神学書を読む(34)佐藤優著『新・学問のすすめ―脳を鍛える神学1000本ノック』

2018年8月28日16時21分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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佐藤優著『新・学問のすすめ―脳を鍛える神学1000本ノック』(文春文庫 / 文藝春秋、2018年7月)
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前作『悪魔の勉強術』(文春文庫 / 文藝春秋、2017年3月)に続く、同志社大学神学部での特別講義を文字に起こしたものである。ハンフリート・ミューラーの『福音主義神学概説』や、アリスター・マクグラスの『キリスト教神学入門』などをテキストとしながら、学生たちに該当箇所を読ませ、それに佐藤氏が解説を加えるというやり方となっている。

全6講(章)のうち「神学とは何か」について力点を置いて解説している1章と2章が個人的には面白かった。後半の終末論(5〜6章)は知らないことが多くあり、副題にもあるように、私も佐藤氏から「1000本ノック」を受けているような感覚になった。

佐藤氏の一連の「神学本」に共通しているポイントは、「神学は他の実学とは異なるやり方で『この世で役立つ』」ということ。本書(講義内)でも次のように述べている。

「神学は総合学です。この世の神羅万象に関する神学があるのです。神学は人間をトータルに取り扱うから、人間の営みには全部神学的なアプローチができると、われわれ神学者は考えるわけです」(152ページ)

「われわれキリスト教プロテスタント的な考え方では、この世における神羅万象は、すべて聖書に書かれていることと何らかの類比的な関係を持っていると考える。神学的に追求していくとそれが確かにわかるので、一見関係ないものの間に実はどういう関係があるかということが見えるようになる。その力をつけるのが神学を学ぶということであって、神学の力なのです」(187ページ)

「神学とは何か」という問いに対し、本書ではかなり突っ込んだ議論も展開されている。それは本書96ページからの「信仰がなくても神学はできるか」という命題である。マクグラスの著作をひもときながら、「宗教学部と神学校」という具体的なところまで掘り下げていく。歴史的な蓄積がない日本でこういった議論に真正面から向き合う機会はあまりない。私も読み進めながら(ノックを受けながら)、長年分からなかったところがすっきりと整理された。

本書には2つの効用があると思われる。1つは「佐藤優」という人物の思考、特に(米国的なキリスト教に対峙する)欧州的なキリスト教の伝統から導き出される論理展開を、こちらが受け止めるということである。

博覧強記な知識量と理論展開はいうまでもないが、米国式(福音派・ペンテコステ諸派的)キリスト教文化の中で育った私にとって、佐藤氏の語る「キリスト教」の欧州的側面は、自分たちのルーツを垣間見せられたかのような感動がある。

もう1つは、佐藤氏が紹介してくれる著作とその背景である。例えば、ミューラーの『福音主義神学概説』は知っていても、著者がどんな人物であり、どのような文脈の中で同書が書かれたのかなど、知らない人も多いだろう。そういったことがコンパクトにまとめられている。マクグラスの著作に対して、「自習できるようになっているし、読み物として読める。(中略)ただ、危ないですよ。これはイギリスの国教会(聖公会)の立場にどんどん引き寄せようとしているから、中立的な教科書ではありません」(105ページ)というコメントを付している。内容の是非ではなく、このようなコメントを予め述べておくという姿勢に筆者の矜持を見る思いがする。

少し難点があるとすれば、学生たちからのレスポンスが「いかにも」という通り一遍のもので、面白みに欠けることだ。講義の臨場感をあまり受け取れないということである。むしろ本書は、佐藤氏のコメントと彼が選択した参考文献の読み合わせによって、読者である私たちに向けてまさに「1000本ノック」を打ってくるようなものである。

1000本すべてをフォローすることは不可能である。読み手である私たちは、その中の数十本でも受け止められたらいいくらいだろう。それほど本書が扱う内容は多岐にわたる。

とはいえ、私も神学を追究している者の一人である。あれこれと考えながら読み進めていったため、わずか300ページ足らずの文庫本ではあるが、読み終えるのに1カ月もかかってしまった。内容が難しかったわけではない。提示された事柄に刺激を受け、思索を深めていくことが楽しかったのである。そういった意味で、至福の1カ月を過ごすことができた。

本書は好き嫌いが分かれるであろう。佐藤氏の話し方、対象となる神学者やテーマに対する解説、そもそも本のタイトルの付け方(前回が『悪魔の勉強術』、今回の副題が「脳を鍛える神学1000本ノック」)でスルーしてしまう方もおられるだろう。

だが一度手に取るなら、また、提示される問題意識に真正面から向き合う覚悟を決めるなら、この上ない刺激を与えてくれる書であることは間違いない。ぜひ、ゆっくりと時間を取って読み進めてもらいたい1冊である。

■ 佐藤優著『新・学問のすすめ―脳を鍛える神学1000本ノック』(文春文庫 / 文藝春秋、2018年7月)

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青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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