子どもたちをどう守るか―児童福祉の現場から(1)数字で見る虐待の現状と現場の実情

2018年6月28日07時23分 コラムニスト : 千葉敦志 印刷
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+数字で見る日本の児童虐待の現状と現場の実情
※ 写真はイメージです。
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2016(平成28)年度中に、全国210カ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は12万2578件(速報値)で、前年から1万9千件余り増え、過去最多となりました。そのうち警察からの通告は5万4813件(同)と報告されています。

また、同年度中に厚生労働省が把握した虐待による子どもの死亡事例は、心中以外の虐待死事例では48例(52人)、心中による虐待死事例(未遂により親は生存したが子どもは死亡したものを含む)では24例(32人)であり、総数は72例(84人)と報告されています。

児童養護施設は全国に603カ所あり、3万2613人の定員が確保され、2万7288人が入所しています(2016年10月1日現在)。このうち虐待を受けた児童の割合は約6割です。また、全児童の平均在籍年数は5年弱と報告されています。0歳児は乳児院で受け入れますが、全国に136カ所あり、3877人の定員に対し、入所者は2901人と報告されています(同)。

つまり、全国のどこかで毎月1万件以上の虐待通報が寄せられているということです。計算すれば1日で300件を軽く上回る虐待が通報されているということです。これはあくまで通報事例の話で、それ以外にも虐待が水面下でどれほど行われているかは、想像するしかありません。さて、虐待を受けた児童が保護される先が乳児院・児童養護施設ですが、年12万件超の虐待相談件数に対し、その定員は合わせて約3万6500人です。この数字が多いか少ないかは、それを受け止める人によって違うでしょう。

さて、虐待の通報で受けた案件は、児相と警察の双方に連絡が行きます。当然、児相や警察は保護者を呼び出し事情聴取をします。この過程で保護者に対しては「始末書」のようなものを警察の指導の下で取ったり、警告を発したりします。

また、児童に対しても保護者を抜いた個別の聞き取りを行います。この中で児童に対しては「保護を求めるかどうか」をかなり突っ込んだ立ち位置(保護者などを除外した形)で意思確認します。もし、児童が保護を希望する場合には、最優先で保護が行われます。

しかしながら、夫婦間のドメスティックバイオレンス(DV)にしても児童虐待にしても、もはや共依存関係が成立している場合が多く、残念ながら、相当強く指導しても元に戻りたがる傾向があります。ここが現場の最も苦しむ部分です。

虐待を受けている人は、虐待そのものを愛情と捉えることが多く、それに耐えることが愛情表現だと考えている向きがあります。また、自分に原因があると思っているため、その部分を自分が改められれば、虐待がなくなると信じている傾向があります。

虐待やDVなどの場合には、被害者の方が引越しや離別などの大きな精神的ダメージを受けざるを得ないということも問題です。たとえ保護をしたとしても、学校など、児童を取り巻く環境をどう守るのかといった課題も山積しています。多くの場合、友達にさようならを言う間もなく、児童養護施設に入所、そこから最寄りの学校に通うことになります。その過程の中で、今度はいじめなどに遭う子も少なくありません。

そもそも、虐待事件が報道されるたびに、虐待を受けた児童は国が保護するべきだという声が出ますが、虐待を通報された該当児童を全員保護して国が面倒を見るとしても、中学校卒業までなのか、高校卒業までなのか、どのレベルの生活を担保するのかも重要な問題です。仮に児相に相談が寄せられた12万人の全児童の生活を担保するためには、平均受け入れ人数を50人としても既存の施設にあと1800施設の追加が必要となりますし、その施設一つ一つには、十数人程度の職員が必要になります。経費としてみれば、1人当たり最低でも平均月額20万円はかかると思われます。そうすると、少なく見積もっても年間で3600億円ほどの経費が追加で必要になる計算です。さらにその施設で働く1万8千人ほどのスタッフを追加で育成・確保しなければなりません。

また、保護期間も無期限という形にはなりません。一時保護期間は原則2カ月間(延長あり)です。児童とは法的には0~18歳までを指しますが、義務教育年齢は16歳までです。よく「16歳の壁」と言われますが、16歳の誕生日以後に関しては、児童の希望が強く優先されていきます。もし仮に、親元に帰りたくないという形になれば、児童養護施設から里親へと進みますが、その里親制度がなかなか進展しない現状もあります。

また一度保護すれば、その子が成人になるまで相当な深度で継続的に支援を続けなければなりません。

虐待のケースですが、最悪化するパターンとして最も多いと私が認識しているのが、連れ子に対する虐待です。しかし、たとえ虐待死の全原因を連れ子再婚に求めたとしても、1年間の虐待死件数は72件です。それに対する、連れ子再婚する夫婦の全数とははるかに開きがあることはご想像に難くないと思います。

この仕事は失敗することが許されない仕事です。一人たりとも虐待で命が奪われることがあってはならないと強く思っているスタッフがほとんどです。当然、すべての事態を想定に入れて動くことが求められます。しかし、たとえ12万人のうち11万9999人を何回も適切に助けたとしても、1人が虐待死すれば失敗です。スタッフもそのことを強く自覚しています。

しかし、もともと通報事案になる虐待はもはや相当根深い状態になっています。行政、警察、支援員などが寄ってたかって総力を結集しても残念ながら力が及ばないケースが少なくありません。

また、リスクばかりが見える仕事であることなどが極度の人材不足を生み出しており、それと同時に予算不足、さらにその両方が相まって研修などを積む余裕もなく、専門的な技術を持つ人がなかなか増えないのが実情です。(続く)

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千葉敦志

千葉敦志(ちば・あつし)

1970年宮城県生まれ、青森県在住。日本基督教団正教師(無任所)。教会付帯施設の認可保育所の施設長として、保育所の認定こども園化を実施。施設長として通算10年間、病後児保育事業などを立ち上げたほか、発達障害児や身体障害児の受け入れや保育の向上に努め、過疎地域の医療的ケア児童の受け入れや地域の終末期医療を下支えするために、教会での訪問看護ステーション設置などを手掛けた。児童福祉の制度研究とその実践および講演活動を行っている。現在はこれまでの経験に基づいて「保育所等訪問支援事業」を行う保育支援センターを立ち上げ、乳児・幼児・児童の福祉の底上げ、施設の支援に奔走している。

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