対IS作戦、イスラエル・パレスチナ紛争の行方は? NHK解説委員が教会で講演

2015年7月3日13時35分 記者 : 守田早生里 印刷
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講演を行ったNHK解説委員の出川展恒(のぶひさ)氏=6月28日、カトリック吉祥寺教会(東京都武蔵野市)で

認定NPO法人「聖地のこどもを支える会」主催による講演会「混迷する中東情勢を読む」が6月28日、カトリック吉祥寺教会(東京都武蔵野市)で開催された。講壇に立ったのは、NHKエルサレム支局長、カイロ支局長などを歴任し、現在はNHK解説委員として、多くの視聴者に「わかりやすい解説」で定評のある出川展恒(のぶひさ)氏。この日集まった聴衆およそ100人を前に、現在の中東情勢について、さまざまな角度から解説した。

対IS作戦は「一進一退」

「対IS(イスラム国)作戦の行方」「イラン核協議の行方」「イスラエル・パレスチナ紛争の行方」の3つのテーマについて話した出川氏はまず、「ISに対する軍事作戦は、一進一退だ」と語った。昨年6月、ISはたった1日でイラク北部の都市モスルを制圧。「イスラム国」の樹立を宣言した。これに対し、イラク政府軍は、戦闘能力も国防意識も低く、モスル制圧時には、大量の武器や軍用車両を捨てて逃げてしまった。ISは、これらの武器や中央銀行の支店の金庫に残っていた莫大な額の金を労せず入手し、急速に勢力を拡大した。

「ISによる自爆攻撃にイラク政府軍は太刀打ちできない」と出川氏は言う。そして、ISがアルカイダなど従来のイスラム過激派組織と大きく異なるのは、自分たちの領土を獲得し、それを拡大してゆくことを目標としている点だと解説する。ISの支配地域は、イラクとシリアにまたがっている。イラク、シリアの両政府は、国境を管理することができず、戦闘員や武器が、自由に行き来できる状態だ。ISは、政府の統治が行き届かない場所を、自らの支配地域として取り込み、住民に極端な解釈のイスラム法を強制し、金を巻き上げたり、従わない人たちを大勢殺害したりしている。

なぜイラクでは、国民が一致団結してISと戦うことができないのか。「フセイン政権崩壊後の“民主的な国づくり”の失敗に原因がある。異なる宗派や民族どうしの対立を解消し、“挙国一致”の体制を確立して、ISに対抗してゆかなければ、イラクは分裂してしまう」と出川氏は指摘する。

一方、シリアでは、政府軍、反政府勢力、ISによる「三つどもえ」の内戦がさらに悪化している。戦闘の激化に伴い、難民や国内避難民の数も増え続け、約1200万人、シリア国民の半数以上が、住んでいた家を追われている。人道支援に当たる国連の機関は、資金不足が深刻化し、このままでは2カ月以内に人道支援活動のうち半分を停止せざるを得ない状況だ。国連は、一人でも多くの命を救いたいと緊急募金を呼び掛けている。

出口見えないイスラエル・パレスチナ紛争

イスラエル・パレスチナ紛争は、悪化の一途をたどり、解決の見通しが全く立たなくなっている。出川氏はまず、昨年夏、ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスとイスラエル軍の間で起きた戦闘について話した。50日間にわたった激しい戦闘で、パレスチナ側は、約2140人が犠牲になり、うち約500人は子どもだった。ガザ地区の家屋やインフラは徹底的に破壊された。イスラエル側の犠牲者は70人、うち兵士が64人だった。イスラエル軍は、住宅密集地を空爆するなどして、極めて多くの一般市民の命を奪った。出川氏は、ハマスがロケット弾による無差別攻撃を執拗に行ったことは厳しく糾弾されるべきだが、イスラエルの行動は国際社会では決して容認されていないと語った。

ガザ地区では、1年たった今も復興は全く進んでいない。世界銀行によれば、失業率は43%と世界最悪の水準だ。特に若者の失業率は60%を超える。ガザ地区の経済は、パレスチナ自治の開始から20年間、全く成長していない。相次ぐ戦闘のほか、イスラエルが続けているガザ地区の封鎖が原因だ。住民の間には、将来への絶望感が広がり、過激派が支持を伸ばす原因となっている。一方、イスラエルでは、今年3月、総選挙が行われ、ネタニヤフ首相が率いる極めてタカ派色の強い新たな連立政権が5月に発足した。選挙戦で劣勢が伝えられたネタニヤフ首相は、「パレスチナ国家は作らせない」と公約し、中断したままのパレスチナとの和平交渉が再開される可能性は非常に低い。

出川氏は、「イスラエルとパレスチナの若者たちが、現地で顔を合わせ、対等な立場で語り合う機会はほとんどない。皆さんが尽力しているように、遠く離れた日本に、双方の若者たちを招き、日本の若者も参加して、対話する機会をつくること。互いに汗を流し、助け合いながら、相手も同じようなことで悩む若者なのだと理解し合う機会は非常に貴重だ」と、講演会を主催した「聖地のこどもを支える会」が行っている活動の意義を話し、講演を締めくくった。

「聖地のこどもを支える会」は、代表の井上弘子さんが1980年代末にイスラエルとパレスチナを訪問した際、貧困のため学校にも行けず、観光客に絵葉書を売って日銭を稼ぐ子どもたちに出会ったことがきっかけで始まった。武力によらない「対話」こそが、中東に平和をもたらすと確信し、平和をつくる若者の育成のために、教育支援や両地域と日本の若者たちの間の交流プロジェクトなどを行っている。2003年にNPO法人格を取得、今年4月には認定NPO法人として認証された。

7月11日(土)には、ゴスペルシンガーの上原令子さんを招いたコンサートと、イスラエルとパレスチナの本場の料理を楽しめるチャリティーイベントを、聖パウロ修道会若葉修道院(東京都新宿区)で開催する。詳細・問い合わせは、同団体ホームページまで。

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