国の立場や、自分の置かれている時代の常識などにとらわれて、相手の気持ちや立場などをくもうとしないことがほとんどなのです。そして多くの場合、自己を正当化して、理解できない相手の言動を非難し合うようなことになってしまいます。

すこしマシなのは、教科書的な中立の立場でファクトだけを知ろうと努める方法です。沖縄の歴史に関しても、ガイドになるための教科書のようなものがあるのですが、それには起きた出来事がなるべく中立的な立場で、淡々と羅列されています。そこには、誰かを非難する感情的な表現はありません。このような本を通して、私も少しは知っていたつもりだったのですが、今回この本を読んで、自分が何も知らなかったことに気付かされました。

本書の主人公たちは、自分たちの平和が脅かされ、土地がコーラ1本の値段で買われ、そして大切な子どもたちの命が奪われていったことに関して、感情を抑えたりせずに、慟哭(どうこく)し、非難し、怒りをあらわにしています。

当時の人々の絶望感や悲しみ、そして、そのような中でも生きようとする情熱がひしひしと伝わってきます。と同時に、物語の中には複数のキャラクターがいて、米国の統治者側の苦悩や白人兵と黒人兵の葛藤なども描かれています。

つまり、小説という形態で歴史を語ると、特定の個人やグループを一方的に批判したり、もしくは角が立たないようにオブラートに包んだりすることなく、重層的にさまざまな立場の人々の生の感情を描くことができるのです。そして、それを読む読者は、特定の個人や国やグループを批判することなく、リアルな歴史の一場面に向き合うことになり、ひいては自己の内面に向き合うことになります。

また、彼らの怒りは米国に対するものだけではありませんでした。むしろそれ以上に彼らが敏感であったのは、日本(ヤマトゥ)の“ユクシ”でした。当時、多くの沖縄の方々は、米国の横暴から解放されるために、本土復帰運動を目指して闘争していました。

しかし、その日本(ヤマトゥ)が沖縄の犠牲を対岸の火事として、米国の機嫌を損ねないために沖縄の住民に対して“ユクシ”を重ねていたことに、どうしようもないやるせなさを感じていました。それは「土地の叫び “シマ・ヌ・アビー”」として発露し、「おためごかし “ユクシ”、空約束 “ユクシ“、口からでまかせ ”ウフユクシ“」という土地の言葉で表現されています。

もちろん本土の人の中にも、沖縄のことを自国の問題として、諸問題の解決のために労苦を惜しまなかった人々が大勢いたでしょうし、自分たちも敗戦の中から立ち直ろうとして必死であり、遠い沖縄にまで想いが及ばなかったという事情もあるでしょう。しかしそれはそれとして、私たちは本書を通して沖縄の方々の通ってきた歩みを非常にリアルに追体験することになります。これは、いくら夕方のニュースキャスターの説明を聞いても分からないことです。

■ 弱者に寄り添うということ

さて、突如として失踪してしまった”戦果アギヤー”の大将である主人公は、長い間多くの人々に慕われ続けました。それは、彼が自らの命の犠牲を顧みずに、多くの”戦果“を奪い、それを弱者、子ども、貧しい人たちに分け与え続けたからです。

彼の仲間たちも、同じように1人の孤児に寄り添い続けます。この孤児もストーリーの中で大きな意味を持つのですが、それはともかくとして、このように弱者に寄り添い、お互いに寄り添い合うということがいかに大きな意味を持つのかということが、作品全体の底流をなしています。

■ 目に見えない世界

もう一つ、物語の全体を貫いている感覚というものがあります。それは、目に見えない世界との有機的なつながりです。今でも沖縄の各所には「御嶽(ウタキ)」と呼ばれる拝所が各地にありますが、それはこの物語の中でもキーとなっています。最後の方で登場人物の一人がこのようなことを言います。

おいらたちは、どこに行くんだろう。
どこから来て、どこに向かうんだろう。

多くの人が命を落としていく過酷な時代の中で、沖縄の人々は、一方では「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」と言いながら命を尊重しつつ、他方では目に見えない死後の世界に対しても、虚無的でないリアリティーを持っています。現世の成功や利己的な利益だけを追求する今日の社会において、これらの感覚が、多くの読者の心の琴線に触れたことは間違いないでしょう。私たちは皆、一様に死を迎える者だからです。

◾️ 最後に

キリスト者は、沖縄の伝統的な宗教観とは一線を画していることは確かですが、弱者に寄り添う温かさや、目に目ない世界へのリアリティーを持つということに関しては、感じるところがあると思います。複雑な歴史への向き合い方や、”ユクシ“との対峙、そして”正しさ“とは何かを考える上でも一読の価値があります。難しいことは抜きにしても、単純に卓越した稀有(けう)な作品であるので、ぜひ多くの方に読んでほしいと思います。”あきさみよう!”

■ 真藤順丈著『宝島』(講談社、2018年6月)

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◇

山崎純二

山崎純二

(やまざき・じゅんじ)

1978年横浜生まれ。東洋大学経済学部卒業、成均館大学語学堂(ソウル)上級修了、JTJ宣教神学校卒業、Nyack collage-ATS M.div(NY)休学中。米国ではクイーンズ栄光教会に伝道師として従事。その他、自身のブログや書籍、各種メディアを通して不動産関連情報、韓国語関連情報、キリスト教関連情報を提供。著作『二十代、派遣社員、マイホーム4件買いました』(パル出版)、『ルツ記 聖書の中のシンデレラストーリー(Kindle版)』(トライリンガル出版)他。本名、山崎順。ツイッターでも情報を発信している。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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